【感想】COCOON

今日マチ子 / エレガンスイブ
(75件のレビュー)

総合評価:

平均 4.4
34
21
7
2
0
  • 戦地で少女が想うこと

    『センネン画報』『みかこさん』など、思春期の少年少女たちの気持ちの揺れ動きを、透明なガラス細工のように美しく繊細に描いてきた今日マチ子。
    しかし一転、本作では圧倒的な暴力が少女たちに襲いかかります。

    沖縄戦のひめゆり学徒隊をモチーフとした本書。
    淡いタッチで描かれる少女の背中には大きなやけどの跡が残り、爆撃は一瞬で彼女たちの命を奪っていく。

    戦争の悲惨さを見せながらも、この作品は決して「戦争もの」に留まりません。
    このよう状況でも、無邪気に”女の子”であり続ける少女たち。
    そして、残酷な現実に戦う方法として描かれる「想像の繭」。
    単純な解釈を許さない哀しい物語は、読み手の胸に深々と刺さり、中々抜けてくれません。
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    投稿日:2015.02.17

ブクログレビュー

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  • 裏竹秋

    裏竹秋

    ☆3.5 徹底的な男性性の排除できらきら
     『編集とは何か。』(星海社新書)に、「cocoon」の秋田書店の担当編集者だった金城小百合へのインタヴューが載ってゐる。
     金城といふ苗字のとほり、沖縄のかただ。
     インタヴューによると、当時まだ20代の若手だった今日マチ子は、ひめゆり学徒隊の話を引き受けるのに躊躇した。しかし金城が作家の描く描かないの決意表明のまへに、先に沖縄につれていって取材をさせ、金城の叔父の家に泊めてもてなしもした。
     つまり、編集者が「引き返せない」やりかたまでさせた作品なのだ。
     そしてこの「cocoon」が、今後の作者の方向性を決定させもした。

     それが気になって読んでみた。

     この話は、今日マチ子のあとがきにあるとほり《時代も場所もあやふやな、夢のなかで再生される戦争の話です。》が正確だとおもふ。

     どことなく少女どうしの強い結束感がありながら、戦中のグロテスクさが遍在してゐる。
     しかし戦中とはおもへぬ、妙に透明で乾いたタッチにきらきらがある。作者が女性であり、かつ絵の非写実的なタッチもそれをふくらませてゐる。そしてその、どこかハードボイルドのタッチの少女世界が、ふいにあらはれるグロテスクさをきはだたせる。
     この印象に残る艶っぽさは、どうやら、少女しかゐない世界にあらはれた、東京からの器量よしの転校生・マユの存在と、そして蚕の繭=ガマに代表される少女的な空想メタファー(マユといふ名前もさうだ)が大きい。そして、マユといふ自律した存在の恢復役、または頼り頼られといった関係は、どこか百合のやうに見えなくもなかった。(真相は異なるが。)

     私には、いくらかきらきらが誇張されてゐるやうに感じるこの作品の少女世界が、実際に沖縄で経験されたことなのか、わからなかった。

     当時の男性的な戦争のさしせまる終局に、それも人間性すら木端微塵に破壊されうる緊迫に、こんな空想する余裕が、しかも少女性がはたして残ってゐたのか? それとも空想しかできぬほど追ひ詰められてゐたのか?
     この作品の主人公・サンは後者だ。グロテスクさも、まるでどこかファンタジー上のグロテスクさのやうな……

     さらにマユのやうに自律して正気を保ち、自決からも逃れる人間が当時実際ゐたのか? 現在の価値観をもった作者によって設定されたキャラクターと感じなくもない。

     乾いた筆致は少女の空想のうちでとまって、つきぬけなかった。いはば空想もまじへて追体験させる物語が、どれだけ実際であるか? 作者が体験したものでない以上、これが現実と地続きなのか、あやうさがつねにつきまとってゐた。
     それはなかばフィクションであるゆゑの問題でもあるのだ。
     やはり《夢のなかで再生される戦争の話》といふのが適当なところだらう。

     私がこれを読んで思ひ出すのは、メタファーにたいするスーザン・ソンタグの決意表明である。ソンタグは大江健三郎との往復書簡でも、大江の用ゐたメタファーを批判した(『暴力に逆らって書く』朝日文庫)。
     それは、危機的状況のなかでみづからメタファーに陥ることなく、むしろメタファーに抵抗する姿勢そのものだった。
     そして私も、できるならばさうありたいと希求するのだ。
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    投稿日:2023.11.29

  • SpoilSport

    SpoilSport

    ひめゆり学徒隊がモチーフの作品です。
    戦争という出来事が、遠い過去へと隔離された特別な物語としてではなく、今を生きる私たちと同じような目線や価値観で描かれています。

    投稿日:2023.08.31

  • mayugeco

    mayugeco

    クラスメイトとともに学徒隊として戦地に赴く女学生のサン。はじめは友だちと共に無邪気だったサン。しかし戦況の悪化とともにひとりまたひとりと友を失う。悲惨で酷い戦争。その中でも少女は少女。死んで生きた少女たちの物語。国や上でどんな理由があっても実際やっているのは人間同士の殺し合い。人が人の命を奪うほど無意味なことはないです。続きを読む

    投稿日:2022.08.23

  • かえで

    かえで

    ただただ、いまの平和が愛おしい。
    一方で、いまもまだ世界にはこの作品と同じ、むしろそれ以下の生活を強いられている人がいて、その現状を本当は今すぐにでも変えたいのに、変えることができない自分の無力さに愕然とする。
    自分の地位や名誉、財産を守る・増やすことだけを考えて、他人の幸せを顧みない愚かなことは辞めよう。
    すべての命は等しく幸せになる権利がある。
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    投稿日:2022.07.21

  • さっっっっっ

    さっっっっっ

    当時の女学生の目線で描かれた沖縄線。
    戦地で酷く、苦しんで亡くなっていった方達がどんなに辛かったのだろうかと思うと同時に、その全てを目にし、体験した上で、生き延びてその後の人生を生きていかねばならなかった方達がどんなに苦しく辛かったのだろうかと、想像してもしきれない。
    そして、その辛い記憶を掘り起こしてまで後世に伝えようとしておられる方々に心から敬意を表したいし、私たちの世代においてもこのように作品として残してくださる方がいることに本当に感謝したい。
    これから何年にも渡って読み返したいし、自分の子どもにも読ませたい。
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    投稿日:2021.07.02

  • 図書館員のひみつ基地

    図書館員のひみつ基地

    戦後世代の作者が沖縄戦のひめゆり学徒隊から着想を得て、「もし、自分がそこにいたら」と想像してつくった物語。
    戦場の少女たちの過酷な生と死が、柔らかく繊細なタッチで描かれています。作者は2014年に手塚治虫文化賞新生賞。続きを読む

    投稿日:2020.08.05

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