【感想】通りゃんせ

宇江佐真理 / 角川文庫
(18件のレビュー)

総合評価:

平均 3.7
2
8
5
1
0
  • 的確な時代考証を土台にしたSF時代劇

     25歳の若手サラリーマンである大森連は、失恋の傷を癒すために休日になるとマウンテン・バイクで走りまくっていた。ところが小仏峠周辺で道に迷い、滝の裏に墜落してしまう。目が覚めると、なんとそこは天明6年の武蔵国中郡青畑村であった。
     連は時次郎とさな兄妹に助けてもらいながら、連吉と名を変えて時次郎の百姓仕事を手伝うことになる。さらに忙しい時次郎に変わって、領主である江戸の松平伝八郎のもとを訪れるのだった。

     宇江佐真理と言えば、吉川英治文学新人賞を受賞したり、何度ともなく直木賞候補に挙がっている時代小説の旗手である。ところがなんと本書は、現代っ子の若者が江戸時代にタイムスリップして、川の氾濫や天明の大飢饉で苦しむ村人たちを助けるというSF絡みの時代小説だったのだ。
     ただしSF時代劇と言っても『戦国自衛隊』や『戦国スナイパー』などのように未来人が未来の知識や武器を使ってヒーローになるような大それた話ではない。せいぜい汚れた井戸水の簡易ろ過装置を創ったり、整体やストレッチの知識を生かして感謝される程度の活躍をするだけである。それより何と言っても、主人公・連の優しさと誠実さが脈々と流れてくるような清々しく凛としたストーリーに心を奪われるだろう。

     またさすが本格時代小説家だと感じさせる的確な時代考証を土台にした、現代と江戸時代の風俗や社会構成の比較描写は実に見事であった。それに加えてワームホールなどのタイムスリップ理論や、過去の改変によって引き起こされるタイムパラドックスについても言及しているところに著者の真摯な勉強熱心さを感じた。
     ただ高校時代の友人坂本賢介の存在や行動が、説明不足かつ中途半端だったところだけが唯一気に入らない部分だったような気がする。またラストでの早苗との遭遇はよくある映画のパターンで、ほぼ私の予想通りであったのだが、ずっと暗く苦しかった連にそのくらいのご褒美はあげてもいいかな……。
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    投稿日:2023.12.06

ブクログレビュー

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  • you

    you

    マウンテンバイクで旅をしていたら、ある時ワームホールにぶつかって江戸時代の農村に飛んできてしまう主人公のお話。飢えや理不尽な取り立てに苦しむ農民の生活を経験しながら、周りの人たちと絆を深めていく。後半の展開が多少好みではないけど、どんどん読み進めたくなる面白さがありました。続きを読む

    投稿日:2023.09.09

  • hito-koto

    hito-koto

    このレビューはネタバレを含みます

     一気に読了。宇江佐真理「通りゃんせ」、2010.10刊行、2013.12文庫。25歳の会社員、大森連は小仏峠でタイムスリップ、天明6年(1786年)の青畑村に。時次郎27歳に助けられ、妹さな16歳と3人で百姓暮らしを。天明の飢饉の時代、1年半を、連は現代の智恵を駆使することなく誠実に生きる。さなと所帯を持ってくれればと思いながら読み進める。さなが一緒になれないと絶望し自害したときは、ただ茫然。でも、再びタイムスリップした時、江戸での時間はゼロ。山手線で隣に座った青畑早苗との出会い、宇江佐さん粋な計らいです。

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    投稿日:2022.11.23

  • だまし売りNo

    だまし売りNo

    会社員が江戸時代にタイムスリップする小説。ライトノベルにありそうな展開であるが、タイムスリップ先が天明期の農村という点が地味であり、小説の奥深さがある。ラノベは転生先の人生に切り替えるが、『通りゃんせ』の主人公は自分がいなくなった元の世界について思い悩む。ラノベは転生先の生活に容易に適応するが、『通りゃんせ』は文明生活と異なる不便さを直視する。風呂やトイレに慣れるのに苦労した(52頁)。

    「マックのハンバーガーや分厚いステーキが無性に食べたくなった」(61頁)。感染症の流行で人々が死に絶えた世界で生き残った登場人物も「ハンバーガー食いてえ」と言う(リン・マー著、藤井光訳『断絶 (エクス・リブリス)』白水社、2021年、140頁)。文明生活を懐かしむとしたら、やはりハンバーガーを食べたくなるだろう。ハンバーガーは文明の凄さを体現するものではないが、無性に食べたくなる。消費生活の便利さを象徴するものと言える。

    江戸時代の人々は元号よりも干支を使っていた(63頁)。江戸時代の人々は元号の欠点を理解していた。元号は数年でリセットされるため、単位として欠点がある。頻繁にリセットされる単位としては不便なものである。この不便さは、大正という短い元号を経験した近代日本も認識していた。そのために戦前は皇紀が多用される傾向にあった。

    元号の欠点に戦後の日本人が気付かなかった理由は、たまたま昭和が長かったからである。単に特殊な昭和の事情を伝統と勘違いしてはならない。昭和レジームに固執するならば、皇紀を利用した戦前の日本人の方が賢いことになる。

    江戸時代の農民は虐げられるだけの存在ではなかった。「理不尽なことには徹底して異議を唱え、自分達の暮らしを守ろうとする。そのためには闘うことも恐れない」(136頁)。お上に従順な奴隷根性の日本人は明治以降の国家主義が作ったものと言えるだろう。
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    投稿日:2022.02.20

  • hanaasagi

    hanaasagi

    内容(「BOOK」データベースより)
    平凡な25歳のサラリーマン、大森連はツーリングに出かけた先で道に迷い、滝の裏に落ちてしまう。目覚めると、そこはなんと天明6年の武蔵国中郡青畑村―!?時次郎とさな兄妹の許に身を寄せ、川の氾濫や重い年貢が招く貧困等、江戸の過酷な現実を目の当りにしていく連。天明の大飢饉のさなか、村の庄屋が殺害される事件が起こり、連は思い悩みながらも自らの運命を切り拓いてゆく―。感動の長編時代小説!

    令和2年5月12日~14日
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    投稿日:2020.05.14

  • たつ

    たつ

    連が江戸時代の人間らしくなっていくのをみてなんだかしみじみとした気持ちになった
    個人的に時次郎がかっこいい。

    投稿日:2019.02.13

  • yyy333

    yyy333

    タイムスリップもあるが江戸時代の農家の生活が描かれる。歴史に名を残さぬ人々の生活を感じることができる。

    投稿日:2018.11.24

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