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ニック・チェイター, 高橋達二, 長谷川珈 / 講談社選書メチエ (13件のレビュー)
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総合評価:
ABAKAHEMP
『みんな心は薄っぺら』
今年読んだ本の中ではベストの書だ。 「感動した」とか「泣けた」とかじゃなくて、せっかく一冊本を読むなら、こういう盲冥を照らすような書を紐解くべきだなと改めて感じた。 共著であった『言語はこうして生…まれる』が面白く、訳者があとがきでも本書の紹介がしてあったので、興味がわき手にとったが、それでももっと話題になっても良さそうなのに、それほどでもないのはホント不可解。 強いて言えば、ちょっとタイトルが頂けないかな。 堅過ぎるし、ありきたりだし。 原題どおり『みんな心は薄っぺら』にすればと思ったが、ちょっと刺激が強すぎるか。 「心には”深み”も”奥行き”も”深層”もない。あるのは薄っぺらな表面だけ。心の奥に何かあるなんて信じてるのはオカルトですから、残念」なんて言ったら、自己意識を肥大させた読者の共感は得られんだろうなと思うけど、へたな心理療法にかかるよりよっぽど健康的だし腑に落ちるんだけど。 かつて話題になった『嫌われる勇気』は、本書だけで276万部発行され、しかも今も海外に読者を獲得していて、なんとシリーズ累計は全世界で1,000万部を超えるのだとか。 せめてその1/3くらいの読者を獲得してもバチは当たらないだろうに。 比較に出したからというわけではないが、無理に共通点を見つけると、両者ともどこに境界線を引くべきかという論点が通底している。 『嫌われる勇気』では、本来は他者の課題であるはずのことまで、「自分の課題」だと思い込むような承認欲求に縛られた生き方を否定するアドラー心理学を核として、「課題の分離」という考えを呈示している。 「ここら先は自分の課題ではない」という境界線を引き、他者の課題は切り捨て、自分の課題に集中しようと説いている。 一方の『心はこうして創られる』では、意識と無意識という従来の境界線自体を引き直す。 フロイト以来の精神分析で好んで常用されている、無意識という名の、水面下に暗く巨大な質量を秘めた氷山があるというメタファーなんて間違いだ、と。 そんな所に境界があるんではなくて、思考の意識的結果と、その結果を造り出した無意識のプロセスというところにこそ境界線があるのだ、と。 順に追っていくと、著者はまず、心の隠された深みの解明に失敗してきたのは理由があると説く。 そもそも「心には隠された深みがある」という発想そのものがデタラメだ。 心理療法、夢分析、何をどれほど試しても、人間の「真の動機」を取り出すことはできない。 見つけるのが難しいからではなく、見つけるべきものは何もないからだ。 心の内側の信念や動機や恐怖も、それ自体が想像の産物なのであり、その場でひねり出した自己解釈に過ぎない。 自分の知識や動機や欲望や夢についての私たちの説明は、実は薄っぺらな即興であり、事後的なでっち上げなのだから。 「人は自分の行動を説明するにあたって最終的な発言権など持ち合わせはしない。不完全な寄せ集めであり、どこまでも異論の余地があるという点で、本人の解釈と他人の解釈は何ら変わらない」 「私たちが自分や他人の言動を正当化したり説明したりするために語る筋書きは、細部が間違っているのではない。始めから終わりまで純然たる絵空事なのである」 こうなってくると行動の解釈の信憑性はどうなってしまうのか? 京アニ事件の裁判で、被告が事件の動機などに関して何を語るのかが焦点となっているが、どう考えたらいいのだろう。 検察は「犯行の動機は妄想だ」と主張しているが、著者の論に従えば、動機が妄想なのは被告だけなのかと問いたくなってくる。 困ったことにと言うべきか、我々の現実の人生も、小説などの架空のキャラクターの物語と大差ない。 主人公が何を信じ、どう行動するかといったことが創作であるように、私たちの信念や価値観も、その瞬間のうちに作り出されたもの。 内的な世界から生み出されてくるわけじゃない。 「思考というのは、創作作品と同じく、拵えたときに存在しはじめるのであって、その一瞬前にはどこにもない」のだ。 「心を覗き込む」なんて発想も誤りで、まるで自分の内側の世界をつぶさに調べることができるように考えてしまう。 しかし内観とは、内的世界の知覚ではなく創作だとすれば、内観する力なんてないし、そもそも内なる世界そのものが蜃気楼に過ぎない。 ただ我々は、自分自身の言葉や行動の意味をとるため、その都度リアルタイムで解釈をひねり出しているだけなのだから。 読者は小説の登場人物の隠された動機が行間に潜んでいるように感じているが、現実においても我々は、本人すらはっきりと把握できないような内的な欲望や動機に操られていると考えてしまう。 続きを読む
投稿日:2023.10.17
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くも
「深層心理」とか「本当の自分」とかなんてない、という主張の本。 今までの自分を振り返ってみると、「心は脳の即興」という筆者の主張がわかる気がするけど、だからこそ信念を持たなきゃならない、本当の自分に…気づかなきゃならないと考えてきたので、信念までも脳の即興だって言われて、共感半分、疑い半分の気持ちで読み進めた。 第11章までは、要は脳は一度に1つのことしか処理できないよね〜ってことと、だから「深層心理」なんてあるわけないよね〜ってことが多くの実験結果を引用して何度も書かれていた。実験の話はたまに「その実験結果からその結論にいくの…?」と思うところがあったけど、筆者の主張は理解。 でもずーっと「じゃあ心って何?」という疑問が頭を離れなくてイライラしてたんだけど、最後の方にきてちゃんとそれに答えてくれてて、それがすーっと腑に落ちたので、すっきりした気持ちで読み終えられた。 「信念」へのこだわりとか「本当の自分」に気づかない鈍感な過去の自分も許せる。だってそんなものないとわかったから。下手な自己啓発よりもずっと自己肯定感上がるし、未来に期待がもてる気がするけど。 続きを読む
投稿日:2024.05.06
くま
就活中に考えた「人生の目的」とか、流行中のMBTI診断とか、Strength Finderとか、本当の自分(の強み)を見つけよう、とか、全部疑わしく思えてきた。 本書に照らして言うならば、個性とかアイ…デンティティとか言うものは、今日まで生きた過程で得た経験の解釈(意味の押し付け)の中で最も馴染んだもの、程度のものであって、実際にはそれらに基づいて行動がされるわけではないんだな、と感じた。 にも関わらず、就活や転職活動で「あなたの軸は?」とか過去から今、これからやりたいことへの一貫性を問われるのは、都度都度の解釈で生きている、と言うことの説明を他人へすることの難しさからきているような気もした。 本音と建前ではないが、他人に対する自己紹介と、自分の意思決定との間の整合性なんて考える必要もないと思えばだいぶ楽になった。続きを読む
投稿日:2024.05.03
ろー
原題の「Mind is flat」のほうが内容を過不足なく表現している気もするが、まあ楽しい本だった。先に読んだ「言語は~」のほうは、言語のルールが即興ジェスチャーの伝統でしかないという話だったが、心…もまた経験から判断される即興の場繋ぎでしかないとは。 部分しか把握できない人間が、意識できないレベルでの視点移動で全体を把握しようとし、そうしたトリックを意識それ自体は把握できず、ただ入力される感覚情報に頼るしかないなどなど、得心が行くとともに実に興味深い話ばかりだった。続きを読む
投稿日:2024.01.18
らばぴか
人間に深層心理は存在せず、脳がたった今処理した情報から過去の記憶に関連づけて「即興」しているにすぎない、心に深さはなく薄っぺらであるという内容。なんとか最後まで読み通したけど似たような記述や比喩が多く…て斜め読みになってしまった。様々な図形を用いた実験の例は興味深かったけれど、筆者の主張に100%の説得力を持たせたかというと違う気がする……。最後の訳者の解説が端的にまとまっていて分かりやすかった。続きを読む
投稿日:2023.10.06
犬山犬男
「なんじゃこの即興芝居人生」と思いながら生きてきたので「てか他の人も皆んなそうだよ Don’t worry ひとつずつ解説していくねー」と言われた気がして好き。この本。オススメ本。
投稿日:2023.07.27
pankan
無意識、深層心理は存在しない。 自分が何を感じているのか、認識しているのか。 脳のフィルターを通したものしか認識出来ないし、元になる情報がどのような解釈や変換をされたのか、過程を知ることはできない。 …このラフな仕組みを持つことで今の生活が成り立っているのは不思議なことだ。続きを読む
投稿日:2023.06.24
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