【感想】昨日までの世界(上)―文明の源流と人類の未来

ジャレド・ダイアモンド, 倉骨彰 / 日本経済新聞出版
(47件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
10
18
11
2
0
  • シリーズ完結編かつ入門編

    『銃・病原菌・鉄』、『文明崩壊』に続く三部作?完結編です。

    ニューギニアの回想から始まった『銃・病原菌・鉄』のように、本作もまた著者の原点であるニューギニアから始まります。フィールドワークの体験談が多く、読み物としてもなかなか面白くなっていますが、後半の、宗教の機能と発達への文化人類学的アプローチやニューギニアで急増する成人病に対する生理学的な説明などに広範な専門知識を持つドクター・ダイアモンドらしい非凡さが顕れています。

    全体的な構造としては、1931年のニューギニア人「発見」当時と現在を対比させ、「昨日までの世界」と「今日」を比較していますが、これは前著『文明崩壊』において「過去の社会」、「現代の社会」として提示されていた(それぞれ前掲書第二部、第三部のタイトルです)見方をそのまま引き継いだものとなります。両方を取り上げた前作とは異なり、本作では「過去の社会」であるところの「昨日までの世界」を主に取り上げています。『銃・病原菌・鉄』においても「部族社会」として取り上げられていたあたり(前掲書下巻14章)ともリンクする内容であり、著者が度々取り上げてきたメインテーマの一つだということが分かります。
    とはいえ、前作、前々作とくらべるとかなり取っつき易い内容となっており、本書から入ってもまったく問題はありません。シリーズ未読・既読を問わずお勧めできます。

    一点、ご注意を。本書はハードカバー版を底本としているのですが、物理書籍版では文庫本が既に出ているため、電子版も遠からず文庫版ベースのものに切り替わるのではないかと思います。念のため。
    続きを読む

    投稿日:2017.12.28

ブクログレビュー

"powered by"

  • motoy0415

    motoy0415

    自分が持っているあらゆる価値観が絶対的ではないと知る。とはいえ、その価値観はその文化を育んできた背景の中で、より平和で幸福な方向へと向かってかなり合理的に決定されてきているのだと考える。わたしはいまの世界の価値観を受け入れつつ、変えるべきことを変えていきたい。

    ——-

    ・伝統的社会 社会的ネットワークが強調される。同じコミュニティでは勝ちも負けもない。
    ・現代国家社会。特にアメリカ 個人の重要性が強調される。自己利益最大化、自分本位の個人主義、個人間の優劣

    ▲子供に優劣、競争させ、のべつまくなしに指示を与える→子供の発達を阻害
    ○人と会話して過ごす。受け身ではなく能動的に遊ぶ。社会性を身につける。


    【現代国家と違う】
    ・放任主義の子育て。幼くても自分の行動に責任を持つべき。火のすぐそばで子どもが遊ぶ、火傷をすることも、ナイフを握ったり口に入れたり振り回すことも許容

    ・介添なしの出産=人間は強くあるべきで、自力で困難に向かうべき

    ★アロペアレンティング=アカビグミー族では1時間に平均8回いろいろな人に手渡される

    【背景となる合理性】
    ・国家社会 VS 非国家社会
    ・国家社会は子供に利害をもっている。有能で従順な市民、労働者、兵士にする必要。
    ・中央集権的に決められ、道徳の範囲が決められる。

    ・狩猟民族では、食糧確保における女性の貢献度が高いと、父親の子育てへの貢献度が高い
    ・ニューギニア高地では男性は戦うもの、家族を守るもの、と考える

    ・狩猟民族は所有物が少ない=体罰が少ない
    ・農耕民族や牧畜民は所有物や財産が多い。=家族や集団全体に被害を与えるようなことを子供がしないように体罰。

    ・狩猟採取民族は徹底した平等主義。
    ・子供の発達が親の責任とは考えない

    ・狩猟採取民族は高齢者や病人を帯同できない。よって遺棄、殺害する。

    ・現代国家高齢者は社会的に孤立する傾向。利用価値が昔より低い。

    ★子ども夫婦の子育てを助ける
    ★加齢とともに向上する心身の属性を生かす=専門分野にかかわる知見や経験、人間や人間関係についての理解力、自分のエゴを抑えて他人を助ける力、多面的知識データベースが関与する複雑な問題の学際的思考の組み合わせ力
    ★管理、監督、教育、助言、戦略立案、取りまとめ
    ★高齢者が得意とし、かつ、やりたいことを任せる
    続きを読む

    投稿日:2023.02.19

  • こどもおねむ

    こどもおねむ

    ダイアモンド氏 3編目。
    伝統的社会と現代社会を比較しながら、様々な考察を行う。相変わらず膨大な知識に基く検証は凄いの一言。
    上巻では語られるのは商売などに代表される取引の実情、戦争、子育て、高齢者など。
    取引と言っても現代では通貨があるが、伝統的社会では主に物々交換。地域や民族によって生産される物も違い、暗黙の了解で助け合っている。そんな人達が争いを起こしたりと、規模こそ違えども現代も変わらないなと感じた。
    高齢者の章は初版から10年経っておりさらに深刻。価値が下がっている、というのは凄く納得出来た。
    続きを読む

    投稿日:2023.02.02

  • Maz

    Maz

    600万年の人類史。1万1000年前に農耕民族になり、5400年前に国家が成立し文字が生まれた。

    大きく4つの社会形態
    1. バンド (小規模血族集団) - 数十人だけ。平等で1万1000年前まで存在。
    2. トライブ (部族社会) - 数百人規模。みな知り合い。政治的指導者の存在が希薄で専門家は進んでない。1万3000年前から存在?
    3. チーフダム (首長制社会) - 人口が増加して経済活動が専門化しはじめる。見知らぬ人と会っても同領内いることによる安心感で紛争が減る。首長の神権的地位から派生した共通の政治的宗教的アイデンティティあり。また経済的な再分配。貢物と分配。政治的経済的イノベーションが生まれたが、制度的な不平等が生まれた。7000年前までには存在?
    4. ステート (国家) - 人口規模の増加、政治の組織化、食糧生産の集約化。

    世界中に多様な社会が存在しているのか。
    x - 知能の差、生物学的な差、労働倫理の差、
    o - 環境による違い。政治の集権化が進み、社会清掃が増えたのは、人口の稠密になったためであり、それは農耕と牧畜により食糧生産の増加と集約化のである。栽培化や家畜化ができる野生の動植物の種類は地域によって異なる。

    第二章
    国家社会における司法の欠点は、制度の趣旨が、民事の場合は損害を賠償する責任の所在を判断すること、刑事の場合は加害者に賠償させることとされ、感情的な対立の終息や和解をはかるという事が二の次にされ、ほとんど目的にもされないということ。 - 実験的に修復的司法が取り入れられている。
    非国家社会では、人間関係を含むさまざまな関係を紛争前の状態にまで回復し、感情面での対立を終結させる

    国会社会の紛争解決システムの利点は、1) 報復抑止の効果、2) 紛争解決の判断が当事者間の力関係の外側でなされ、3) 刑事民事上の罪を明確にすることで再犯や一般の人の犯罪抑制効果。

    第4章
    人間が生得的に暴力的かあるいは協調的かの議論は無益。どちらでもありうる。どの形質が特徴として際立つかは外部環境の影響に左右される
    続きを読む

    投稿日:2021.11.29

  • yoshidamasakazu

    yoshidamasakazu

    上巻しか買っていない本

    ジャレドダイアモンド 「昨日までの世界」

    伝統的社会(狩猟や牧畜を生業とする社会)を西洋社会(国家が支配する工業化社会)と対比して研究した本。上巻のテーマは戦争、子供、高齢

    高齢者の有用性と社会の処遇についての論述は 人類史というより社会
    学に近いが、かなり切り込んでいる。この章のサブタイトルが「敬うか、遺棄するか、殺すか」

    高齢者を敬う社会の例
    *若者に対してタブーを設けた伝統的社会
    *儒教の影響を受けた家父長制社会

    高齢者を遺棄、殺す社会の例
    *高齢者が移動狩猟生活の足手まといとなる社会
    *食糧不足時に多数が生き残るためには高齢者が犠牲となる社会
    *アメリカはじめ現代社会

    アメリカはじめ現代社会において、高齢者の地位が低い理由
    *労働しない高齢者は 社会的地位が低い
    *個人主義のアメリカは 自分を頼りに生きる社会であり、自分で自分の面倒を見れなくなり、他者に依存する高齢者を忌み嫌う
    *若さやスピードの礼賛


    著者は提案として、孫の面倒、知見や人間関係能力の高さを活かす仕事 を上げているが、高齢者は知見がある、人間関係能力が高いことに根拠はないように思う


    本書の仮説は「伝統的社会から西洋社会へ移行する際に淘汰された伝統的社会の思考や慣習の中に 残すべきものがある」


    伝統的社会の人間関係を重視する仕組みは、個人の自由より集団の規律を重視しているように感じる

    続きを読む

    投稿日:2020.10.25

  • Treasoner

    Treasoner

    ダイアモンド博士の本業だったニューギニアでのフィールドワークを多く読ませてくれる。伝統的社会と比較することで、現代社会がどういうものか、我々が常識としている価値観がどういうものか、客観的に考えさせてくれる点が最も有意義な点となっている。ほんの数万年前までは誰しもがこういった生活を送っていたと想像させてくれる。
    伝統的社会では幼児が母親と一緒にいる時間が高割合との記述があったが、その後、祖父母や親戚などコミュニティで子育てして両親は食物採取に行ける、という記述もあり、内容的に混乱してしまった…
    続きを読む

    投稿日:2020.08.14

  • makotodailylife

    makotodailylife

    著者のニューギニアでの体験を通じて伝統的社会のあり方を振り返るとともに、現代社会との対比を説明した書籍。切り口は、戦争、子供、高齢者。(生活への余裕が生まれ)文明の成熟とともに司法が発達し、当事者間に委ねない仲裁手段が発達した。高齢者は経験、知識、技術が若年者より優れていたため重宝されていた。子供・高齢者ともに、集団にとって負担になる場合口減らしをすることもあった。

    伝統的社会は、生きることが最重要課題であり、食糧に余裕が無い時代のことである。人間も生物として、種の存続に必至であった時代のことだ。意図的な口減らし、当事者による報復合戦など、現代社会と比較して、酷な一面もある。一方で、現代社会は、食糧供給安定、文明の発達、平均寿命向上・技術革新を経て、資産を持たない高齢者への社会の関与の仕方、環境汚染などの別の面で問題が発生している。総じて、社会は改善してきているが、何をするにも副次的な影響があり、そこから発生する課題を予見しながら対処することが望まれるのは、これまでも、これからも変わらないのであろう。この普遍的な考え方を理解出来た点はよかった。

    現代の高齢者の価値が、保有資産に比例するのは些か寂しい面があり、著者提示の、孫世代の育児への参加、知識経験の若年層への提供、管理者監督者としての指導は高齢者とともにある有用な選択肢であろう。
    続きを読む

    投稿日:2020.01.27

Loading...

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。