言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか
塙宣之(著)
,中村計(聞き手)
/集英社新書
作品情報
2018年、M-1審査員として名を轟かせた芸人が漫才を徹底解剖。M-1チャンピオンになれなかった塙だからこそ分かる歴代王者のストロングポイント、M-1必勝法とは? 「ツッコミ全盛時代」「関東芸人の強み」「フリートーク」などのトピックから「ヤホー漫才」誕生秘話まで、“絶対漫才感”の持ち主が存分に吠える。どうしてウケるのかだけを40年以上考え続けてきた、「笑い脳」に侵された男がたどりついた現代漫才論とは? 漫才師の聖典とも呼ばれるDVD『紳竜の研究』に続く令和時代の漫才バイブル、ここに誕生!
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商品情報
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社新書
- 書籍発売日
- 2019.08.14
- Reader Store発売日
- 2019.09.20
- ファイルサイズ
- 0.4MB
- ページ数
- 224ページ
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この作品のレビュー
平均 4.1 (170件のレビュー)
-
【感想】
2021年時点で、M-1チャンピオン全17組中11組が関西芸人。非関西芸人は、04年のアンタッチャブル、07年のサンドウィッチマン、09年のパンクブーブー、15年のトレンディエンジェル、20…年のマジカルラブリー、21年の錦鯉の計6組。このうちトレンディエンジェル以外は「コント系漫才」だ。(トレンディエンジェルも純粋なしゃべくり漫才かと言われると微妙かもしれないが)M-1はまさに「関西有利」なお笑いレースと言えるだろう。
そのM-1に非関西×しゃべくり漫才として殴り込んだのがナイツの塙さんである。今ではM-1の審査委員をやり、漫才協会の副会長も務める「お笑い界の重鎮」だ。
本書はそんな塙さんが「漫才」について語った本である。漫才の技術論、売れっ子芸人のスタイルの分析、M-1という「競技」のルールと戦術についてなど、取り上げられている内容は非常に幅広く、「お笑いの理論書」といっても過言ではないかもしれない。
タイトルにもあるとおり、塙さんは「関東芸人はM-1で勝てない」と言っている。その理由は主に2つあり、1つは「しゃべくり漫才が絶対正義だから」、もう1つは「しゃべくり漫才は関西弁話者が圧倒的に優位だから」だ。
漫才には「しゃべくり漫才」「コント漫才」の2種類がある。前者はミルクボーイ、後者はマジカルラブリーをイメージするとしっくりくると思う。要は話芸一本で笑わせるか、シチュエーション芸で笑わせるかだが、関西ではしゃべくり漫才こそが「伝統と王道」であり、コント漫才よりも高く評価される傾向にある。M-1審査員の上沼恵美子氏がマジカルラブリーを酷評したように、しゃべくり漫才と比べて亜流な要素はなかなか受け入れられないという。
ではしゃべくり漫才で勝てばいいのではと思うかもしれないが、しゃべくり漫才は圧倒的に関西弁が有利なのだ。
これは説明が難しいが、感覚的に理解できると思う。「なんでやねん」と「どうしてだよ」では、言葉に含まれるパワーや面白さが全然違う。「なんでやねん」はシチュエーションを問わず万能にツッコめるのに対し、「どうしてだよ」は何となく回りくどく、ワンテンポ遅い感じがあり、なにより真面目だ。
関西弁には、標準語に含まれているトゲトゲしさをマイルドにしてくれる成分があるため、ツッコミがうるさくならない。強い言葉で怒鳴っているが関西弁のおかげで毒が抜かれており、かけ合いの中で自然と笑いが起こっていく。
また、関西弁は言葉が早い。言葉が早いということは、それだけネタを詰め込める。
島田紳助さんは「紳竜の研究」で、「M-1は短いネタで、はっきりしたこと作らなあかんねん。二人が出てきて、うじゃうじゃ喋ったらあかんねん」と言っている。M-1の1次予選は2分であり、その2分で爆発するにはインパクトとスピードが重要だ。関西弁が圧倒的に有利なポイントがここであり、非関西弁だと言葉一つひとつに間が開きすぎてしまう。
とはいうものの、非関西芸人でも勝てる道がある。それが「コント系漫才」なのだという。
「コント系漫才」は「舞台装置」を別箇に用意するため、その世界の中では標準語で話していても違和感がない。言語の面白さというハンデも「設定の巧さ」によって補えるため、関東芸人でも互角に持ち込める。南キャンやオードリー、ぺこぱといった「強烈キャラ漫才」も関西ではなかなか珍しいため、ハネ方によっては十分勝ち上がれる可能性を秘めているらしい。
本書を読んでみての感想だが、塙さんは色々なところを見て漫才をしているんだなぁ、とびっくりしてしまった。ナイツのしゃべくり芸は本当に完成度が高いし、言い間違い→訂正の畳みかけるようなテンポの良さに笑いっ放しになってしまうほど大好きなのだが、ひょうひょうとした見かけの裏では漫才を真剣に考察していて、「自分たちの笑い」を確立している。まさに紳助さんなみの「理論派」芸人だと思う。
逆にこんな理論派でも勝ちきれないほど、M-1というのは「特殊競技」に近いものなのか、と唸ってしまった。
今ではめっきり見なくなったが、またやってくれないかな。ヤホー漫才。
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【まとめ】
1 関東芸人はM-1で勝てない
漫才は「しゃべくり漫才」と「コント漫才」に分かれる。漫才にはボケとツッコミがいるが、ボケで笑い、ツッコミでもう一度笑うという相乗効果が肝。中川家はその点で非常にバランスがいい。
ネタ合わせをしないほうが受けることがある。練習しなくてもいいネタは、ネタそのものが面白いし、そもそも自分たちに合っているからだ。
また、練習を重ねると新鮮味がなくなる。相手の言葉をきちんと聞いてから反応する、これは漫才の基本中の基本であり、ボケに対してツッコミは「何を馬鹿なこと言ってるんですか」と驚く。その驚きが嘘くさく見えると、お客さんの共感が得られない。
しゃべくり漫才のルーツは関西である。必然、漫才という演芸そのものが関西弁に都合がいいようにできている。言ってしまえば、漫才の母国語は関西弁だ。漫才とは、上方漫才であり、上方漫才とは、しゃべくり漫才のこと。漫才界の勢力図は今も昔も、完全な西高東低である。
M-1の持ち時間は4分しかないわけだから、勢いよくしゃべるほうが有利。早口なら、それだけたくさんの笑いを詰め込める。しかしその芸当は、関西弁というフォームだからこそできるテクニックでもある。しゃべくり漫才の母国語は関西弁なので、関東の言葉でそれをやろうとすることは、言い換えれば、日本語でミュージカルやオペラをやるようなものなのかもしれない。無理ではないけれど、どうしたって不自然さは残る。
M-1第一期(2001〜2010)に限っていうと、10回中6回はしゃべくり漫才系のコンビが優勝している。コント漫才は03年のフットボールアワー、04年のアンタッチャブル、07年のサンドウィッチマン、09年のパンクブーブーの四組だ。フットボールアワー以外は、非関西弁のコンビであり、第一期において非関西弁のコンビで優勝したのは、じつはこの三組だけ。つまり、関東言葉のしゃべくり漫才で戴冠したコンビは誰もいなかった。非関西系のしゃべくり漫才で優勝したのは、トレンディエンジェルが初。
2 技術
M-1で勝つには、とにかく笑いの数を4分間に詰め込まなければならない。その意味では、圧倒的なスローテンポで準優勝まで上り詰めたスリムクラブは「M-1史上最大の革命」だった。
M-1は100メートル走、寄席は1万メートル走。M-1で勝つにはどうしても4分間の使い方が鍵になる。
和牛のように入りがローすぎるよりも、霜降り明星のようにハイテンションで入り、ハイテンションのまま駆け抜けたほうが、戦術的には確かである。
競走馬の距離適性のようなものが漫才師にあるとしたら、ナイツは長距離向け、サンドウィッチマンは中距離向け、中川家は全距離に適正がある、といった感じかもしれない。
自虐ネタは基本ウケない。漫才師は、ネタで自分たちの世界観を創り出すもの。その機会を安易な自虐ネタで終わらせてはいけない。人間の「おかしさ」を話芸で伝えることが漫才である。
漫才は三角形が理想。ボケとツッコミの掛け合い、それに客席がノッて三角形ができる。相方と客席を見ながら笑いを作る必要があり、ボケとツッコミの二人だけでしゃべくり倒して完結してはいけない。
M-1は、漫才という競技の中のM-1という種目の大会なのだ。M-1で勝つには「M-1用の傾向と対策」が必要になる。しかし、M-1を意識しすぎるあまり自分の持ち味を見失ってはいけない。
3 非関西系の逆襲
M-1の歴史の中で、関西弁以外で160キロを投げたのは、唯一アンタッチャブルだけだ。コントでありながら海砂利水魚のような言葉のセンスがあり、さらには圧倒的なしゃべりの技術があった。柴田もザキヤマも「絶対漫才感」を持っていた。
関西には漫才とはこういうものだという伝統と文化がしっかり根付いている。相撲でいう「ひとまずぶつかれ」同様、関西には、漫才たるもの「ひとまず掛け合って、テンポよくしゃべれ」という大原則がある。関東芸人が非関西弁というハンデを乗り越えて優勝するためには、突き抜けた武器が必要になる。
M-1第一期(2001〜2010)と第二期(2015〜)で変わったのは、「経験」より「新しさ」を求めるようになったこと。2018年がその例であり、うまさの和牛と新しさの霜降り明星で競った結果、霜降り明星に軍配があがった。
優勝者以外で革命を起こしたのは、04年の南海キャンディーズ、08年のオードリー、10年のスリムクラブ。いずれも非関西系だ。
南キャンとオードリーはいずれもボケが強烈キャラで、突き抜けたオリジナリティーがある。南キャンはツッコミが点を取りにいってもいいという流れを決定づけた。オードリーは「ズレ漫才」と評されるように、噛み合っていないながらも不思議なテンポで漫才を成立させる革命を起こした。
ただし、個の強さを活かした漫才は2本目のインパクトが薄れる傾向にあり、それがファイナルステージで勝ちきれない理由でもある。続きを読む投稿日:2022.02.22
・漫才の母国語は関西弁。上方漫才はあるけど、江戸漫才や東京漫才は無い。
・漫才において、関西は南米。大阪はブラジル。町場にボールタッチのいい子供や女子高生やおばちゃんがごろごろ居る。
・点でなく直線で…もなく、三角形をつくる漫才の難しさ、ってそこまで考えて作ってるとは奥深い。
・M-1はしゃべくり漫才がロックで王様。コント漫才やキャラ漫才は王様にはなれない。でも新しいものを渇望するM-1には、十分に入り込む余地がある。続きを読む投稿日:2024.03.19
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