ビジネスエリートの新論語
司馬遼太郎(著)
/文春新書
作品情報
昭和30年、産経新聞記者時代の司馬遼太郎が、本名・福田定一で刊行した
“幻の新書”を完全版として復刻刊行。
古今の典籍から格言・名言を引用、ビジネス社会に生きる人たちにエールを
送る本書は、著者の深い教養や透徹した人間観が現れているばかりでなく、
大阪人であることを終世誇りとしていた著者の、卓抜なるユーモア感覚に満ちている。
さらには、本書の2部に収録、記者時代の先輩社員を描いたとおぼしき
「二人の老サラリーマン」は、働くことと生きることの深い結びつき問う、極めつけの
名作短編小説として読むに充分である。
現代の感覚をもってしても全く古びた印象のない本書は、むしろ後年に国民作家と
呼ばれることになる著者の魅力・実力を改めて伝えてくれる。
まさに「栴檀は双葉より芳し」。ビジネス社会を生きる若い読者にも、ぜひ薦めたい一冊。
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商品情報
- シリーズ
- ビジネスエリートの新論語
- 著者
- 司馬遼太郎
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春新書
- 書籍発売日
- 2016.12.09
- Reader Store発売日
- 2016.12.09
- ファイルサイズ
- 0.9MB
- ページ数
- 208ページ
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この作品のレビュー
平均 3.4 (39件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
【感想】
レビューの続きを読む
昭和30年、まだ産経新聞の記者だった頃の司馬遼太郎が書いた本。
やはりこの頃から、文章に関してかなりの鬼才があったんだなーと読んでいて感じた。
テーマは「サラリーマンの処世術」といった具合だが、歴史上の英雄と絡めるあたりがいかにも司馬遼太郎の本。
初めて目にする人物も多々いて、司馬遼太郎の博識の深さが窺い知れる・・・
内容自体はかなり砕けた感じで書かれており、新書というよりコラム風な書き方だったので気楽に読めた。
ただ、砕けながらもしっかりと要点を抑えた内容になっていて、また、60年以上も昔に書かれたと思えないほどに今の世の中にも通用する内容も多かった。
なかなか面白い本でした。
【内容まとめ】
1.サラリーマン大江広元の処世のヒケツ
決して彼は積極的に出世を企てようとは思いもせず、専務や社長になろうとは思わなかった。
また出世のために人の頭を踏んづけ、押しのけ、誅殺することもしなかった。
自分一個の利害ではなく、すべてはお家、鎌倉システムの安定のためという自他共に認めた「大義名分」があった。
要するに、スジが通っていたのである。
2.自分一個の私利私欲のために才能を使わず、走狗をつとめることもせず、役に立つ上に公正であり、誰にも代替えがきかないという地位を確立
3.入ルヲ量ッテ出ルヲ制ス
「収入を内輪に費え。年末にはいつも何がしかの余剰を出すようにせよ。収入よりも支出を少なからしめよ。
そうあるかぎり、一生たいして困ることはない。」
4.己を謙遜しつつ、のらりくらりとかわしてゆくのが明哲保身に不可欠な条件である。
バーナード・ショー「あまり他人に同情を求めると、軽蔑という景品がついてくる。」
エマーソン「愚痴はいかに高尚な内容でも、またいかなる理由があっても、決して役に立たない。」
【引用】
p13
大工には大工の金言がある。その職業技術の血統が、何百年かけて生んだ経験と叡智の珠玉なのだ。
植木職でも、陶工の世界でも同じことが言えよう。
さて、サラリーマンの場合、一体そんなものがあるだろうか?この職業の伝統にはそうしたものはなさそうだ。
p23
鎌倉幕府というものほど、殺気に満ちた権謀の府は史上なかった。
親子兄弟のいえども油断はできない。
頼朝が庶弟義経を殺して以後、次々と草創の功臣を謀殺してゆき、頼朝の没後実権を握った北条氏も頼朝の子孫やその老臣をほとんど殺し尽くし、血に濡れた手で権力の土台を固めていった。
こんな動揺常ない政変の府において、わが事務総長かつ元祖サラリーマンである大江広元氏はまるで幻術師のような変幻さでその地歩を温存し通し、78歳の天寿を全うして、鎌倉人物史上めずらしくも畳の上で大往生を遂げた。
p24
・サラリーマン大江広元の処世のヒケツ
保身に成功した第一の理由は、保身家のくせに遊泳家ではなかったことである。
決して彼は積極的に出世を企てようとは思いもせず、専務や社長になろうとは思わなかった。
また出世のために人の頭を踏んづけ、押しのけ、誅殺することもしなかった。
自分一個の利害ではなく、すべてはお家、鎌倉システムの安定のためという自他共に認めた「大義名分」があった。
要するに、スジが通っていたのである。
そして最大の理由は、その卓絶した行政能力なのだ。
能力がある上に、べらぼうな仕事熱心なのである。
p28
自分一個の私利私欲のために才能を使わず、走狗をつとめることもせず、役に立つ上に公正であり、誰にも代替えがきかないという地位を確立したからに他ならない。
p33
・サラリーマンの英雄は徳川家康
「徳川家康 遺訓」
人の一生は重荷を負ふて遠き道を行くが如し。
急ぐべからず。不自由を常と思へば不足なく、心に望みおこらば困窮したる時を思ひ出すべし。
堪忍は無事長久の基。怒りは敵と思へ。
勝つ事ばかりを知って負くる事を知らざれば、害その身に至る。
己を攻めて人を責むるな。
及ばざるは、過ぎたるより優れり。
p56
・入ルヲ量ッテ出ルヲ制ス
サミュエル・ジョンソン
「収入を内輪に費え。年末にはいつも何がしかの余剰を出すようにせよ。収入よりも支出を少なからしめよ。
そうあるかぎり、一生たいして困ることはない。」
ただし度を越して吝嗇になると笑われる。
p60
・恒産アル者ハ恒心アリ
本来は恒産=財産であるが、今この世の中は財産管理に躍起になって、逆に驢馬のようにビクビクしてしまう。
今となっては、サラリーという恒産と、サラリーマンの恒心のほうが一般的なのでは?
望み過ぎず、人生に余計な野望を持たず、ふやける事に安住感をもてるとすれば、それ以上の幸福はない。
p76
・愚痴はお経だ。
バーナード・ショー「あまり他人に同情を求めると、軽蔑という景品がついてくる。」
エマーソン「愚痴はいかに高尚な内容でも、またいかなる理由があっても、決して役に立たない。」
己を謙遜しつつ、のらりくらりとかわしてゆくのが明哲保身に不可欠な条件である。
p94
・議論好きは悪徳
人生はいつまでも学校の討論会ではない。
議論好きというのは、サラリーマン稼業にとって一種の悪徳である。
本人は知的体操でもやってるつもりかもしれないが、勝ったところで相手に劣等感を与え、行為を失うのがせいぜいの収穫というものだ。
p136
「俺は天才が30歳で傑作を生むところを、80歳まで生きて何とか自分をモノにしてみせるつもりなんだ。貧乏なのは閉口するがね。
それも考えようで、サラリーマンが定年になってアブつく頃に、俺たちは何がしか格好がついてくるんだから、食えるのはそれからだと思って意を安んじてるよ」
商人や芸術家は、生活を賭けた緊張感をもって毎日を過ごしているのだ。
怠慢と安易をサラリーマンだけに許された特権と思うならば、やがて社会死によって世間の下水溝に溺死体を浮かべねばなるまい。
p160
・大成とは?
「俺のようになる事だ」
「部長や局長になろうという気持ちが兆した瞬間から、もうその人物は新聞記者を廃業したと見てええ。抜く抜かれる、この勝負の世界だけが、新聞記者の世界じゃと俺は思う」
「昔の剣術使いが、技術を磨く事だけに専念して、大名になろうとか何だとかを考えなかったのと同じ事だよ」
社によって守られている身分や生活権のぬるま湯の中に躰を浸すな。
いつも勝負の精神を忘れずに、社というものは自分の才能を表現するための陣借りの場だと思え。
しかし、彼の持つ職業態度が滑稽に見えるほどに、職業の歴史は急速にサラリーマン化していっていると言える。
p170
・もう一人の新聞記者
「人間、おのれのペースを悟ることが肝心や」
名記者になる奴はなる奴の、出世する奴はする奴のペースというのが元々ある。
俺は俺らしく、実直な腰弁の人生を歩こうと覚悟した。
「ペースを悟ったら、崩さず惑わず一生守りきることが大事でんな」投稿日:2019.06.18
論語、ねぇ。司馬遼太郎のサラリーマン処世術を『子曰く』の論語になぞらえているんだろうが、ぜんぜん別物だよね。孔子のような哲学がないから時代の変化に耐えられない。今となっては何の役にも立たない軽いエッセ…ー。
彼の意外な一面が見られて司馬遼太郎好きには良いのかもね。続きを読む投稿日:2023.10.01
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