ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争(上)
デイヴィッド・ハルバースタム(著)
,山田耕介(訳)
,山田侑平(訳)
/文春文庫
作品情報
十年の歳月をかけて取材執筆、ハルバースタム最後の作品1950年、北朝鮮軍の南進により勃発した朝鮮戦争。反共の名の下に、参戦を決定したアメリカだったが、それは過酷極まりない戦争への突入だった。スターリン、金日成、トルーマン、マッカーサー、毛沢東―時の指導者たちが抱いた野望と誤算、彼らに翻弄され凍土に消えた兵士たちの血の肉声・・・その全てから、あの戦争の全貌に迫る。【目次】第1部 雲山の警告第2部 暗い日々?北朝鮮人民軍が南進第3部 ワシントン、参戦へ第4部 欧州優先か、アジア優先か第5部 詰めの一手になるか?北朝鮮軍、釜山へ第6部 マッカーサーが流れをかえる?仁川上陸第7部 三十八度線の北へ
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商品情報
- シリーズ
- ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争
- 著者
- デイヴィッド・ハルバースタム, 山田耕介, 山田侑平
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春文庫
- 書籍発売日
- 2012.08.12
- Reader Store発売日
- 2016.03.04
- ファイルサイズ
- 2.8MB
- ページ数
- 624ページ
- シリーズ情報
- 既刊2巻
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この作品のレビュー
平均 4.4 (8件のレビュー)
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(アメリカにとって)忘れられた戦争
重量級の朝鮮戦争ドキュメント。アメリカの政府・軍上層部内(中朝露側も少々)の駆け引きと誤算、前線で戦った将校・兵士らの証言からなる。中央と前線の対比が読みどころ。また、マッカーサーという特異な個性もひ…とつの主役になっている。
アメリカにとって朝鮮戦争は忘れられた戦争である。引き分けるために多くの血が流された。ただし、アジアでの覇権的な共産主義の勢いをとめた功績はあると帰還兵は振り返る。
アメリカ国内政治との絡みで言えば、蒋介石の中華民国(台湾)がこの戦争に影を投げかけていた。武器を与えても中共軍に奪われるだけの頼りない連中。しかし米国内では共和党に巧みなロビイングで食い込んで、アメリカが中共との戦争に入るよう後押ししていた。トルーマンや国務長官のアチソンらはこうした動きに苦々しいものを覚えていた。しかし、結局のところマッカーシズムがおおいに吹き荒れてアメリカの外交・軍事を束縛した。→「タイム」誌などのメディアも大立者がマッカーシズムを応援しており、エルロイの小説を思い出した。著者としては21世紀初頭のアメリカ政治に擬する思いもあったろう。
中・朝・ロの微妙な駆け引き。中国はこの戦争で自らの力を証明しようとして成功した。ただ皮肉なことに毛沢東の独裁強化となり、後の文革の伏線となったとも言える。北朝鮮は、金日成のいい加減さばかりが目立つ。スターリンは漁夫の利というか、けしかけるだけで少なくとも損をしなかった。
マッカーサーはフィリピンで日本をなめ、朝鮮戦争開戦時には北朝鮮をなめ、鴨緑江では中国をなめて痛い目にあった。そもそも人種差別的、敵をリスペクトすることを知らぬままだった。とにかく外聞にこだわり、気分の浮き沈みが激しく、バターン・ギャングのような取り巻きを侍らせて意にそぐわね情報には耳を傾けなかった。朝鮮戦争の期間中もほとんど半島に行くことはなかった。
対照的に描かれるのは後任のリッジウェイ。タカ派であることは同じだが、敵をリスペクトし、現場重視であった。
米軍は第二次大戦後は動員がどんどん解除され訓練も行き届かず骨抜き状態になっていた。緒戦は、数に勝り規律がとれてT-34を擁した北朝鮮軍にかなわなかった。釜山橋頭堡まで後退して援軍が到着し戦線を整えるとともに、部隊の錬度もあがっていった模様。最初は偵察というとトラックに乗って道路を走っていったのが、道々の高地を占領するようになった。
朝鮮の山がちな地形が国連軍の車両による機動力をそぎ、中国軍には待ち伏せのチャンスを提供した。
中国軍も緒戦は国連軍の油断により、待ち伏せで大々的な勝利を収めた。数量的にも圧倒的に優勢だったし、国連軍の偵察機に気づかれず軍勢を動かすことも出来た。しかし、国連軍に大ダメージを与えつつも一方で多くの部隊を取り逃がしたあたり、部隊間の通信未整備や制空権を持っていないことに由来する弱点があった。
中国軍は国連軍を分断包囲する戦術を取ったが、国連軍側は陣地をしっかり固めて火力を集中し、空から補給を続ければ戦えることをチピョンニで立証する。中国軍は大損害を出した。中国軍はさらに南に進むに連れて補給も大問題になった。そして戦争はこう着状態に。
マッカーサーが原爆を使って中国との戦争になれば、より無防備な日本も巻き込まれるって懸念があったのだね。トルーマンはまともな判断をしてくれた。続きを読む投稿日:2016.10.09
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戦争はクリスマスには終わるはずだった
「戦争はクリスマスまで終わる」仁川上陸作戦に成功し平壌を占拠した連合軍はマッカーサーを筆頭に楽勝気分に浮かれていた。第8軍のカイザー少将は1950年10月25日に「われわれは帰途につく。もうすぐだ。ク…リスマスまでにだ。命令が出ている」と士官らに語った。連合軍の一部はすでに鴨緑江に達していたが、戦線は伸びきり11月1日に始まる中国軍の大反攻により各個撃破の標的とされていった。ますますと罠にはめられたのだ。
戦争そのものが互いに間違った認識のもとで進められていた。中国、ソ連、北朝鮮は38度線を突破してもアメリカは参戦しないとたかをくくっていた。アチソン国務長官の演説で朝鮮半島が明確な介入の対象に入らなかったことも影響したのだろう、中国の国共内戦同様に朝鮮半島の内戦にも米軍は参戦しないと。一度は釜山に追い詰められ朝鮮半島から追い払われる寸前だった米軍もマッカーサーの天才的な仁川上陸作戦の後、半島全体をすぐに制圧できると思い込み、中国軍が参戦しない方にかけた。中国の参戦がわかった後でも朝鮮統一を望むマッカーサーは意図的に中国軍の人数と意図を矮小化し、11月6日東京で戦争は事実上終結したと声明を発表した。
金日成と李承晩はいずれもソ連とアメリカが後押しした指導者で、いずれも民族主義者で朝鮮半島の統一を望んでいた。階級的で専制的な北朝鮮軍の方がソ連の支援により最初の兵器を揃え軍も訓練されていたのに対し、南は半封建社会から抜け出していなかった。
若き日の李承晩はウッドロー・ウィルソン元大統領に気に入られ、たった一人の朝鮮人工作隊となった。生涯の大半を亡命生活で送った李はアメリカ人の支援団体を要する唯一の候補者として大統領となった。癇癪持ちでけんかっぱやい李はアメリカに全面的に依存しながら、主人の言うことは聞かなかった。生涯にわたる裏切り、投獄、政治亡命、破約の数々がかれを変え、非常にした。日本とアメリカが李を作ったのだ。北朝鮮との戦争を始めたがる李にアメリカは希望する武器を与えていなかった。
一方、満州の抗日ゲリラとして頭角を現した金日成はスターリンの忠実なしもべだった。毛沢東やチトーとは違い金にはモスクワ以外に後ろ盾がない。中国に近いものや独立心のある者は粛清されスターリンの忠実な信者の金が残った。独裁者の手際と権力とで嘘を真実にし、北朝鮮では金は英雄となった。毛沢東の成功が金の欲求不満を高め金は信じた、今度は自分の番だと。
6月25日人民軍は南に進撃を始めた。おもに農民出身の兵士達は占領下の日本軍への怒りの矛先を日本人に協力した上流の朝鮮人同胞に向けられそのままアメリカ人に向けられるように洗脳されていた。彼らの家族の過酷な貧困は彼らのせいだ。27日にアメリカ軍主導の国連軍が参戦したが人民軍は勢いそのままに8月末には連合軍を釜山に追い詰めた。補給線が伸びた人民軍に対し連合軍にはアメリカからの援軍がようやく届き、戦力の集中は続いていっていた。
マッカーサーの最大の軍事的成功をもたらした仁川上陸作戦は日本軍に対する飛び石作戦の焼き直しだった。陣地を奪い取るのではなく孤立させ無力化する。問題は目的地をどこにするかだ。マッカーサーの選んだのは仁川だったが上陸作戦の立案と実行を担当する海軍は反対していた。仁川は上陸作戦を実行するには最悪の条件を備えていた。潮の流れは早く複雑で小島により港は分断され、上陸に適した砂浜はなかった。しかし本当の危険は干満差で最大9.6mもあり、岸壁と埠頭に上陸できるのは事実上9月15日しかなかった。人民軍がもし他の港のように機雷を敷設していれば作戦は失敗しているところだったが、「敵の司令官は、だれもそのような無謀な試みはするまいと推理するだろう」とマッカーサーの魅力的な説得が功を奏しマッカーサーは賭けに勝った。実は日本の港湾には中国軍のスパイが入り込んでおり持ち運ばれる装備とマッカーサーの性格から毛沢東は仁川上陸作戦を予想していた。ロシア人顧問も同様に金に助言していたが金は聞き入れない。毛はこの時点で参戦の覚悟を決めていたようだ。
大成功に終わった仁川上陸作戦の裏では連合軍側にも危機の目が生まれていた。釜山橋頭堡を支えた第8軍司令官のウォーカーは上陸作戦に反対したためマッカーサーは取り巻きのアーモンドに指揮権を与えた。アーモンドは威勢がいいだけの気取り屋で、後に中国軍の反攻に際しては無能さをさらけ出している。北方進撃に向けウォーカーの第8軍から分割された第10軍の指揮権は参謀長ポストとともにアーモンドに与えられた。マッカーサーにとって仁川は北朝鮮だけでなくワシントンに対しての勝利となった。仁川の魔法使いマッカーサーは神格化され、誰もマッカーサーを止められなくなった。続きを読む投稿日:2018.06.05
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