岬
中上健次(著)
/文春文庫
作品情報
作家の郷里・紀州の小都市を舞台に、のがれがたい血のしがらみに閉じ込められた青年の、癒せぬ渇望、愛と憎しみ、生命の模索を鮮烈な文体でえがいて圧倒的な評価を得た芥川賞受賞作。この小説は、著者独自の哀切な主題旋律を初めて文学として定着させた記念碑的作品として、広く感動を呼んだ。『枯木灘』『地の果て 至上の時』と展開して中上世界の最高峰をなす三部作の第一章に当たる。表題作の他、初期の力作「黄金比の朝」「火宅」「浄徳寺ツアー」の三篇を収める。
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商品情報
- シリーズ
- 岬
- 著者
- 中上健次
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春文庫
- 書籍発売日
- 1978.12.25
- Reader Store発売日
- 2011.11.25
- ファイルサイズ
- 0.5MB
- ページ数
- 272ページ
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この作品のレビュー
平均 3.6 (71件のレビュー)
-
とても複雑な血縁関係。どれも中上さん自身をモデルにされているらしく、母親が複数回結婚している人で、母親と初めの夫との間に出来た姉、兄、母親の今の夫の連れ子であった血の繋がらない兄がいる。そして主人公…自身は母親と“あの男”と呼ばれている悪名高い男との間の子で、主人公には腹違いの同い年の異母妹が二人いる。母親は主人公がお腹にいる時にそのことを知り、その男とは別れ、しばらくひとりで行商をして四人の子供を育てたが、男手一人で男の子を育てていた今の夫と出会い、まだ小さかった主人公だけを連れて再婚した(四話ともどれも同じような血縁関係なのですが、「岬」に焦点を当てて書きます)。
この親族関係がドロドロの濃い関係で…。母親との血でしか繋がっていない姉達との憐憫を伴った絆。優しかったが、主人公だけを連れて再婚した母親と主人公を憎み、何回も母親と主人公を「殺してやる」と包丁で脅した挙句、首吊り自殺をした兄。全く血は繋がっていない、今の戸籍上の兄との絆。優しかったが、亡くなってしまった母親の最初の夫(姉達の父)の思い出。アル中である叔父(姉達の父の弟)。
一族は土方仕事の請負業者をしていて、汗と土にまみれた厳しい仕事である。仕事をしながら、仕事終わりの酒盛りをしながら、下ネタだらけの会話が飛び交う。主人公自身はそういう会話には極力加わらず、性に合った土方仕事に黙々と励んでいる。主人公の本当の父親は、地元の地主たちから山林を巻き上げた成金で悪い噂が絶えないが、それでもその息子である彼のことを親族たちは結構可愛がっている。けれど、主人公はいつもどこか居心地悪く感じている。「俺には“あの男”の血が半分入っている」ということを拭いたくて仕方ないのに、“あの男”との類似点ばかりを意識してしまう。そして、娼婦をしているという異母妹に「会ってみたい」という衝動にも駆られる。
逞しい母親を中心としたどちらかというと女系家族だからか、求心力は強く、例えば母親の初めの夫の法事に対する母親や姉たちの思いれとか、そこに直接繋がりはないのに協力してくれる義父や姉達の夫の懐の深さとか感じられるのだが、みんな根が弱いのか、お酒が入ると、親族を刺し殺してしまったり、法事の場で暴れ回ったり、自殺騒動を起こしたりというどうしようもないドロンドロンの世界。
最近読んだ、川上未映子さんの「夏物語」には、「父親が誰でも関係ない。育てるのは女なんや。」というようなセリフが出てきたり、どうしても自分の子供が欲しいから匿名の男性の精子提供を受けたりする女性の正当性?のようなことが書かれていた。また、逆に非配偶者間人工授精を秘密にして出産し世間体を保っている事例も書かれていた。しかし、中上さんの作品のこの小説を読むと、いやいや人が生まれて、生きて死ぬということは血なまぐさいことなんだ。どんな父親であっても「知らなくていい」ということはないんだ。たとえそのことでどうしようもなく傷ついたとしてもその事実と一緒に生きていかなくてはならないんだと思った。また、こういう問題は男性視点で書くのと女性視点で書くのとでは全然違うのだとも思った。
脱線するが、やはり文学って人間にとって必要だと思う。例えば出生の問題でいうと自然科学が進歩し非配偶者間人工授精が可能になったことで、恩恵を受けた人も沢山いるが、その手段を利用することが時と場合により正しいのか正しくないのか白黒つけるのが社会科学である。だけど、“自然科学”にも“社会科学”にも救われない人間の気持ちというのがある。文学はそれを“救う”とまでは簡単には言えないけれど、進歩し続ける文明の中で置いてけぼりにされる人間の心に寄り添うために“言葉”を使う立派な人文学だと思う。
続きを読む投稿日:2022.10.22
(引用)
彼は、一人残っていた。腹立たしかった。外へ出た。いったい、どこからネジが逆にまわってしまったのだろう、と思った。夜、眠り、日と共に起きて、働きに行く。そのリズムが、いつのまにか、乱れてしまっ…ていた。自分が乱したのではなく、人が乱したのだった。ことごとく、狂っていると思った。死んだ者は、死んだ者だった。生きている者は、生きている者だった。一体、死んだ父さんがなんだと言うのだ、死んだ兄がなんだと言うのだ。
*
とことん下へ下へと潜っていくような気分。いろんなことが乱れたように事あるごとに思ってしまうのは、自分のせいであることを認める勇気がどこかのタイミングで必要だと思う。続きを読む投稿日:2024.01.21
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