【感想】戦場のピアニスト

ウワディスワフ・シュピルマン, 佐藤泰一 / 春秋社
(3件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • まっしべ

    まっしべ

    2003年のロードショー当時、ロマン・ポランスキー監督作『戦場のピアニスト』は映画館へ観に行きました。ひとりで行ったのか誰かと行ったのかはもうよく覚えていませんが、とにかく内容に衝撃を受けた事はいまだに覚えています。
    ワルシャワ・ゲットー内に吹き荒れたホロコーストの嵐。余りに非人道的かつ言葉を失うほどの凄惨な光景と、誰も居なくなった廃墟の灰塵の中をトボトボ歩くシュピルマン(エイドリアン・ブロディ)の姿をよく覚えております。


    映画と比べると書籍の原作版は淡々としているという印象があるが、見た光景や感じた空気をありのままに紙面へ落とし込んでいるからこそのストレートな語りには胸に迫って来るものがあります。

    「死者は衣服をはがされた。生きている者たちにとって、死体に服を着せたままにしておくのはあまりにもったいないという口実で。」(p12)
    「戦争が人の心を石に変えてしまった。」(p16)
    →第1章のゆるやかな回想より。そうだよなあ、自分達も生きていかなければ、という状況なら起こり得るよなあ…。

    「パニックは起こらなかった。次は何が起こるのかという好奇心と驚きの間を揺れ動くようなムードが漂っていた。これは全ての始まりなのだろうか。」(p19)
    「そんな襲撃に遭い、戻ってきた人たちは、初めてこうむった虐待ぶりについて千差万別の反応を示した。とはいえ、まだそれほどひどいものではなかった。肉体的な仕打ちにしても、せいぜい平手打ちか拳骨、時に蹴りが入る程度。けれども、めったに経験することではないので、ドイツ人からビンタを喰らうのはどうも不愉快なことだとは思いつつも、犠牲者たちはことさら深刻には受け止めていなかった。」(p43)
    →このあたりの描写は、じっさい本当に真に迫ったものであると思う。支配を受けた当事者らの間に漂うムードもいきなり一様に緊迫するのではなく、じわじわと侵蝕するように支配は根を広げてゆくのだろう。

    「コルチャック先生は子供たちに一番いい服を着るように伝えると、彼らは二人ずつ並んできれいに着飾り、楽しい気分で庭に出てきた。」(p109)
    →コルチャック先生が運営する孤児院の子供たちがガス室に向かう直前のシーン。先頭の子がヴァイオリンを弾き皆で歌をうたいながら行進していく光景。このくだりは手短にかつ直接的に描写される訳ではないのだが、遠ざかる小さな背中を思うとあまりにも哀しくて辛くて一度本を伏せてしまった。

    「我々は小銭の残りをかき集め、たった一個のクリームキャラメルを買った。父はそれを懐中ナイフで六つに分けた。」(p118)
    →シュピルマンが両親や姉弟らと囲んだ最期の食卓のシーン。これより以降、物語はより一層孤独と凄惨を深めて行く。このキャラメルを法外な値で売った少年も、いっときの金銭は手にしたかもしれないが、きっと長らえはしなかったのではなかろうか。

    《18 ノクターン嬰ハ短調》(p206〜p222)
    →44年10月から翌1月まで、ワルシャワにいよいよ独りで潜み耐えていたシュピルマンが、運命を変える出逢いを迎える章。であるのだが、文体は非常に落ち着いており静かで、まさに〈ノクターン〉、夜想曲のような重みと閑けさ。映画でも印象的な、シュピルマンがノクターンを弾く場面は文量にしてたったの5行くらい。直後につんざく銃声や騒音。そう、ここは戦場なのだ。救出後も至って静かに、雪が舞い宵闇が迫る廃墟の中をシュピルマンは歩き始める。


    《ヴィルム・ホーゼンフェルト大尉の日記からの抜粋》
    →シュピルマンに救いを差し伸べたドイツ軍将校ヴィルム・ホーゼンフェルト大尉について、より深く知る事が出来る資料。確かに映画でも大尉のその後についてはほんの軽く触る程度だったように思う。彼もまた、戦争という大渦に翻弄された木の葉の一枚に過ぎず、こうした彼の声が残っていただけでも救われたと言えるのではなかろうか。


    「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求」とはいかなる事か。忙しい日々につい目を背けがちであるが、真摯に向き合って国際動向や政治に関心を向けることは今を生きる我々の責務であると思う。
    戦争行為を永遠放棄した未来を残す為に。
    『シンドラーのリスト』や『はだしのゲン』とか、金曜ロードショーで放映した方がいいと思うんだよなあ。残酷だから・悲惨だから隠す・見せないというのはいかがなものかと思うよ。


    新装版1刷
    2024.4.21
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    投稿日:2024.04.21

  • 橘根(緩洲えむ)

    橘根(緩洲えむ)

    先の見えない絶望の中に生きねばならない息苦しさ、不安、飢餓に苦しめられる生活、読んでいてあらゆる痛みと苦しみを覚える。「ヴィルム・ホーゼンフェルト大尉の日記からの抜粋」の章も良かった。ドイツ将校がナチスの所業を恥じ、それを許している自分たちも共謀者だと綴っているのを読むと、軍にもナチスを支持しない人も確かに存在したのだとわかってほっとすると同時に、これを読む自分自身が現在この世界で不合理の犠牲になる人々の前で傍観者となっていないか考えさせられる。続きを読む

    投稿日:2024.01.24

  • Go Extreme

    Go Extreme

    子どもたちの時、狂人たちの時 戦争 最初のドイツ人たち 父、ドイツ人に頭を下げる お前らはユダヤ人か? フウォドナ通りのダンス K夫人の素敵な振る舞い 脅迫下の蟻塚 ウムシュラークプラッツ 生きるチャンス ”狙撃手たちよ、立て” マジョレク 隣室での騒ぎと諍い サウァスの裏切り 燃えさかる建物の中で ある都市の死 リキュールと命の交換 クターン嬰ハ短調 追記 1945年記す→発禁→絶版処分 スターリン専制下⇒ソヴィエト連邦崩壊⇒著者自身の抵抗? 観察力と記憶力 怒り・恨み・嘆きの排除→不条理と悲しみ↑続きを読む

    投稿日:2024.01.23

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