【感想】権力分立論の誕生 ブリテン帝国の『法の精神』受容

上村剛 / 岩波書店
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  • モンタニャールおじさん

    モンタニャールおじさん

    本書は、現代の政治システムを支える柱の一つである権力分立の概念がいつ、どこで、どのような経緯を経て誕生したのかを綿密に追跡する研究である。本書の叙述の出発点はモンテスキューの『法の精神』であるが、権力分立論と混合政体論との関係、分立されるべき権力のセットのなかに司法権を含めるか否かという問題、権力分立と権力同士の抑制と均衡とを論理的に切り離して捉える本書の理解に基づき、モンテスキューの議論が様々な解釈に開かれていることがむしろ主題となる。ついで英語圏にモンテスキューの議論が導入された時代において、ブラックストンはモンテスキューを称賛しつつ、裁判権の担い手を陪審ではなく判事=貴族に求めるなど、権力分立論を我流に変奏しつつ提示した。第二部では、ヨーロッパ的な身分制社会が存在しない植民地を多数抱えたブリテン帝国において、アメリカやインドの植民地統治機構の整備をめぐる論戦において、徐々に現代的な権力分立論の原型が出来上がっていく過程が追跡される。そのため本書は、1773年の東インド会社規制法の庶民院通過をもって、権力分立論の一大画期とみなすという新たな理解を提示している。そして第三部では、周知の通りアメリカの建国の父たちが『フェデラリスト』などでモンテスキューを参照していることをもって彼らを権力分立論者とみなしてきた従来の理解が塗り替えられる。マディソンは既存の権力分立論を換骨奪胎して権力の制度的な混淆を重視し、ハミルトンは三権分立よりもむしろ連邦と州との間における権力の抑制と均衡を重視したという意味で、意図せざる帰結として彼らは権力分立論者になったという理解が提示される。本書はブリテン帝国やアメリカ合衆国の様々なアクターの多様な政治的言説に光を当てながら、彼らが駆使したモンテスキュー的な概念的枠組みの背後にどのような意図が介在していたのかを丹念に掘り起こし、結果として、権力分立論が今なおもっている様々な解釈の可能性を浮き彫りにしている。その意味で、現代において権力分立論を引き合いに出す者にとっても、示唆するところに富む。また大西洋とインド洋をまたがる広大な地域で展開された政治的議論に着目している点で、「思想のグローバル・ヒストリー」と呼ばれるに相応しい内容を本書は誇っている。続きを読む

    投稿日:2021.04.13

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