【感想】協働する探究のデザイン

藤原さと / 平凡社
(3件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • まつT

    まつT

    このレビューはネタバレを含みます

    前作「探究する学びをつくる」に感銘を受け、こちらも読破。前作はHTHの取組に焦点を当てていたが、今作は、具体的な実践例を挙げながら、探究学習のイメージをもって実践できるように構成されている。

    特に興味深かったのは、評価について書かれている第7章の内容。
    ・発明の単元では、創造性と工夫という2観点で評価する。
    ・評価するための負担が大きく、本来力を入れたいことができない。→ドキュメンテーションでその子の姿を淡々と書くようにした。
    ・教師こそが評価されるべき。
    ・子どもは数値などで評価し切れない存在であり、全人的な評価を忘れてはいけない。
    ・アメリカ公立小では、テストの点数で自動的に評定がつくシステムがあった。
    ・社会的評価と自己評価は別物。
    ・評価は、最終的には自分のことを自分の言葉で表現できること。

    通知表という圧倒的存在感のある成績を可視化した表現物がある故に、「とにもかくにも通知表を仕上げなければならない」という思い込みがあったと認識できた。私たち教師の仕事は、通知表作成ではなく子どもの成長を支援すること。それを踏まえて、子どもに向けて言葉やメッセージを伝えることを大切にしたいとと思った。


    ちなみに今週は藤原さと先生の講演会に参加予定。楽しみ。

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    投稿日:2023.11.29

  • あかつき

    あかつき

    探究型の学習について、国際バカロレアやイエなプランなどを参照しながら、理論化への足掛かりとなりそうな本。探究学習について理論化するには、まだまだ様々な実践(実験)が必要だと思うが、この本はその実践を行うための手引書になりうると思う。この本をきっかけに、さらなる実践が行われ、より体系化された理論が構築されるようになることを願う。続きを読む

    投稿日:2023.09.16

  • おたま

    おたま

    このレビューはネタバレを含みます

    筆者は、政策、テクノロジー、医療の分野でプロジェクトの立ち上げに携わってきた方で、教育界の方ではありませんでした。しかし、10年前にお嬢さんの通う公立保育園の父母会長となったことから、教育に関心をもつようになりました。その目黒区立ひもんや保育園は、東京大学名誉教授の汐見稔幸先生から厚い信頼を寄せられている井上さく子先生という方が園長を務める自由保育の園だったことも大きなきっかけで、そこでできたママ友の林正愛さんと、卒園しても地域の子どもたちのために何かしたいと「こたえのない学校」を設立しました。まずはモンテッソーリやシュタイナーなどから読み始め、いくつかの学校も見学し、様々なワークショップなども開催する中、現実社会における大人の真剣な営みと子どもの将来を繋ぐような教育手法を探し続けて出会ったのが「探究」という言葉でした。2013年の「東京コミュニティスクール」のワークショップで知ったのが、国際バカロレアの初等教育プログラムで採用されている米国の教育者リン・エリクソンの「概念型カリキュラム」でした。それは、筆者がまさに仕事でプロジェクトをつくるときのやり方そのもので、そのようなものが学校のカリキュラムとして存在することに、心の底から驚いたそうです。筆者は、翌年から見よう見真似で大人と子どもが出会う小学生向けの探究プログラムを作り始め、5年かけて30以上のプログラムをつくったそうです。その実践の中で、「探究」イコール「概念型カリキュラム」でもないことに気づき、学校の教員や民間の教育者たちが探究する学びをつくる場LCL(Learning Creator’s Lab)を設けました。2016年に「探究を探究する」コースから始め、SLE(社会性と情動の学習)、カリキュラムデザイン、教育登山などがあり、今では毎年100名ほどを受け入れています。メンバーは理論を学んではきていますが、頭で理解することと、実際にチームでプロジェクトのアイディアを生み出し、つくり上げることは全く別物で、四苦八苦している方も多かったそうです。しかし、見栄えのいいプレゼンではなく、そのプロセスと振り返りをしっかり行い、心を揺らす発表になるために奮闘されたそうです。アフリカの格言「早くに行きたいなら一人で行け、遠くに行きたいならみんなで行け」の通り、人は他者と協働して生きていくことが大切になります。探究する学びとは、未知のものに出会ったときに、どのようにふるまい、向き合うかを学ぶことです。先も答えも見えていない中で、すったもんだするのが探究であるといえます。
    30年前の生活科の導入や、明治期に学制が導入されたころから、世の中の潮流は実践と切り捨てを繰り返してきました。今、「探究」という言葉の意味も、どんどん希薄になって、流行り言葉のようになり、深く理解されないまま、あちらこちらで踊っているように見えます。今回の学習指導要領改訂でも、探究という言葉が多く使われるようになりました。しかし、探究に関して教師たちが手にする情報は、非常に断片的で、玉石混交です。さまざまな手法・研究はありますが、それぞれの関連が見えにくく、全体像を掴むことがとても難しいのです。探究の全体像が捉えられないなかで、受け取った情報の吟味方法も自身の実践への取り入れ方もわからないのとなっています。いわば、地図がないまま右往左往しているようなものです。日々悩み続けている教師たちを前に、どんなに不格好であったとしても手がかりのようなものを提案することはできないだろうかと考え、筆者は本書を書くことにしたそうです。
    【探究の歴史】
    古代ギリシャやローマに始まる西洋の教育は、ルネサンス期、宗教改革を経て、近代に入る。「エミール」(1762) のジャン・ジャック・ルソー、ドイツの哲学者のカント、スイスのペスタロッチ、ドイツのフレーベル、同じくドイツのヨハン・ヘルバルト、達を経て、サマーヒル学園を創設したイギリス人教育家のA.S.ニイル、シュタイナー教育、モンテッソーリ教育、のような新しい学びの形も生まれた。プラグマティズムという思想の生みの親であるチャールズ・パースは、「真理とは、理想的な探究の無際限な継続の果てに見出されるであろう、最終的な信念の収束点のことである」と述べている。また、プラグマティズムの思想を世界に向けて広く発信したウィリアム・ジェームスの思想とも合わせて、プラグマティズムを教育学に応用したのが、ジョン・デューイである。
    日本では、19世紀の手習い塾から洋学塾までのさまざまな私的の塾に始まり、近代的な学校教育へと整備されていった。
    学びに関する考え方は様々あるが、大きく分けて伝達的価値観(まず知識を与えてスキルを発展させていく。外部的な働きかけによって“学び”が起きるという考え)と構成的価値観(生徒の経験と認知にフォーカスする。“学び”は内発的に起こるという考え)があり、スイスのジャン・ピアジェや、ソ連のヴィゴツキー(発達の最近接領域)、アメリカのブルーナー(足場かけ)等に発展し、探究する学びはそれに支えられている。しかし、構成的な価値観に基づく探究と、伝統的な価値観に基づく教授は入れ子構造で学んでいくべきであり、両者をバランスよく取り入れた調和のとれた相対的な学びの経験をデザインしていくことが大切である。
    【世界のさまざまな探究】
    日本の学校との親和性を考えると、次の6つの探究があげられる。
    国際バカロレア(グローバル):本部がジュネーブにあるIB機構は、世界平和に寄与する人材を育成することを目的として1968年に発足した。現在159以上の国、地域で約5600校に導入されている。日本の認定校は207校である。人類に共通する人間性と地球を共に守る責任を認識した国際的な視野をもった人間を育てることがねらい。
    イエナプラン(オランダ等):抽象的なIBの理念に対して、異学年学級、自由進度で自学自習する教科学習、画工環境の設定など、具体的。授業は「生命に対する畏敬」から始めるべきで、自分で考えられる人を育てる学校を目指した。2019年に日本初のイエナプラン認定校である大日向小学校(長野県)、2022年には公立小として初めて常石ともに学園(広島)が開校。オランダには公私合わせて200校以上、ドイツでも約50校ある。
    プロジェクト型学習(米国/グローバル):ジョン・デューイの思想を正統的に引き継ぎながら時代に合わせてカリキュラムを進化させている、全世界に採用が進んでいる学習法。「公正(Equity)」の概念を学校教育の中核に据えている。ハイ・テック・ハイというチャータースクールが代表的
    生活・総合学習(日本):1989年改訂の学習指導要領で、生活科が低学年に導入され、1998年改訂で3年生以上に総合的な学習の時間が導入された。伊那市立伊奈小学校(長野)では、40年以上前から、子どもの意欲や発想に基盤を置く総合学習を実践している。そのルーツとしては、1918年に大正デモクラシーの思想をもつ自由主義的な新教育運動が全国各地に広がったことがあり、私立では成蹊小学校、成城小学校、自由学園、明星学園、などがあった。
    子どものための哲学(グローバル):ルーツには哲学プラクティスという運動があり、1970年代に米国で始まった。構想の中心には「探究の共同体」という理念がある。あらゆる場面で実践できるが、特に道徳の時間での取組が期待される。
    創造性教育・生成する学び(日本):慶応大学の井庭崇先生と、一般社団法人みつかる+わかる代表理事の市川力さんが導き出したアイディア。子どもの発言はどんな些細なことでも見逃さずすべて受け止め、ひらめきや偶然をキャッチする愛情に満ちた、ユーモア溢れる場をつくっていく必要がある。
    【協働する探究の構造】
    探究とは、生徒自身による「課題の設定」から「情報の収集」「整理・分析」を経て「まとめ・表現」に到達するという学習過程のスパイラルを描く。様々なサイクルがあるが、探究とは、ある起点から何らかの経験を経て変化が起き、新しい状態へ到達して永遠に続くスパイラルである。それは、不確定な状況からスタートしないといけない。筆者は、デューイの探究の定義に、軸にリン・エリクソンの知識の構造を斜めに傾けて合体させた独自のイメージを推奨している。教師は卓越した観察力と軸の設定能力、子どもを導くマネジメント力等を求められている。探究学習の過程で、知識を習得するだけでなく、非認知能力が育まれ、それが土台となることで、さらなる探究の展開を助けることができる。
    【探究における問いのデザイン】
    探究の中心軸の具体的な設定としては、次の3つがあげられる。
    1本質的な問い、2中核となる概念理解、3解決したい課題
    「本質的な問い」とは「協働する問い」とも置き換えられる。国際バカロレアでも参照されている米国の教育者マクタイ&ウィギンズは、本質的な問いの条件として次のように述べている。
    1.本質的な問いは生涯を通じて繰り返される問いであり、時空を超えるものである
    2.本質的な問いは、さらに深く、水平に広がっていく可能性をもっている
    3.本質的な問いは、自分の過去の経験、そして未来の自分に意味のある繋がりをもち、探究心に灯を点ける
    最大の問いは「人生を貫く問い」であり、生涯にわたって問い続け、自分なりの答えが更新されていく問いこそが、本当に人生を豊かにする問いとなる。
    【概念を使った探究のデザイン】
    2つめの軸となるのが「中核となる概念理解」である。これは、国際バカロレアの中等教育プログラムの開発コンサルタントを務めた米国の教育者リン・エリクソンの設計による探究の形である。リン・エリクソンは、小学校の低学年までは、多くの学校で概念を存分に活用した学びができているのに、高学年につれて事実に関する知識の量が増え、かつ概念型の取組が減ることによって、モチベーションが下がってしまっていると指摘する。また、事実レベル(低次の思考)と概念レベル(高次のレベル)の双方を使って思考の相乗作用を行うことによって、子どもたちは、総体としての知識を深め、知力を発達させていくとも述べている。概念とはトピックから引き出された思考の構築物であり、「時を超越し」「1,2語の単語か短いフレーズで表され」「普遍的かつ抽象的である」性質をもつとしている。
    【課題解決による探究のデザイン】
    最後は「解決したい課題」からの軸である。先の2つとは少し毛色が違うが、デザイン思考を使った授業開発もその一つである。人間中心のクリエイティブな問題解決アプローチを提案している。学びの中心軸にたどりつくことが難しいこともあるが、何より自ら気づくプロセスを大事に考えることで、大きな学びにつながることができるのである。
    【探究の評価をデザインする】
    パフォーマンス課題などは、ルーブリックを使用して評価されることが多い。日本の学習指導要領では、資質・能力の3つの柱(個別の知識・技能、思考力・判断力・表現力等、学びに向かう力・人間性等)が示されている。現在は「総括的評価」一般的だが、プロセスを評価する「形成的評価」が重要視されつつあり、国際バカロレアの初等教育プログラムでも、よりこちらが大事にされるようになっている。その際には、フィードバックも重要である。評価する主体も、教師から自己評価やピア評価に移行しつつあり、バランスよく組み合わせていくことが大切である。
    【探究における協働のデザイン】
    教師間のコラボレーションがなければ、とてもではないが探究の単元設計はできない、というのが世界の常識である。例えばIB校では、PYPコーディネーターという専門職が学校に1名配置されるべきとしている。日本の小中校であれば、市区町村レベルの教育委員会がこうした機能をもつことも考えられる。ハイ・テック・ハイでは、人文系と理数系の教師がペアになって設計するそうである。社会性と情動の学習(SEL)の導入も欠かせない。
    【探究の究極の目的】
    ハイ・テック・ハイでは、「公正」を中心軸に据えた学校カリキュラムを組んでいる。多様な考え方を経験をしている子どもたちが集まり、お互いにチームで学び合うことこそが大きな価値をもつ、ということを教員全員が理念として共有している。国際バカロレアが最上位の概念として設定したのは「平和」である。第二次世界大戦への深い反省とともに、世界平和に寄与する人材の育成を目指している。日本の教育基本法でも、前文に「世界の平和と人類の福祉の向上に貢献することを願う」「個人の尊厳を重んじ、心理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期する」とある。私たちは、どうあらねばならないのか、何をすべきなのか、ということを、皆で考え続けていかねばならない。

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    投稿日:2023.09.03

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