【感想】「美食地質学」入門~和食と日本列島の素敵な関係~

巽好幸 / 光文社新書
(8件のレビュー)

総合評価:

平均 4.4
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ブクログレビュー

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  • kohamatk

    kohamatk

    日本の食文化が地形や地質と関係していることを説明する。

    日本列島は2500万年前にアジア大陸から分裂して、1500万年前に現在の位置まで移動した。日本列島が大陸から分裂したのは、太平洋プレートが沈み込んで上部マントルと下部マントルとの境界付近に横たわっていたものが浮き上がることで、マントル内の上昇流が生じたためと著者は考えている。

    この時代に、もともと一つの火山列島だった伊豆小笠原マリアナと九州パラオが分裂して、四国海盆とパレスベラ海盆という新しい海底地盤がフィリピン海プレートの中に誕生した。生まれたての熱いプレートである四国海盆が沈み込み、プレート自体が溶けて大量のマグマが発生した結果、西日本の太平洋沿岸に巨大火山が生まれ、地下では巨大な花崗岩体が形成されて、紀伊山地や中国山地、九州山地が隆起した。

    300万年前、それまで北向きに動いていたフィリピン海プレートが北西へと向きを変えた。それによって、西日本には西向きの力が働くようになり、1億年前にできた中央構造線が動き出した。 200万年前から隆起し始めた赤石山脈は、フィリピン海プレートの沈み込みに伴う圧縮によって形成されたと考えられる。

    マグマは地下数十kmの深さで発生するが、地表に達して火山となるのは1~2割で、ほとんどのマグマは地下で固まる。固まったマグマは周囲の岩盤より軽いため、浮力が働いて上昇するため、東北日本の山地が形成された。

    花崗岩は、マグマが地下でゆっくり冷え固まったもの。白っぽい粗粒の岩石で、国会議事堂や城の石垣として使われる。御影石は、かつて六甲山系でとれた花崗岩がブランドとして全国に広まったもの。花崗岩は鉄に乏しく、カリウムに富むため、そこから湧き出る伏流性は、鉄分を嫌う麹菌やカリウムを栄養源とする酵母菌を用いる日本酒の製造に適している。日本の酒処の背後には、いずれも花崗岩の山が控えている。

    花崗岩のほとんどは、日本列島がアジア大陸の一部だった白亜紀に形成された。白亜紀に大量のマグマが生成されたのは、海洋プレートの移動が速かったことが原因の可能性が高い。白亜紀のチョーク層には、ところどころに厚さ1mほどの黒色頁岩が挟まれており、有機物の分解が進まない無酸素状態が少なくとも10回以上繰り返されたことを示している。当時の大気中の二酸化炭素濃度は1000~3000ppmで、平均気温は15度以上も高かったため、極域の海水は氷結せずに塩分濃度が高くならず、沈み込まなかったため、海洋循環が停止した。その結果、海中への酸素供給が止まって、大規模な無酸素状態となった。白亜紀の温暖化の原因は火山活動と考えられ、その原因はマントル対流か活発になったことと考えられるが、その理由はよく分かっていない。

    旨味成分のグルタミン酸は、乾燥昆布に染み込んだ水によって抽出されるが、カルシウムが多い硬水では十分に抽出されない。京都盆地の地下には、堆積した新しい地層が帯水層となって地下水盆が形成されている。京都の水はカルシウムが少ない軟水のため、この地が昆布出汁を基本とした和食の中心地となった。

    世界の発酵食品は、酵母や乳酸菌を利用したものが多いが、モンスーンの影響を受ける東アジアでは、カビを用いた発酵食品が特徴である。

    黒ボクと呼ばれる火山性の土壌では、リンがアパタイトと呼ばれる粘土鉱物に固定されてしまい、多くの作物はリンを吸収することができないが、ソバは吸収することができるため、火山性土壌でも育てることができる。

    関東地方に広く分布する関東ローム層は、黒ボクと呼ばれる腐植土の下にある褐色の粘土質の土壌を指す。火山近傍に広がる荒地を覆う火山灰などの砕屑物が風で運ばれて再堆積した風塵と考えられる。

    徳川綱吉の時代に川越藩主に任ぜられた柳沢吉保は、雑木林の落ち葉を堆肥として利用した三富新田の開発を進めた。この農法は作物の生産性向上に大きく寄与し、武蔵野台地一帯へと広がっていき、現在の東京野菜に引き継がれている。

    関東地方の基盤は、深さ4000m以上のお椀型の窪地になっている。房総半島は、海溝型巨大地震による地殻の跳ね上がりによって隆起した。関東平野は、利根川をはじめとする河川が運ぶ土砂が、房総半島に堰き止められるように堆積することで広がった。

    伊勢湾から琵琶湖、若狭湾にかけての沈降帯が連なっているのは、この地域のフィリピン海プレートの沈み込み角度が緩く、マントルの補償流が侵入できないことが原因と考えられる。
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    投稿日:2024.05.29

  • トト

    トト

    軟水と硬水。二つの水の性質が、我らの食文化のルーツにつながっているとは。目に見えない地下水脈から流れる水が私たちの生命の営みと、文化の基礎を支えてくれている。この本は知らなかったことをプレートの話から食文化の話までを織り交ぜて静かに教えてくれる。また読みたい一冊。続きを読む

    投稿日:2024.05.04

  • 有井 努 Tsutomu Arii

    有井 努 Tsutomu Arii

    あとがきにこの本の意図するところが書かれて
    います。

    2013年2月、「和食」がユネスコ無形文化遺産
    に登録されました。

    そこで農林水産省は和食の特徴をこう表現して
    います。

    「日本の国土は南北に長く、海、山、里と表情
    豊かな自然が広がっているため、各地で地域に
    根ざした多様な食材が用いられています」と。

    しかし「表情豊かな自然」はなにも日本だけに
    限られたものではないです。「日本」を他の国
    に置き換えた文脈も成立してしまいます。

    そこで地質学です。

    なぜ日本の水は美味しいと言われるのか。なぜ
    出汁という旨味が発展したのか。なぜ瀬戸内海
    は豊かな漁場なのか。

    これらはすべて日本という地形だからこその産
    物なのです。

    何万年もかけて形作られた日本列島が、現在の
    和食を育てたと言っていいのです。

    自然のありがたみを噛み締める一冊です。
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    投稿日:2024.04.17

  • あおりんご

    あおりんご

    マグマ学者で美食家の著者ならではの視点で日本の食材についての蘊蓄と地学的側面から解説。日本という特別な環境があってこそできた食材であることがわかり、奇跡に感謝したくなります。地学知識はちょっと難しいところがあるかもですが、食材を見る目が変わるかも知れませんね続きを読む

    投稿日:2023.10.21

  • echigonojizake

    echigonojizake

    かなりの食通の地質学者が買いた本。魚も蕎麦も日本酒も醤油もすべてそこでしかとれない、つくれない理由がある。この本を読み進めて日本列島全体がおいしそうに見えてきた。文字通り、素敵な関係であり、地球の奇跡ではないかとすら思えてきた。

    以下提案。
    これだけ外国人観光客が日本に来ているわけだし、この本を英語なりフランス語なり中国語なりに訳したらよいかと。地方にも埋もれた資産がたくさんある。都市部にばかり観光客が集まって観光公害を起こす恐れもあるので、バランサーにもなりうる。
    続きを読む

    投稿日:2023.06.24

  • comma

    comma

    軽い読み物かな~と読みはじめて、
    違うじゃん!私の早とちり!


    ちゃんとしたマグマ学者の人が書いてるよ。

    資料も産業技術総合研究所地質図ナビ、国土地理院、海上保安庁のデータをもとに作成
    とかだし、無理かもしれないなぁ~。

    と、思いつつ読み進んだら、面白いのよ。
    なぜ?読めるの?
    それは、巽好幸先生が、食いしん坊だから!

    出汁とブイヨンの違いは軟水と硬水の性質の特性のいかしかた、ではなぜ日本は軟水なの
    と、地理のお話。

    下仁田ネギがオンリーワンなのは、地質と
    からっ風の通過で、関東ローム層が堆積しないこと。だったとは!

    そんなこんなで、へぇー。そうなんだ!
    と面白く読めました。


    続きを読む

    投稿日:2023.04.16

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