【感想】シルバービュー荘にて

ジョン・ル・カレ, 加賀山卓朗 / 早川書房
(6件のレビュー)

総合評価:

平均 3.3
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ブクログレビュー

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  • 羊さん

    羊さん

    ロンドンの金融街でトレーダーをやっていたジュリアンは、金融街を離れ海辺の町で書店を始めた。近くのお屋敷の主人エドワードが顧客となり、店の地下に一緒に「文学の共和国」というコーナーを作ろうと持ちかける。書店の経営に行き詰まっていたジュリアンは、エドワードの家に招かれる間柄となるのだが…。

    ル・カレの作品は初めて読んだ。スパイ小説ではあるのだが、オールドスパイたちの生き様に、ちょっと感動した。
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    投稿日:2022.08.10

  • くんな

    くんな

    特に前半、書き込み足りなすぎでは。人物造形等が薄くて、入り込みにくい。重大な脅威って?それがル・カレ的といえばそうかもな、運びの上手さはあるが。

    投稿日:2022.03.07

  • キムチ27

    キムチ27

    装丁・・昏い海に向かって立つ男の背中・・ル・カレその人?或いはエドワード?

    なかなか読みにくさが付きまとう滑り出しで、登場人物の大和にも困惑。しかも、諜報モノに付き物・・人物の名称が微妙に異なる。煎じ詰めればジュリアン/リリー/デボラ・とエドワードのダイアログを骨とし、展開する。
    一件、しんとして事なき様を呈しつつ、底流に流れる裏切りの歴史、しかも家族皆がスパイと有って互いが互いを裏切る・・そぶりも見せず。

    冷戦最中の空気感が極まる。20世紀後半、スパイモノの旗手たる彼は最後まで冴えわたるペンを走らせた。
    英国と共産圏の諜報合戦で国を、妻をと二重の意味で裏切ったエドワード・・彼の想いはシルバービュー莊に佇み中で何を買い越しているのだろう・・国、組織守るべきものは真実にあったのだろうか
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    投稿日:2022.02.03

  • abraxas

    abraxas

    冷戦が終わったとき、これでスパイ小説も終わった、とよく言われた。米英を中心とする資本主義諸国と旧ソ連を盟主とする共産主義諸国がイデオロギーの対立を掲げ、角突き合わせていたからこそ、米英ソの諜報合戦は関心を集めた。冷戦が終われば、スパイは仕事がなくなるだろうと皆が思ったのだ。当然、そんなことはなかった。ル・カレはその後もスパイ小説を書き続けた。ただ、重心の置き方は変わった。

    英国情報部はオックスブリッジで部員をリクルートする。パブリック・スクール出身者が多く、家族や交友関係、本人の思想信条について調査するまでもないからだ。彼らは生え抜きであり、組織の頭、中枢になる人材である。代々諜報活動に従事する一家も多く、身内には国政に携わる者も多くいる家柄で、イギリスのために働くことに疑問を持つことはない。

    頭だけでは仕事にならない。手足となって働く部員が必要だ。関係諸国の言語に通じ、内部事情に詳しい人員だ。そういう連中の中には、金のために自分の祖国を売る者もいるし、秘密を握られ、仕方なく手を貸す者もいる。だが、自分の思想信条のために自ら進んで渦中に飛び込む者もいる。この手の人間は熱意があり、よく働くが、自分というものを持っているので、ときにはそれが仇をなすこともある。

    国家と個人が同じ夢を見ている間はいいが、同床異夢を見出すと厄介だ。人体に喩えるなら、組織の中で他と異なる動きをする細胞は癌だ。早急に切除しなければ命取りになる。そこで、今までは同胞だった者が敵に回る。一人の主人公を中心に話が展開するのではなく、立場を異にする複数の人物が登場し、多視点で語られる。それに応じて時間が前後することもあり、展開が読みにくい。最近のル・カレの特徴だ。

    英国に限ったことではないが、肥大化した組織は機能不全を起こす。劣化した組織は疲弊し、情報は停滞し、問題が起こればどこも責任逃れに躍起になる。中枢がそんな状態では末端に混乱が生じるのは必至だ。それが原因で多くの人命を失うことになっても、組織は自分を疑うことはしない。過ちを正視し、誤りを正してこそ死者も浮かばれるのに、決してそうはしない。そんな組織に命を預ける値打ちがあるのか、という問いが生まれる。

    『シルバービュー荘にて』は、ル・カレの遺作である。最後まで作品の質を落とさなかったル・カレらしい、上出来のスパイ小説である。イースト・アングリアの海沿いにある小さな町で書店を経営する三十三歳のジュリアンが主人公。父のせいで苦労しているのに、良識があり、正直でぶれることがない。ル・カレが最後に自分の小説を託すに足る人物だ。人を疑うことを知らない書店主が、国家を揺るがす一大機密漏洩事件に巻き込まれる。

    大物の女性スパイから、情報部内の内部調査に携わる人物に極秘連絡が入る。機密が漏れているというのだ。事実だとすれば大問題だ。内密に調査を進めるうちに情報漏洩犯の素顔が次第に明らかになる。女スパイの夫はポーランド人。戦時中にユダヤ系の同胞をナチスに売った父を恥じ、ファシストと闘うことに人生を賭けてきた男だ。しかし、組織が彼の情報を軽視したことで、友人が死亡。彼は組織と自分の信条との間で板挟みにされた。

    調査の結果、小さな町の中で行われていたスパイ活動が判明する。人は死なない。けが人も出ない。表面上は、町の商店内に置かれたコンピュータで骨董の売り買いをしたり、大量の本を発注したりする、ただそれだけの面白くも何ともない事件である。ところが、驚いたことにそれが英国情報部の検閲をすり抜けてしまっていたから、さあ大変。情報部はおろか、国家の上層部が上を下への大騒ぎになる。

    これが、ジョン・ル・カレの遺作だと思うと、いささか感慨深いものがある。というのも、これはいわくつきの父親を持ったせいで、人生のスタート時点で転んでしまった男の物語だからだ。知っての通り、ル・カレの父親は有名な詐欺師で、彼は生涯それに翻弄され続けた。詐欺師とスパイは凄腕の人たらしであることが似ている。人に好かれようとして嘘をつくことに慣れると、人は自分を見失い、相手に合わせて自分を拵える。その結果、アイデンティティを失ってしまうのだ。

    『パーフェクト・スパイ』の主人公がそうだった。いい小説だったが、読んでいて辛かった。作家と父親の関係がそのまま反映されているからだ。『シルバービュー荘にて』はちがう。作品に自嘲の苦さがないし、目が過去でなく未来を向いている。ジュリアンとその恋人でスパイ夫婦の娘リリーのアイデンティティは微塵も揺るがない。とんでもない父親ではあったが、二人の父親は組織と袂を分かっても、自分の信条は捨てなかった。これは、作家ル・カレから、かつてその身を置いた「組織」への別れの挨拶なのかもしれない。
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    投稿日:2022.02.03

  • 陽子の本棚

    陽子の本棚

    彼の最後の作品を初めて読んだので、とても理解しにくかった。
    諜報部員だった経験からの作品ということは、わかったけど、他のを読んで、これを読めば、登場人物の人生など推測できて、深い理解につながったかもしれない。
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    投稿日:2022.01.25

  • take9296

    take9296

    ロンドンの金融街で辣腕トレーダーだったジュリアンは、厳しい競争社会に嫌気がさし、仕事をやめた。彼は書店主となるが、思ったように本は売れず、経営は苦しかった。 そんな折り、エドワード・エイヴォンと名乗る男が、彼の前に現われる。エドワードはジュリアンの父のことをよく知っていて、書店の地下室に強い興味を示した。 その頃、イギリスの情報機関「部(サービス)」で国内保安の責任者を務めるプロクターのもとに、幼い子供を連れた若い女性が訪ねてきた。彼女は母から託された手紙をプロクターに渡した。手紙を読んだプロクターは、イギリスに打撃を与える重大な事態が起きていることを知り、調査を開始する。やがて、その調査はジュリアンの周囲に迫っていく。

    没後1年。未発表の長編が刊行された。後ろ髪を引かれるような思いで、読み終えた。
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    投稿日:2021.12.29

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