【感想】ナショナリズムの美徳

ヨラム・ハゾニー, 中野剛志, 施光恒, 庭田よう子 / 東洋経済新報社
(5件のレビュー)

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  • Lepus in December

    Lepus in December

    巻頭解説 中野剛志
    不寛容な「リベラリズム」、多様性を尊重する「国民国家」
     本書が大きな影響をもたらしたアメリカ保守主義の再編
     理想を探究する「政府の哲学」現実を直視する「政治秩序の哲学」
     「リベラリズム」と「保守主義」は対立する思想ではない
     「地政学的大変動下」にある現代日本人必読の書

    ナショナリズムの美徳
     序章 ナショナリズムへの回帰
      ナショナリズムは善か悪か
      ベルリンの壁崩壊以降
      本書で描かれること
      ”拡張”された自己
      憎悪と偏見はどこからくるのか
      ナショナリズムと帝国主義

     第1部 ナショナリズムと西洋の自由
      第1章 世界秩序の2つのビジョン
       聖書とネイション
       王は民から生まれる

      第2章 ローマ教会と帝国としてのビジョン

      第3章 西洋のプロテスタント構造

      第4章 ジョン・ロックとリベラル構造
       プロテスタントの秩序とリベラリズムの秩序
       同意・義務・責任
       ”リベラル”理論
       リベラルなパラダイムにとりつかれた知識層

      第5章 不信を抱かれたナショナリズム
       烙印を押されるナショナリズム
       ヨーロッパ大陸の統合と英米

      第6章 帝国主義としてのリベラリズム
       独善的なリベラル帝国主義
       異なる意見への中傷
       不寛容なリベラリズム

      第7章 リベラリズムに対するナショナリストからの代案
       アメリカ的・ヨーロッパ的世界秩序
       反対派の基本原理
       第3の可能性
       根強く残るプロテスタント構造

     第2部 国民国家とは何か
      第8章 政治哲学の2つのタイプ
       国家は政治秩序の最善の形態か?
       政府の哲学と政治秩序の哲学

      第9章 政治秩序の基礎
       個人が組織に加わる理由
       集団の目的が個人の目的になる
       絆から発生する組織
       家族・氏族・部族・ネイション
       互いに抱く忠誠心
       家族の”健康と繁栄”
       集団の”健康と繁栄”

      第10章 国家はどのように生まれたのか?
       おとぎ話を植えつける
       氏族・部族の秩序から国家へ
       さまざまな国家の形態

      第11章 事業と家族
       企業を支えるもの
       家族を支えるもの
       ネイションは企業か家族か

      第12章 帝国と無政府状態
       支配しない国家はあるか?
       道徳的根拠をもとにした行動
       人類統一への願望
       帝国の秩序のみが正しいとは言えない

      第13章 秩序原則としてのネイションの自由
       第3の秩序についての検討
       ネイションの自由とは
       痛みを感じることを共有する
       集団における自由

      第14章 国民国家の利点
       権力の集中を避ける

      第15章 連邦という解決策の虚構
       2つの秩序のジレンマ
       紛争の解決策について
       国際連邦の権限はどこまでおよぶか
       部族や氏族による連邦主義
       アメリカにおける連邦の歴史
       連邦国家が直面する問題
       主権の共有?

      第16章 中立国家という虚構
       ユートピア的な中立国家
       愛着の対象となるもの
       中立性という幻想
       恣意的に国境を引かれた新国家
       イスラエルの設立
       1つのナショナリティの優位性が寛容を生む

      第17章 ネイションの独立の権利?
       権利があるとはどういうことか
       ネイションを構成するもの
       万人のためのネイションの自決権は成り立たない
       独立国家と周辺国への影響

      第18章 国民国家からなる秩序の諸原則
       ネイションの政治的独立性
       無政府状態が引き起こすもの
       国家間の「力の均衡」
       新国家の設立と独立国家の存続
       国際機関による国家への強制力

     第3部 反ナショナリズムと憎悪
      第19章 憎悪はナショナリズムへの反論か?

      第20章 イスラエルに対する誹謗中傷活動
       繰り返されるイスラエルへの中傷
       進行形のパラダイムの移行

      第21章 イマヌエル・カントと反ナショナリズムのパラダイム
       普遍帝国からの解放
       新しいパラダイムの進展
       ポスト・ナショナルの広がり

      第22章 アウシュヴィッツの2つの教訓
       ユダヤ人にとってのアウシュヴィッツ
       ユダヤ人の無力さという罪
       2つの異なるパラダイム
       ヨーロッパから見たイスラエル

      第23章 第三世界とイスラムの非道な行為が見過ごされているのはなぜか?
       なぜイスラエルへの敵意だけが増幅されるのか
       人間の進歩の3段階

      第24章 イギリス、アメリカ、その他気の毒なネイション
       ネイションの自決に向けられる反感
       ヨーロッパ人に求められる道徳規準

      第25章 帝国主義者はなぜ憎むのか
       拒絶に対する憎しみ
       リベラル帝国主義者の視線

      終章 ナショナリズムの美徳
       独立した国民国家とナショナリスト
       ナショナリズムの存在感
       帝国による征服への欲求とは
       真の道徳的成熟
    Basic Books「The Virtue of Nationalism」 2018年9月

    巻末解説 施光恒
    グローバリズムを乗り越えるための必読書
     新しい保守主義のマニフェスト
     2つのビジョン
     国民国家体制の利点
     ナショナリストへの憎悪と国民の分断
     「グローバル化」に対置すべきは「国際化」
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    投稿日:2023.03.22

  • まー

    まー

    リベラル、サヨク、9条信者、人権屋、ポリコレ、フェミ、ヴィーガン、グレータートンベリ、SDGs、LGBTQQIAAPPO2S... 界隈の言説に対して日頃から感じていた、幼稚さ、嘘臭さ、白々しさ、不愉快さの理由が明快に説明されていた。

    「ぼくのかんがえたせかいへいわていこく」主義者とでも言うべきお花畑は、自分が安心してお勉強ができている環境を「自身の先祖が血を流して積み上げ引き継いできた」遺産ではなく「生まれながらに持っている」権利だとはき違え、現実の人間が苦心と調整と妥協の末にこぎつけたささやかな成果を、はた迷惑な理想主義をまき散らして台無しにしていく。
    その上、自分の主張が万人にとっての絶対正義だと疑いもせず信じ込み、反対意見は聞く耳を持たずに社会的私刑で圧殺し、賢く「戦う」(笑)自分に酔いしれている、迷惑なガキ。

    著者は理想そのものを否定しているわけではなく、「遠くにあって目指すべき星」と表現している。なるほど星がすぐ近くにあったら人類は燃え尽きてしまう。遠ざかるわけにはいかないが、手が届くものとは思わない方がよい。

    「国民国家」とは、同じ歴史、文化を共有する集団が個々人ではなく国家としての意思を自決し、「その領域内の」人間に強制できる政治制度で、決してベストではない。しかし、一見人類に普遍の権利と自由を保障するように見せかけつつ、実体は皇帝(もしくは「自分たちだけが」神の言葉を伝えることができるとする「教皇」)が支配する「普遍」帝国よりははるかにマシなシステムである。

    ユダヤ人である著者は、アウシュビッツの主因をナチズム以上に、ナチズムから「自分自身の軍事力で」国民を守ることができなかった、つまり第一次世界大戦終了後の時点でイスラエルを建国できなかったため、だと断じている。安全保障を米英に任せてしまったがために同胞が虐殺されるのを「ただ、見ていることしかできなかった」のだと。9条信者は何と答えるのか。

    そして、国民国家は「マジョリティである自国民の」アイデンティティが確保されているからこそ、国内のマイノリティに「国民の統合を壊さない限りにおいて」譲歩して寛大に接することができ、それが文化の多様性と国民としての一体性を調和できる現実解だとしている。

    「国民の統合を壊さない限り」という保留つきの権利は、リベラルサヨクの幼稚な自我には「ぼくのけんり(=ワガママ)がせいげんされるなんてがまんできな~い」ということで非難を浴びるわけだが、全人類の権利を保障する(キリッ)普遍帝国は、弱者のフリをした特権エリート(まさに教皇)が「自明」とされる独善的な主観にもとづいて「人類固有の権利を侵害した」者を断罪し、反論を認めずに(なぜなら権利侵害は自明だから)制裁を科す。何のことはないリベラルサヨクは「全人類の平和のため」と偽装しつつ、好き勝手できる教皇の座を夢想しているだけだ。

    だからこそ「全人類」という白々しい旗を降ろして「USA」の利益を追求するトランプや、自分の主張に全面同意しない「普通の」人々を傲慢なマジョリティだとヒステリックに非難する。
    著者は国民国家の弱体化や解体を図る敵対集団の工作についても認識しており、やはり、勝手に入り込んできて権利を喚き散らす南鮮のゴキブリは適切な場所に退去させるしかない。

    一方、著者はユダヤ人らしく、キリスト教に汚染された末期ローマ帝国、神聖ローマ帝国、ソ連、ドイツ第三帝国、そしてEUことドイツ第四帝国を「普遍」帝国として批判する一方、共和制~五賢帝あたりのローマ帝国は、なかったことになっている。

    国民国家としての主張に対して「アラブはよいがイスラエルはダメ」というダブルスタンダードの論調が強い(そうだろうか?)理由として、イスラエル=ヨーロッパ=先進国、アラブ=非ヨーロッパ=後進国、と書いているところは読んでいて一瞬、南鮮のブログかと思った(しかも結構ページ数を割いている)。この点については「長男(ヨーロッパ人)だから我慢しなさい」的な感情ではなく、単に格差拡大で「金持ちのユダヤ人」が再び嫌われるようになったのではないかと思う。国際金融資本のロスチャイルド一族(もはやユダヤ民族とは言えない気がするが)とイスラエルのユダヤ人は別物だろうし気の毒ではあるが。
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    投稿日:2022.08.25

  • tokyobay

    tokyobay

    リベラリズムである「政府の哲学」とリアリズムである「政治秩序の哲学」を区分する必要性を論じつつ、リベラリズムを「政治秩序の哲学」に適用することにより帝国主義を支えるイデオロギーになることに警鐘を鳴らす。基本的にはナショナリズム(国民国家)擁護の内容なので、ナショナリズムと帝国主義を混同し、ナショナリズムに悪のイメージしか持たない人にはややとっつきにくいかもしれないが、論旨は明快なので頭をリセットしてから読めば理解は可能だと思う。とはいえ、本書は冷戦終結後のグローバリズム的帝国主義への批判であり、プーチンロシアのような「力」による権威主義的帝国主義が登場してくると話が100年以上前に戻ってしまう。そしてそのようなロシアに対し、ウクライナ的な国民国家やナショナリズムが1国で対抗していく事は困難であり、結局は中露的権威主義的帝国主義と西側的リベラリズム的帝国主義との戦いになってしまっているようにも思える。よって、著者の主張する国民国家やナショナリズムに基づく「国際化(による多元的世界の構築)」という文言がある種の理想主義にも感じられ、その「美徳」というものも帝国主義の前では吹っ飛んでしまっているのではないかという気さえしてくる。続きを読む

    投稿日:2022.04.13

  • kiyotake

    kiyotake

    著者のヨラム・ハゾニー氏はイスラエルの政治哲学者、聖書研究家、シオニスト。エルサレムのヘルツル研究所所長。公共問題研究所のエドマンド・バーク財団会長。
    自由と民主主義を守るのは国民国家であるとして、誤解されがちなナショナリズムの価値観を問い直していく。その一方で、リベラリズムのパラダイムは、専制や帝国主義と同じだと警鐘を鳴らす。

    原書が出版されたのは2018年。ロシアのウクライナへの軍事行動が現実のものとなるまで、おそらくは理論の書として見られていたものと思います。2022年3月20日時点において、ウクライナの示している抵抗は氏の主張するネイションの概念と整合的に見えます。

    また、国民国家という概念を軸にしたドイツとヨーロッパの有り様の分析は考えさせられるものでした。
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    投稿日:2022.03.20

  • bb95

    bb95

    納得できる議論も多いが、ヒトの生物学的進化や文化との共進化を無視して議論を進めているのはさすがに説得力を欠くように思う。あと、現実のイスラエルはどうやねん!と突っ込みたくなるところも多い。

    投稿日:2021.04.23

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