【感想】聖夜

佐藤多佳子 / 文春文庫
(19件のレビュー)

総合評価:

平均 3.6
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ブクログレビュー

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  • 司書KODOMOブックリスト(注:「司書になるため勉強中」のアカウントです)

    司書KODOMOブックリスト(注:「司書になるため勉強中」のアカウントです)

    「学校と音楽をモチーフに少年少女の揺れ動く心を瑞々しく描いたSchool and Musicシリーズ第二弾。物心つく前から教会のオルガンに触れていた18歳の一哉は、幼い自分を捨てた母への思いと父への反発から、屈折した日々を送っていた。難解なメシアンのオルガン曲と格闘しながら夏が過ぎ、そして聖夜―」続きを読む

    投稿日:2024.01.30

  • nkwada

    nkwada

    キリスト教系の高校なのかな、学校のオルガン部を舞台にした青春物語という感じ。この手の話は苦手なのだが、淡々とした主人公で、淡々とした語り口で、最後までスラーっと読めてよかった。

    投稿日:2023.09.01

  • ふみねん

    ふみねん

    信仰も何もない私だけど、教会やパイプオルガンが醸す静謐で糸の張ったような空気は、どこかにいるかもしれない神様へ思いを巡らせる。

    母親の手紙の内容が気になった。

    投稿日:2022.08.03

  • 夕芽

    夕芽

    このレビューはネタバレを含みます

    信じられない神と、思い出したくない母。
    けれども、どんなときにも、音楽は彼とともにあった。


    『聖夜』 佐藤多佳子 (文春文庫)


    やっぱりいいな、佐藤多佳子さん。
    今これを表現するにはこの言葉をおいて他にないぐらいの的確な言葉がスコーンと来る。
    一行一行、一文字一文字の言葉の全部が心の中に入ってきて、あふれてこぼれそうだ。

    School and Music シリーズ第二弾。


    鳴海一哉は、ミッション系の高校に通う18歳。
    家は教会で、父は牧師、母はオルガン奏者という環境に生まれ、小さな頃から神様やオルガンに触れて育った。

    ところが一哉が10歳のとき、母がドイツ人のオルガン奏者と駆け落ちをして、家を出て行ってしまう。
    家族は壊れ、母との思い出は、悪霊のように一哉を苦しめた。

    神を信じなくなり、人と打ち解けず、母の罪を“神”を通して許そうとしている父に反発する。
    これはキツイな。
    親子の問題に神が介入してくるのか……

    物語はそんな一哉の一人称で語られていくのだ。
    膨大なモノローグの洪水におぼれそうになる。
    引きずり込まれて息が苦しくなる。

    大人びてひねくれた少年のアドレッセンスの終盤。
    無駄な寄り道以外の何ものでもない。
    なのになぜ、こんなにも力強く真っ直ぐに、ぐんぐん道を進んでいるように見えてくるのだろう。


    母がよく弾いていたメシアンという作曲家の曲を、一哉は文化祭のコンサートの演奏曲に選ぶ。
    しかし彼にとってメシアンは、母の記憶と直結しており、不安と恐怖の象徴であり、彼言うところの開けてはならないドアでもあった。

    文化祭の日、一哉はメシアンを弾かなかった。
    コンサートを無断欠席したのだ。
    友人の家でレコードを聴き、ロックバンドのライブに行き、その日、家へは帰らなかった。


    一哉が好きなミュージシャンとして、ELPのキース・エマーソンの名前が出てくる。
    この物語の時代は1980年なのだ。

    私は中三だったな。
    携帯もパソコンもない時代。
    必要不必要にかかわらず情報があふれている今とは違って、好きなことを極めるにはそれなりの努力がいった時代。
    不便だけど、誰も不便だとは思わなかった。
    精いっぱい背伸びをして、外の世界を見ようとしていた。
    一哉もそんな時代の少年なのだ。


    クラスメイトの深井や、キーボーディストの笹本さんとの出会いが、一哉を変えていく。

    オルガン部で弾いた初めてのパイプオルガンの音色や天野の演奏が、干からびた土に降る恵みの雨のように彼の心を潤し、まるでつぼみがふわりと開いたみたいに、彼の心を優しくした。


    父の部屋で二人きりで話をするシーンがとてもよかった。
    いつも正しい父が、ちょっとだけ揺らぐ。
    読んでいてドキドキする。
    子供が主役でありながら、大人の苦悩もきちんと手を抜かずに描かれていて、大人として、姿勢を正して物語と向き合おうという気持ちにさせられる。


    父はいつも正しくて、神と家族の比重が同じで、でも母は、それを受け入れることができなかった。

    祖母は、悪いことのできない父のことをかわいそうだという。

    「あんなに完璧な父なのに、その完璧さをものともせず、祖母はさらに大きな愛で包み込んでいる。悪さのできない父さんがかわいそうだって?そんなこと誰が思う?そんなことを思う人は、この世に一人だ。彼の母親だけだ。父がうらやましい。あんな母親がいて。」

    そして、これがすごかった。

    「どんな女でもいい。お母さんにもう一度、会いたい。」

    震えた。
    これが一哉の裸の心なのだろう。
    でも。
    自分に母親がいないことと、父に母親がいることをなぜ同列に考えてしまうの?
    なぜただの父子の問題に、そんなややこしい感情が入り込まなくちゃいけないの?


    父は、一哉あての母からの手紙をずっと隠していたことを告白し、一哉に手紙を託す。
    一哉は、クリスマスコンサートでメシアンがきちんと弾けたら、母からの手紙を読もうと決めた。

    お父さんの無垢な正しさが、その安定感が、本当は見えないところで、一哉を支えていたんじゃないかな。


    ラストシーンはコンサートの前日練習。
    オルガンと一体になる幸福感や神への感謝。
    音楽は人を変えることができる。
    いくら道をそれたって、やっぱり神様と音楽に見守られて、君は育ってきたんだね。


    牧師として最後までブレることのなかった父、手紙の向こうで待っている母、ともに音楽を生み出すオルガン部の仲間たち。
    最後はとても穏やかな優しい気持ちで読み終われる。

    本番がうまくいきますように……

    祈りながら、本を閉じた。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2022.07.30

  • 百子

    百子

    パイプオルガンの音が響いてくる。
    難曲に挑む主人公がオルガンと対話し、母のこと、父のこと、宗教のこと、自分のこと…様々なものに向き合っていく。
    クリスマス・コンサートまで書かれていなかったけど、自分なりに想像できるからこれはこれでいいな。続きを読む

    投稿日:2020.11.22

  • まこと

    まこと

    私はこの作品に郷愁を感じました。

    カトリックの初等部から大学まである一貫校の高等部に通う、主人公鳴海一哉は、父は牧師、母は元ピアニストです。父と母はドイツでバッハを通して知り合いましたが、母は一哉が10歳の時にドイツ人のオルガン教師と出会い、離婚してドイツに渡ってしまい、祖母と三人で暮らしています。
    一哉はキリスト教を全く信仰していませんが、聖書研究会とオルガン部に所属しています。
    メインの話はオルガン部の五人の活動なのですが、母が元ピアニストの一哉は、皆に一目置かれている存在です。
    しかし、一哉はオルガン奏者として最も、素質のあるのは、五人の中では、天野真弓だと見抜いています。

    俺は天野のデカい目をしっかり見て言った。
    「あんたは演奏者だと思うね」
    「昔、ピアノのコンクールで課題曲にバッハのインベンションがあったんです。全国コンクールの東京予選でした。私の二つ後くらいの順番の男の子が、ものすごくいい演奏をしたんです」
    「何のコンクール?いくつの時?」
    「俺も出てたかもね」
    「その男の子、鳴海さんだと思います」
    天野は迷いなく言い切った。

    オルガンとバッハと礼拝と聖書。
    私も、高校の三年間はカトリックの学校でした。
    毎日、聖歌を歌っていました。
    オルガンではなくピアノをやはり13年間習っていましたが、バッハは特に好きな作曲家で、先生に発表会でバッハを薦められて弾いたこともあります。
    読んでいるだけで、泣きたくなるような、懐かしいものばかりの文章でした。

    作者の、佐藤多佳子さんはあとがきで「作品のモチーフに合った時代を自分なりに探しました。キリスト教の信仰を持つことはなかった私ですが、中学高校の六年間、毎日、講堂の礼拝で聴いたオルガンの音と讃美歌の歌声は忘れがたく、思い出という以上に大切なものに思えます」とおっしゃっておられますが、ここにも佐藤さんの作品をこんなに懐かしく読んでいる者がいます。と叫びたくなる物語でした。
    最後は、タイトル通り、クリスマス・コンサートの終わりとともに終了します。
    続きを読む

    投稿日:2019.09.10

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