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シャーウッド・アンダーソン, 上岡伸雄 / 新潮文庫 (18件のレビュー)
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がと
19世紀アメリカ西部の田舎町、ワインズバーグ。新聞記者の若者ジョージ・ウィラードを中心に、町に住む「いびつな者たち」の物語を綴る連作短篇集。 この作品に描かれた「いびつな者たち」とは、大きく括って…社会的なマイノリティーの人たちを指しているのだと思う。さまざまな理由ではぐれ者扱いを受けている人たち。「手」のビドルボームや狂言回し役のジョージが抱える葛藤から、〈男らしさが至上の世界からこぼれ落ちた人びと〉というテーマを受け取った。ヒーローにも不良にもなれず、世間から賞賛されるようなことはひとつも成し遂げられない苦しみ。〈落ちこぼれ〉のなかには当然〈女〉も入ってくる。 ジョージの母エリザベスを主人公にした「母」からものすごいのだが(一つ前に置かれた「紙の玉」との対比がのちのち「死」で効いてくる構成も見事)、「狂信者」の息子を愛せない女性ルイーズの描き方には本当にギョッとした。赤ん坊が「家に侵入してきた人間の欠片のようなもの」に見え、「これは男の赤ん坊だから、欲しいものを自分で手に入れるわよ」「これが女の子だったら、どんなことだってしてあげるでしょうけど」と言い放つルイーズ。でもこの小説はネグレクトする母親を断罪しない。100年前の男性の手で書かれたと思えないくらいフラットに彼女の鬱屈した感情に寄り添っている。 ルイーズの反対目線、つまり女性を妊娠させた責任から逃れきれなかったことを後悔し続けている男性レイの物語「語られなかった嘘」もしっかり入っていて、最後の段落でタイトルが回収されるとレイへの悪感情がすべて霧散し、寂しさだけが残る。男と女、それぞれに押し付けられた役割とそこから逃れようとする〈弱さ〉を描き、解放されたいという願望も「タンディ」のように新しい言葉を創りだして提案する。「冒険」のアリス、「教師」のケイトなど当時ならまだオールドミス扱いを受けただろう年齢の女性たちの苦しみも、なんと現代的に描写していることか。 田舎町に住む変人たちを観察する青年の成長物語ということで、サローヤンの『僕の名はアラム』に近くもあるが、サローヤンが人種的マイノリティのコミュニティをどこかユートピア的な連帯感のある場所として書いているのに対し、『ワインズバーグ、オハイオ』は一人ひとりが孤独な星のように描きだされる。だからこそ、「見識」でジョージとヘレンが無言のままお互いに敬意を示し合う場面の美しさが胸に迫るのだ。「それぞれの心には同じ思いがあった。『この寂しい場所に来たら、この人がいた』」。 さまざまな生きづらさにスポットを当て、架空の町ワインズバーグに息を吹き込んだ古典的名作。ミルハウザーの芸術家小説や、ルシア・ベルリンの刺すようなユーモアなど、自分の好きな現代小説が描く〈孤独〉のルーツがここにあるような気がした。続きを読む
投稿日:2022.12.31
rururu
1919年に発表された小説だとは思えないほど現代的。 頭に全く入ってこない話もいくつかあったが、「変人」、「神の力」、「品位」は特に良かった。
投稿日:2022.09.07
深川夏眠
19世紀後半(推定) オハイオ州ワインズバーグ――架空の地名――に暮らす人々の 悲喜こもごもが、 主に地元新聞の若き記者ジョージ・ウィラードの目線で描かれる 掌短編連作集。 地味だが奇妙な味わい深さが…ある。 流行らなくなったホテルの経営に悩みつつ 打開策を見いだせない女性(ジョージの母)、 スキャンダルで職場を追放された元教諭、 ほとんど診察しない医師、 狂信的に神を愛す農場主と、それに反発する家族、 流れ物の身の上話と教訓に深く感じ入る女児、 心の平衡を失った牧師の強硬策、etc。 興味深いのは、人間関係が密な昔の田舎町を舞台にしながら、 本当は誰も共同体内の真実を知らない、 といったストーリーになっていること。 これは作者が利かせた黒いエスプリなのかもしれないし、 事件の背後に子に対する親の過干渉が潜むケースもあって、 ううむと唸らされた。 最も共感したのは、 職を求めて大都会へ出た初めての恋人ネッド・カリーを想い続ける アリス・ハインドマンの奇行を綴った「冒険」。 自分の生活に変化が起きないことに虚しさを覚えたものの、 我に返った彼女は結局、一人で生き、 死んで行かねばならない事実を痛感する、という……。続きを読む
投稿日:2021.08.01
afro108
「CONFUSED!」という漫画のインスパイア元だと聞いて読んでみた。オハイオ州の架空の街ワインズバーグをめぐる連作短編集。1つの街を新聞記者の主人公を中心に立体的に描いてくところがオモシロかった。た…だ本著は1919年に発表されたこと、またアメリカ中西部の話なのでなかなか情景が想像しにくい部分もあった。しかしテーマとしては人生における悲喜交々、艱難辛苦なので今の時代でも十分に響いてくる。 街に住む人たちの生活が描かれていて、その中から教訓めいたものが提示される。決して大きな事件ではないものの人生の中で一度は考えたことあるなぁという内容が多い。ゆえに時代を超えた普遍的な強さがあるのかと思う。また登場人物が大量に出てくるのも特徴的で「あれ、この人さっきの話で出てきたな?」という短編間の繫がりも強い。登場人物の相関図を書く必要があるのでは?と思わされる、まさに人間交差点。そこには当然「正しくない」人も出てきて自分の知らないことに対する想像力が鍛えられるような感覚もあった。これは人生のどのタイミングで読むかが重要だと思われるのでタイミングを見て再読したい。続きを読む
投稿日:2020.11.02
ばあチャル
人生が複雑怪奇であるということは真実だ。平凡な人生というものはありはしない。と、解き明かすような、アメリカの想像上のある町「ワイインズバーグ」に住む人々の暮らしや心模様の物語群でした。ひとつひとつの物…語でもあるが、若い地方新聞記者ジョージ・ウィラードは聞き役でもあり、つなぎ役でもあり語り部です。 1900年代の初めに書かれたアメリカ文学、ヘミングウェイやフォークナーに影響を与え、モダニズム文学のさきがけということです。この前に読んだ佐藤泰志『海炭市叙景』の下敷きのようなものということで読みました。 なるほど、あるまちを創造、住人の人生模様を癖や性格などを素材にして物語るのは同じようです。でも、この「ワイインズバーグ」に住む人々は、「海炭市」に住む人々の生活がなんだか哀しげな様子なのに対して、こちらはとても奇妙な、むしろあっけらかんとしているような人間模様です。それなのにすごく人間らしいんですよ。人間はみんなどこかしら「いびつ」なところがあるんだよ、と言っています。 作者の観察眼、資質の違いですね。それともアメリカモダニズムと私小説派の違いかも。 こちらも結論は出ません、明るい未来の予言もありません、けれどもどこかしらおかしみを感じ、ほっとしたのも本当です。それに両方とも人間観察の背景に自然が美しく配されているのが印象深く、感動します。続きを読む
投稿日:2020.07.07
masayakk
実はあまり期待していなかった。要するに成長というか変化。とてもクールな散文詩。あまり書かれている意味とかストーリーを読み取らずに、理解しようとせずに、スーパーフラットに読んで欲しい。正しいブコウスキー…。続きを読む
投稿日:2019.11.23
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