【感想】天平の女帝 孝謙称徳―皇王の遺し文―(新潮文庫)

玉岡かおる / 新潮文庫
(8件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • yoshinar

    yoshinar

    孝謙天皇(称徳天皇)とは、聖武天皇と光明皇后の娘で奈良時代に天皇を2回務めた女性。怪僧・道鏡をはべらせ公私混同した女性天皇といわれることが多く、そういえば幼い頃に読んだ漫画日本の歴史のような本の怪しい流し目を送る絵が思い浮かぶ。
    ところがこの小説は、正史(男たち中心の歴史)では貶められている孝謙天皇を女性が無理なく天皇の任を務められることを考え、さまざまに手を打った人として描いている。ストーリーテラーともいえ孝謙天皇に重用された和気広虫や吉備真備の娘・由利といった宮廷女官たちの、実態に合わせて男性たちと伍して宮中を営んでいく後ろ盾となる決まりをつくろうという動きも絡んでいたりして、男社会に立ち向かう女性たちという構図が時代を超えて現代と重なるかのよう。奈良時代から取り組んできた男女共同参画社会がいまだになされていないということでもある。いや、むしろこの小説で描かれている世界のほうがまだ、女性たちが生き生きと力をもち活躍できていたようにさえ思えもする。つまりこの小説は、奈良時代に舞台を借りて、既得権を放そうとしない男たちを糾弾しているのだ。
    昔むかしは今よりもはるかに女性が活躍する時代だったともいわれる。この小説を読んでも、女であることの不自由を感じながらもそれを何とか乗り越えていくための仕組みをつくろうとしたり、歴史が歪められるのに抗い、才や真のある人が活躍できる世のなかをつくろうとする女性たちの輝きが感じられる。
    孝謙天皇らの死にまつわるミステリーみたいな要素もあるし、ドロドロとした宮廷模様もあるけれど、孝謙天皇、広虫、由利、澪、巫女の明女などあっぱれな女性たちが動き回り、胸が空くようなさわやかな雰囲気が終始流れるストーリーだった。
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    投稿日:2024.03.16

  • dai-4

    dai-4

    どこで気になったのか不明。でも手元にあって、先だって読んだ不比等の後日談として楽しめるかも、と思って着手。でも本作に流れる時代は、なんと称徳天皇亡き後がメインで、同天皇については回想の対象という設定。馳作品同様、いわゆる一般的歴史認識に対して、違った可能性を問うといった内容で、ミステリ的な結構も盛り込まれていて、スリリングな味わい。でも人物造形はこっちの方がずっとリアルで、深い。それにしても、単純に”奈良時代”として記憶しているこの8世紀、何とまあ激動の時代だったのですね。更に興味は深まるばかり。他の作品にもあたってみたい。続きを読む

    投稿日:2021.07.02

  • nztak

    nztak

    このレビューはネタバレを含みます

    女帝に仕える高級女官、和気広虫の目線で物語が語られる珍しい形態。
    主人公である孝謙天皇(称徳天皇)は死語である。

    この時代の話は初めてなので新鮮。

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    投稿日:2020.07.04

  • miyous

    miyous

    広虫の女帝に仕えた回想を女嬬の質問などを通して現在と過去を織り交ぜて話が進んでいく。

    女帝は結婚は禁止とされ重い責任の中、寄りかかる人も女帝の権威を取り込むため近づき、優しく接する。

    この時代の小説はまやかしなどが多いけど、そういうのが重きを置いてなく、心情を優先させた小説。
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    投稿日:2020.02.23

  • ちかてつ

    ちかてつ

     孝謙称徳天皇の時代は恵美押勝の乱があったり道鏡事件があったり、つまり女帝が特定の家臣を極度に愛してしまいそのため政治が混乱をきわめるという、そんな歴史的イメージを持つ天皇である。
     しかしながらこの小説ではそんな悪いイメージを払拭してくれるばかりか、なぜ後世に女帝の悪い印象が残されたのかその理由も明確に示してくれている。
     孝謙女帝が主人公だが、女帝が崩御されるところから話が始まる。女帝に仕えた女官の和気広虫の視点でストーリーが語られていく。光明皇后に引き立てられ絶大な権力を握った藤原仲麻呂がどのような生涯を送ったのか、道鏡がどのように女帝を救ってどう寵愛されたのか、女帝亡きあと誰によるどんな力で皇太子が定められたのか。あの時代に起こったさまざまなできごとの流れとその背景が解き明かされる。
     もちろんこれは小説なので作者の脚色もあり、話に花を添えている。広虫に届いた飾り緒が誰からの贈り物なのか最後にわかる場面があり、思わず涙が出てしまった。
     残念なのは、女帝の政治を通して作者は現代における男女平等社会の推進を強く主張しているように見える点である。男女平等はよいのだが「男の社会は悪、女の社会は善」と決めつけたような話の流れがやや鼻につくのと、皇室にも女性・女系天皇を容認すべきという主張が見え隠れしているようで、そこは少し不満を感じた。
     最後まで読んだあとでもう一度冒頭の部分を読んでみると話の伏線がいくつか張られていることに気づく。ペルシャ猫が最初から登場しているではないか。
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    投稿日:2019.12.26

  • umegin

    umegin

    このレビューはネタバレを含みます

    女性天皇がどれほど良い治世を治めていても、死後に貶められるという怖さと史実の限界を思い知る。やはり小説はノンフィクションよりフィクションの方が安心して読める。

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    投稿日:2019.09.10

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