【感想】複眼の映像 私と黒澤明

橋本 忍 / 文春文庫
(20件のレビュー)

総合評価:

平均 4.4
9
6
1
1
0

ブクログレビュー

"powered by"

  • のら

    のら

    橋本忍が、自身の脚本家人生を振り返り、作品の制作過程や黒澤明などの巨匠との出会い・別れを描いた自伝。
    以下2点を主に感じた。

    ①脚本作りにおいて重要なこと
    ・共同脚本の必要性と、ライター先行型といきなり決定稿のメリットデメリット
    ・脚本において特に重要な要素はテーマ、ストーリー、キャラクターの3つである
    ・小説は読み物、シナリオは設計書という全く別の種類のものである
    ・「余裕のある仕事からは何も生まれない。知力も体力も喪失し、性根も尽き果て、血反吐を吐くような状態で尚も書き続け、仕事を成し遂げた場合のみ、初めて体得しうる、物書きの自負と自信と力に似たものである」

    ②橋本忍と黒澤明の脚本作成の変化と、庵野監督との類似
    ・共同脚本:「同一シーンを複数の人間がかき(複眼)、それらを編集して混声合唱の質感の脚本を作り上げる。それが黒澤脚本の最大の特徴なのである。」
    ・「7人の侍」以降の、橋本忍と黒澤明それぞれの脚本作成における変化の仕方が異なる(橋本は本作によって脚本作りの段取りの重要性を知ったが、黒澤明は段取りを捨ててしまった)
    ・黒澤明と庵野秀明との類似を見た。庵野監督はシン・エヴァンゲリオンを作る際に絵コンテを作らずにさまざまなアングルからのプレビズを作った。またシン・仮面ライダーを撮影する際も、「殺陣が段取りになりすぎている」として0から殺陣のシーンを作り直しており、計画性ではなく偶発性に基づいて作品を作ったという。 これは七人の侍以降の黒澤明の脚本作りにおける姿勢である「いきなり決定稿」、つまり事前準備を避ける姿勢と類似していると感じた。
    続きを読む

    投稿日:2024.05.06

  • ranko1

    ranko1

    半世紀も前、パリのシネマテークで何の予備知識もなく蜘蛛の巣城を観た時、二十歳の自分は初めて日本人であることの誇りや嬉しさを感じた。
    橋本忍さんは黒澤明の影に隠れているが世界の映画史上最高の仕事を残した人だとこの本を読んで初めて知った。感謝。続きを読む

    投稿日:2024.02.13

  • オサム

    オサム

    トップレベルの脚本家や映画監督の視点を垣間見れる作品だ。本書は黒澤明監督と共同で多くの名作を世に送り出した脚本家の橋本忍氏が書いた本だ。
    「複眼」というキーワードに惹かれて本書を手に取った。複眼についての説明が現れるのは以下の部分。
    「黒沢組の共同脚本とは、同一シーンを複数の人間がそれぞれの眼(複眼)で書き、それらを編集し、混声合唱の脚本を作り上げるーそれが黒沢作品の最大の特質なのである」
    想像していた「複眼の映像」ではなかったが、たしかに素晴らしい作品をつくるためには有効な手法だと思った。プロフェッショナルが集まって、分担して作品を作るのではなく、一つの箇所を同時にかつ別々に書いてみて、もっともよく書けているものを採用する。この方法は作品が完成するまでにかかる時間は増えるが、作品の品質は段違いに高くなりそうだ。また、同じ部分について他の脚本家が同時に書いた文章を見ることができ、お互いの文章を比較して、次回の執筆に活かすことができる。この比較による技術の向上効果が大きいように感じた。
    この手法は日々の仕事や小中学校での作文に活かすことができるように感じた。仕事で同じことに関する報告書を数人で書かせて、お互いの文章を読みあうことで、他人との違い、自分の欠点、もしくは優位性を把握することができそうだ。
    続きを読む

    投稿日:2023.10.29

  • Modest Tapir

    Modest Tapir

    菊島隆三、小國英雄と並んで黒澤明の全盛期を支えた脚本家、橋本忍の自伝。
    伊丹万作に師事した後、黒澤明と出会い、『羅生門』が生まれるまで。またその後『七人の侍』の地獄のような脚本製作の話、また天才監督の野村芳太郎との出会いなど、日本映画の黄金時代を支えた人たちの驚くような話の数々に舌を巻く。

    国立フィルムアーカイブから出ている『脚本家 黒澤明』展、『羅生門』展の図録なんかと合わせて読むと、より黒澤明、橋本忍、そしてその周りの人たちのスゴさが理解できるかな、と。
    続きを読む

    投稿日:2023.07.20

  • のり

    のり

    傷痍軍人療養所のベットに横たわる著者が偶然手にした一篇のシナリオ。伊丹万作に師事、黒澤明との共作「羅生門」で脚本家デビューした著者が、初めて明かす創作秘話。黒澤映画の貴重な一次資料にして、日本映画界を支えた名脚本家の感動の自伝。(親本は2006年刊、2010年文庫化)
    ・プロローグ
    ・第一章 「羅生門」の生誕
    ・第二章 黒澤明という男
    ・第三章 共同脚本の光と影
    ・第四章 橋本プロと黒澤さん
    ・第五章 黒澤さんのその後
    ・エピローグ

    副題に私と黒澤明とあるとおり、その話がメインである。数々の名作がどの様に作られたのか、読んでいてとても面白い。読了後に、本当にノンフィクションだろうかと疑ってしまうくらい面白い。
    黒澤映画は、脚本が「共同脚本」から「いきなり決定稿」へと変わることにより、迷走を続ける。日本映画界も斜陽を迎える。天才ゆえの悲劇が感じられた。
    続きを読む

    投稿日:2020.11.08

  • 酒井高太郎sakaikotaro

    酒井高太郎sakaikotaro

    (01)
    日本の著名な映画監督である黒澤明について(*02)の本である.特異な点としては,黒澤が手掛けた映画の頂点をなすとされる「羅生門」や「七人の侍」など1950年代の作品の脚本を共同執筆した著者が,自らの半生を回想した自伝とともに黒澤の方法を証言し,批評している点にある.
    脚本の方法論としては,共同脚本という方法に焦点が絞られている.数人で缶詰になり,脚本を推敲しつつ仕上げていく困難な方法が映画の設計図として有効であることを著者は主張する.なかでも,「いきなり決定稿」に取りかかるのではなく,推敲や手戻りも多い「ライター先行形」が最上の方法であり,50年代の名作もこの方法に拠っていたと後知恵として語る.
    脚本の方法論としても,興味深く読むことができるが,映画監督の黒澤がもっていた脚本家としての一面を窺い知るとともに,黒澤という不気味な存在も本書には浮かび上がっている.

    (02)
    とはいえ,本書に登場する映画人はもちろん黒澤明だけではない.
    著者が師と仰ぐ伊丹万作をはじめ,ともに共同脚本をなした小國英雄や菊島隆三,黒澤の助監督で経験を積み,のちに監督となっていった野村芳太郎,森谷司郎のほか,東宝の面々などが登場し,映画という共同作業や,映画界というワークがどのようなものであるかを把握する手がかりにもなっている.
    続きを読む

    投稿日:2020.05.25

Loading...

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。