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池波正太郎 / 角川文庫 (3件のレビュー)
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じゅう
「池波正太郎」の短篇時代小説集『江戸の暗黒街 新装版』を読みました。 時代小説が続いています… 『新装版 夜明けの星』、『新装版 剣客群像』に続き「池波正太郎」作品です。 -----story--…----------- 江戸の闇に生きる男女の悲しい運命のあやを描く傑作集 ひくく声をかけて、いきなり女に飛びかかった「小平次」は、恐ろしい力で首をしめあげ、すばやく短刀で心の臓を一突きに刺し通した。 その時、恐怖に引きつった青白い顔でじっとみつめる小女と顔を合わせてしまった。 「見られた……。生かしてはおけない」男は江戸の暗黒街でならす名うての殺し屋で、今度の仕事は茶問屋の旦那の妾殺しだったのだ……。 色と欲につかれた江戸の闇に生きる男女の哀しい運命のあやを描いた傑作集。 ----------------------- 1969年(昭和44年)に刊行された短篇集です… 運・不運にもまれつつ、与えられた人生を生ききる男女の哀しい運命のあやを描いた作品でしたね。 ■おみよは見た ■だれも知らない ■白痴(こけ) ■男の毒 ■女毒 ■殺(ころし) ■縄張り(しま) ■罪 ■解説 中島梓 『おみよは見た』は、殺しの現場を見た小女「おみよ」の運命を描いた物語。 青堀の「小平次」は「お八重」という女の殺しを金二十五両で引き受けた… 首尾良く仕事を果たしたと思っていたが、現場を少女に見られてしまった、、、 人が来たので逃げたが、「小平次」はその少女を殺そうと思っていた… でなけでば、自分が殺されてしまう。 その少女「おみよ」は「お八重」を殺した男のことを告げ口するつもりはなかった… 「おみよ」は「お八重」を憎んでいたからであるが、そのことに気付かない「小平次」は、「おみよ」を襲う、、、 やらなくても良い殺人を犯す「小平次」、しかも、殺した少女は別人だった… 助かった「おみよ」、間違えて殺された「おしん」、そして火あぶりになった「小平次」、ちょっとした運命のあやでしたね。 『だれも知らない』は、親の仇討ちのために敵を捜し続ける「夏目半五郎」の物語。 「夏目半五郎」は剣の強い浪人を見て、この人に頼もうと考えた… 「夏目半五郎」は「井関十兵衛」を敵とする身である、、、 だが、「半五郎」は剣がからっきしだめである… その仇討を浪人に頼もうと思ったのだ。 浪人「山口七郎」は「半五郎」の頼みを引き受け、その手付け金として二十五両を受け取ったが、「山口七郎」は「井関十兵衛」を見て、手強いと思った… そして、そのまま金を持って行方をくらましてしまった、、、 同じ頃、「井関十兵衛」も姿を消した… 最近身の回りにうろつく人間が現れ、恐くなったのだ。 お金を使った仇討ちは失敗に終わるが… 運命はわからないもので、三年後、「山口七郎」は、町医者となり「井上玄貞」と名乗っていた「井関十兵衛」と再会し、「井関十兵衛」とは気付かずに殺害、そして「夏目半五郎」は「井関十兵衛」を捜し続ける、敵が死んだことを知らずに。 『白痴』は、女を襲っている際に石で頭を殴られ記憶喪失となった男の物語。 「寅松」は女を襲っている男を無我夢中で追い払った… そのときに、はずみで男を殺してしまった、、、 恐ろしくなった「寅松」はそのまま逃げたが、男は死んでいなかった… その代わり、記憶をなくしてしまっていた。 逃げた「寅松」は、道を誤り、つつもたせを稼業にする薄汚い人間に成り下がってしまっていた… 人間にとって何が幸せなのか、考えさせられる作品でしたね。 『男の毒』は、男がいないとどうにもならない身体にされた「おきよ」の物語。 「おきよ」は「黒股」の「弥市」と情欲にまみれた生活をしていた… そんな生活から逃げ出したいと考えた「おきよ」は「弥市」を殺してしまう、、、 恐ろしくなった「おきよ」は「伊助」のところに転がり込んだ… ほとぼりが冷めた頃、「おきよ」は嫁いが、長くは続かない。 どうしても浮気の虫が騒ぐのだ… それは、黒股の「弥市」によって、男がいなければどうにもならない体にされてしまった女の宿命だった。 『女毒』は、偶然から女の毒から逃れた「伊三次」の物語。 「野川」の「伊三次」は「聖天」の「吉五郎」の娘「お長」と夫婦になることになった… そうなると、「伊三次」は「聖天」の「吉五郎」の跡継ぎになるということになる、、、 気分の浮かれる「伊三次」だが、ある場所でたまたま襖を隔てて隣の部屋に「お長」が入ってきた… そして、そこで交されていた会話から、「お長」の高慢さに怒りを覚え、「お長」との夫婦約束を反故にする。 今度は「お長」が怒った… そして、追っ手を差し向けた、、、 「伊三次」はこうなるのを見越して、既に逃げていたが追っ手に見つかり… プライドを捨てず、跡継ぎの立場を捨てる決断をしたことが、結果的に女の毒から逃れることになりましたね。 『殺』は、女房により暗殺されそうになった「井筒屋徳兵衛」の物語。 「赤札」の「嘉兵衛」が「近藤市五郎」に頼んだのは「井筒屋徳兵衛」の暗殺であった… この話を持ってきたのはきねやの「松蔵」で、「松蔵」もあるところから依頼されたのだ、、、 だが、不思議なものである… 「松蔵」と「井筒屋徳兵衛」は知り合いだったのだ。 それは、二人がそれぞれ「水鶏」の「松蔵」、「黒塚」の「駒吉」といっていた盗賊時代の仲間だったのである… そうとは知らずに、「松蔵」は殺しの件を、今は「井筒屋徳兵衛」と名乗っている「黒塚」の「駒吉」に話した、、、 「井筒屋徳兵衛」は知らぬ顔でその話を聞いていたが、内心、だれが自分を殺そうとしているのかと考えた… 「井筒屋徳兵衛」は、若い番頭の「宗次郎」と情を交しているらしい女房の「おもん」を疑う。 「井筒屋徳兵衛」は、殺されそうになっていることを察知して、「宗次郎」を犠牲にして難を逃れるが… 「おもん」は自害し、その後、大坂に移り住むが、「松蔵」と再会し結局は不幸な境遇に。 『縄張り』は、跡目争いの中で自らが元締めになろうとした「又蔵」の物語。 「岩淵」の「又蔵」は「三の松」の「平十」の懐刀として何人も人を殺してきた… その「三の松」の「平十」が死んで、「黒谷」の「勘五郎」と「鹿渡」の「島之助」の間で跡目争いが起きている、、、 そして、「黒谷」の「勘五郎」には「追分」の「重八」が付き、「鹿渡」の「島之助」には「羽沢」の「嘉兵衛」が付いた… こうした中で「又蔵」は、「追分」の「重八」から「羽沢」の「嘉兵衛」の暗殺を頼まれ、「羽沢」の「嘉兵衛」は「追分」の「重八」の暗殺を頼まれた。 そして、ある計画が「又蔵」の中で出来上がり、計画は成功したかに思えたが… 悪いヤツって、上には上がいるもんですね。 『罪』は、老齢の亭主を殺して他の男と一緒になろうとする「おきん」の物語。 「おきん」は「鎌吉」に亭主の「玉屋平兵衛」殺しを百両で頼んだ… 「平兵衛」と「おきん」は年が離れている、、、 それは、「おきん」が娼婦だったのを「平兵衛」が身請けをして女房にしたからである… だが、「おきん」は「平兵衛」を好いていなかった。 「おきん」には遊び人の「音吉」という好いた人がいたのだ… 一方、「平兵衛」はそんなことも知らずにいる、、、 それより、いつ死んでも良いと思っていた… かつて武士だったのを、つまらぬことで上役を斬り、逃げなければならなくなってしまった身なのである。 死の覚悟ができている「平兵衛」に、殺し屋「酒巻重八」を送り込み、「重八」に弱みを握られた「おきん」… 結局、幸せにはなれないんでしょうね。 からみつくほどの漆黒の闇にたしかに棲息していた男たち女たちを描いた作品集でしたね… その中でも『おみよは見た』、『だれも知らない』、『縄張り』が印象に残りました。続きを読む
投稿日:2023.04.13
moboyokohama
池波正太郎さんと藤沢周平さんは時代小説の両巨頭などと言うまでもないこと。 そのお二人の作品の印象は池波さんは派手、藤沢さんは地味。ずいぶん大雑把で簡単な印象ですが。 殺し(暗殺)に関する8編の作品。… 「おみよは見た」 両国一帯の香具師の元締め羽沢の嘉兵衛に命じられて、青堀の小平次は八幡屋利兵衛の囲われもののお八重を殺害するが現場を子女のおみよに目撃されて顔を覚えられるてしまう。自分の身を守るためにおみよをも殺害しようとするが人違いで同じおみよと奉公先のおしんを殺してしまう。 一方おみよはかつてお八重に虐待されており、彼女を殺害した小平次に感謝こそすれ恨みも持たず調べに対しても小平次の顔を見なかったと庇う。 たまたま顔を合わせた小平次に対してもあの事は喋らないと顔で伝えたつもりだったのだが。 「だれも知らない」 父親の敵討ちの旅に出ている夏目半五郎、仇の井関十兵衛の居場所を突き止めるも自分の腕では打ち取れないとわかっている。腕の立つ浪人者山口七郎を雇って代わりに打ち果たさせようともしたがうまくいかぬ。 時がたち十兵衛は医者になり成功するが、押し入った賊(実は山口七郎)に殺害されてしまう。山口は医者が十兵衛だとは知らない。 そして半五郎は十兵衛が死んだ事を知らず懸命に仇打ちの旅を続ける。 昔はこういう事も多かったのだろうなあ。 「白痴(こけ)」 この話ではだれが被害者でだれが加害者か、だれが悪人でだれが善人なのかわからなくなる。 「男の毒」 男も女も出会った相手によって変わってしまう。 「女毒」 男の毒によって女は変わるが女毒にあたって命を危うくする男もいる。 どちらの毒も互いの欲と性が強力なものに仕立て上げてしまうのだろう。 「殺(ころし)」 我が世の春の如き時代を生きた者も老いには勝てない。 若い時代をどう生きるか、それが老いた時の自分の在り方を決めるのかもしれない。 「縄張り(しま)」 権力争い、誰も信用できぬ。 分かりきっていることではあるが。 「罪」 惚れた女に命を狙われるとはなんとも淋しい。 自分の死に水を取って欲しいとまで思っている女と心と心が通じ合っていると思い込んでいる男の悲劇。続きを読む
投稿日:2022.10.06
koochann
このレビューはネタバレを含みます
江戸の下町で起こる様々な殺人事件を舞台に男と女の色恋、不倫、そして権力欲、仇討ちの双方の悲惨さなどの短編集。殺しの依頼が頻繁に登場しますが、この時代はいかにも物騒、と思いつつも、今の時代と変わらない人の罪深さに、臨場感があるのは皮肉なことです。面白かったのは殺しを見てしまった少女の心のうち「おみよは見た」、女の復讐への情念の恐ろしさと人生の大逆転が皮肉な「女毒」などです。
投稿日:2013.08.25
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