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トゥキュディデス, ジョハンナ・ハニンク, 太田雄一朗, 茂木誠 / 文響社 (1件のレビュー)
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春時々秋
ギリシアって、哲学者の名前とかを覚えさせられるけど、なぜギリシア世界が衰退していったのかについてはあまり印象に残っていない。 本書はギリシア世界が衰退していく原因となったペロポネソス戦争中の演説を、…トゥキディデスの「戦史」から集めて、まとめた本である。 「序章」ではペロポネソス戦争の史実について簡単にまとめてくれている。 ペロポネソス戦争は、ギリシアがペルシアを撃退した後の、アテネとスパルタの覇権争いで、ギリシア世界がアテネ派(デロス同盟)とスパルタ派(ペロポネソス同盟)に分かれた血みどろの内戦だ。 民主主義国のアテネと軍国主義的なスパルタの争いであったため、「戦史」の演説は今でもアメリカなどの民主主義国の演説でも引用されるとのことだ。 しかし、忘れてはいけないのは、民主主義国アテネは敗れたのだ。 「トゥキディデスはスパルタの節度あるふるまい、伝統を固守する姿勢、静かなる平和に満足する姿を強調することで、革新的だが請求で落ち着きのないアテネの姿を浮き彫りにしている」(p43)。 そもそもの開戦において、アテネには大義がなかったことを忘れてはいけない。 武力がなければ正義は守れないが、正義がなければ勝利を得ることができない肝に銘じなければならない。 当然、戦争継続中にも敗戦の原因はあった。 「トゥキディデスはまた、ペロポネソス戦争の敗因は、ペリクレスの後継者たちの失策にあり、彼らが公共の利益のためではなく、票集めに奔走したのが原因だったとしている。」(p40) 民主主義のもっとも愚かな側面である。 群衆とは概して賢明ではないのだ。 第1章、第2章ではペリクレスの演説が掲載されている。 戦争に向おうとする指導者は、群衆の正義感や故郷愛など心の敏感な部分をくすぐる術を熟知している。 しかし、大日本帝国のように負けると分かっている戦争を始めてはならないのだ。 戦争を起こすからには必ず勝たねばならない。戦争に負ければ国民は全てを失うのである。 戦争に勝つためには冷徹な判断力が必要である。 開戦すべきか否か、開戦して勝てるのか否か。 どのように心揺さぶられようとも、冷静な判断力を失ってはいけない。 第5章では大国アテネと小国メロス島の交渉の様子が描かれている。 アテネの大使は言う「正義という概念が物事を決定する要因となり得るのは、お互いが対等な条件にある場合に限られる。」(p166) こうして、アテネが傍若無人に一片の正義もなくメロス島に降伏か滅亡の二者択一を迫る。 「大国は都合の良いときだけ国際法を守る。」(p229) ドイツの鉄血宰相、ビスマルクの言葉である。 この言葉は今も昔も真実である。 我々はメロス島になってはならない。メロス島のような状況にならないよう、日々外交に励み、軍事力を強化する必要がある。 大国は自身に都合の良いときしか国際法を守らないのだ。小国を正義という抽象的な概念のために助けてくれるお人よしなど国際社会にはいないのだ(結局スパルタもメロス島を助けてはくれなかった。) 人間の愚かさは今も昔も変わらない。 せめて「戦史」を他山の石として、我々日本人がメロス島やアテネのように滅亡しないよう、知恵を磨くことが急がれる。続きを読む
投稿日:2022.09.21
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