【感想】吉岡清三郎貸腕帳

犬飼六岐 / 講談社文庫
(6件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
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ブクログレビュー

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  • ぽんきち

    ぽんきち

    時代小説。
    吉岡清三郎の仕事は「貸腕屋」である。
    剣客。剣の腕は確かだ。それで用心棒なり何なりで雇われればよいのだが、彼は自分を安売りしない。
    その代わり、腕を「貸して」生計を立てている。日に一両取るとしても、それは一日一両で雇われているのではなく、値千両でもきかぬ腕を貸してやって、その元本に対する利息を取っているという理屈だ。利息の額は、仕事の危なさや借り手の懐具合、そして清三郎の気分次第。十両や二十両に跳ね上がることもあるが、いずれにしろ、滞納したら取り立てには容赦がない。
    彼の嫌いなものは「二」という数字、お人好し、子供に手を上げる者。いつも苦虫を噛み潰したような顔をしているが、それやこれやには訳がある。

    依頼人も訳あり揃い。
    商売敵に脅された商家、道場破りを恐れる道場主、金貸しの因業ばあさん、母が疾走してしまった幼女、夫の女を始末しようとする旗本の妻。
    依頼人から話を聞き、清三郎が腕を貸してやってもよいと思えば、仕事を受けることになる。

    吉岡という苗字、実家は憲法染めで知られる京の染物屋とくれば、読者にも追々事情は知れる。つまりは清三郎の家は、一条寺下り松でかの宮本武蔵に敗れた吉岡一門なのである。京流として知られた剣の一族であったが、これを契機に染物屋に転身、すでに何代かを経た。しかしなお、清三郎は自らの真の道は剣と定め、家業を嫌って江戸に出てきた。
    家の再興を図りたいが道遠し。卑怯な戦法で家を潰した二刀流の剣士を叩きのめしたいが、相手は泉下に去って早百数十年。歯噛みをしながら金を貯め、家に着せられた汚名を濯ぐべく、捲土重来を期す。
    つまりはそれが「不機嫌」の理由である。

    家には1人、下女がいる。名はおさえ。人の好い質屋を助けてやったが、質屋は腕の借り賃を払えなかった。その借金の形に質屋の娘を使っている。娘は清三郎の仕事を嫌い、態度は氷のように冷たい。言いつけられた仕事はこなすし、顔立ちも悪くはない娘なのだが、如何せん、家の中は鬱々と暗い。

    連作短編7編、それぞれ、清三郎が受ける依頼を描く。
    清三郎は決して善人ではなく、貸した腕で血なまぐさい殺しも起こる。だが彼にはどこか一本筋の通ったところがある。この男の造形を好きになれるかどうかが作品を楽しめるかの分かれ道だろうか。
    乾いているが、そこはかとないユーモアと、おさえと清三郎の一風変わった関係性も読ませどころ。
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    投稿日:2021.06.14

  • fuku ※たまにレビューします

    fuku ※たまにレビューします

    犬飼さん作品の中ではこのシリーズが一番好き。
    ハードボイルドタッチで人斬りシーンも満載なのに、陰湿さがないのでテンポ良く読める。
    なんと言っても主人公・清三郎のキャラクターが良い。名前も聞きたくないほどあの剣豪を毛嫌いし、奇妙な理屈の貸腕業で荒稼ぎ。
    いつも不機嫌で口数は少ない。しかし貸腕業の報酬(利息)代わりに女中として働かせているおさえは清三郎を更に凍りつかせる対応の冷たい女。
    そんな清三郎とおさえの関係が少しずつ変化していくのは気になるところ。
    最終話で出会った髑髏男との再会はあるのか。
    第二作も楽しみ。
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    投稿日:2017.05.04

  • ハムテル

    ハムテル

    このレビューはネタバレを含みます

    雇われの用心棒ではなく、レンタルの貸腕屋である。
    しかも、代金の利息の部分だけを頂くのだ。

    頼まれた仕事には裏があるが、それも想定の範囲と
    ばかりに仕事は最後まで片づける。

    仕事を引き受ければ訳は聞かずに実行するのみ。
    相手をちょっと脅すのが、片腕を切り落とすくらい。

    歩いているだけで、その人相風体と気迫に誰もが
    歩く間合いを広げるのだ。

    借金のカタに七屋の娘に見の世話をさせるが
    無口な娘と清三郎の関係も面白い。

    七話のどれもよく練れた話で、どれどれと入り込める。

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    投稿日:2012.03.26

  • tsuzra

    tsuzra

    ブクログのレビューで知り読んだ本。大当たりの面白さでおすすめです。
    主人公の清三郎が剣の達人ながら、不機嫌で偏屈。
    貸し腕屋なんて白とも黒ともつかない商売をしているせいで、無頼というか、人を斬ることに躊躇しない。
    そんな冷徹な面と時折感情があふれることもあり、じわじわと清三郎の良さにひかれてしまうのであった。
    人が倒れ、痛手を負う酷な場もたびたびあるけれど、嫌気がささず読めてしまう。女性、男性ともにおすすめできます。

    登場するのは癖のある輩ばかり。
    三途の川の脱衣婆やら、艶かしく高飛車な女やら、白髪頭の干し柿みたいなジイさんやら、蝦蟇蛙やらにたとえられ、エンタメ小説のおもしろさだった。容赦ないほどのたとえようは痛快に面白い。
    下女おさえの暗さを例える描写もとどまるところを知らず。
    楽しみになってくるほど。
    落武者のように陰気な下女…って、ほんとに口が悪くてつい笑ってしまった。この文章、はまってしまいそうだ。
    おさえの存在がすごくいい。
    関係がどうなっていくのか興味深いのでぜひ続編を読もうと思う。

    時代物でこんな切り口もあったのかと読むほどに感心した一冊です。
    あれあれ、ふつうの庶民はあまり出てこないし、武家の話でもなく、人情ものでもなく、出世ものでもない。裏街道まっしぐらというのでもないけれど、陽のあたる世界ではない。王道でないところに魅力がある。
    全く知らない作者でしたが本当に面白かった。
    紹介してくれた方に本当に感謝です!
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    投稿日:2012.03.08

  • そよかぜ

    そよかぜ

    これは剣客物というのかな。
    こちらで教えてもらって読んだ初めての作家さんだったのだが、なかなか面白かった。

    剣の腕を人に貸してその利息をいただく、というややこしい(私には)剣客商売をしている吉岡清三郎。
    そこからしてそのちょっと斜めの性格が感じられる。

    剣客だからバッタバッタと人を斬ったりしていくわけだが、それが逆に彼の内にある人間性を浮かび上がらせる道具となっていて、流血ものはちょっと苦手な私でもそれほど嫌な感じはしない。

    何よりいいのは清三郎のもとで下女として働くおさえ。
    借金のかたに清三郎のもとで働く彼女の存在が、この小説全体に感じられるほんのりとした軽味(かろみっていうのかな)を生み出しているといえる重要な登場人物なのだ。

    外面の悪さだけからはわからない清三郎の人としての芯がだんだんわかってくると同時に、今後の展開も気になるところ。

    これは続きも読んでみなければ。
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    投稿日:2012.02.22

  • じゅん

    じゅん

    このレビューはネタバレを含みます

    いつも不機嫌な貸し腕屋・吉岡清三郎。いったい彼の正体は?そしてその仏頂面の奥に隠された不器用な温かみには笑っていいのか、悪いのか?かなり変わったテイストの時代劇で、すごぉ~~く面白かったです。


    貸し腕屋とは、剣の腕を期間限定で貸しに出し、報酬はその賃料・・ではなく、利息である、とする、まぁ、かなり偏屈な男・吉岡清三郎なんですよ。

    彼には、読者に次第に明かされる過去にまつわるこだわりがあり、また、その利息の取り立ても容赦ない、と、かなりのハードボイルド時代劇(だって人がすっごく死ぬし、その死に様の描写も非常にリアル。古い話だからこちらでは誰も知らないかもだけど、昭和の大映映画の殺陣を思わせる・・。)と思わせて、実は、男の“可愛げ”がさりげなく織り込まれている、という、なんというか、とってもお買い得に楽しめる(*^_^*)一冊でありました。

    腕を貸すのは彼にとって商売なので、きっちり仕事はこなします。
    そんな彼への依頼はひっきりなしで、間男への脅しなんてものから、恐喝のやり返し、江戸留守居役同士の見栄の張り合いから発展した御前試合の助っ人、武家のお家騒動まで・・。一筋縄ではいかない多彩な設定も楽しめたし、その都度、真摯(*^_^*)に対応し、ん??不機嫌に見えても清三郎、結構真面目じゃん!と茶化したくもなってね。

    そして、借金のカタに家で働かせている下女・おさえのキャラ立てがとても面白いんですよ。
    なにしろ、客に出すお茶が一気に冷え込むほどの(*^_^*)陰気な立ち振る舞い。それは、清三郎を根っからの悪人と思っているからこそなんですけど、そんな彼女と依頼人たちのやり取り、特に子どもが依頼人だったりすると清三郎まで巻き込んで、なんかもう、こんな展開になる???と驚くくらいの新鮮な展開で、犬飼六岐さんという作家さん、もしかして、私、宝の山を掘り当てた?(*^_^*)と嬉しくなってしまっているところ。

    これからしばらく、追いかけさせていただきます!(*^_^*)

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    投稿日:2012.02.15

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