【感想】大江健三郎全小説 第2巻

大江健三郎 / 大江健三郎 全小説
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  • sagami246

    sagami246

    この「大江健三郎全小説2」には、9編の小説が収められている。1959年から1962年、大江健三郎が24歳から26歳の間に書かれたものである。

    大江健三郎は、「大江健三郎 作家自身を語る」の中で、以下のように書いている。
    【引用】
    自分の人生を振り返って、あの時をよく生き延びたな、とぞっとする時期がいくつかあります。それが一番はっきりしているのが、小説を書くようになってからの四年ないし五年だったと思います。
    【引用終わり】

    また、「大江健三郎全小説2」の解説の中で、尾崎真理子は、大江健三郎のコメントの引用として、下記のように書いている。
    【引用】
    このように小説を書きつづけることで、自分は、この自分自身の人生を、一体なんのために使おうとしているのだろう?その疑いが、すこしずつ、しかし危機の火種のようなものとして、自分のうちにわだかまってきていた。(中略)本当に自分はこの時期をよく生き延びることができた、と感じることが、中年以後じつにしばしばあり、現にいまある
    【引用終わり】


    実際に引用はしないが、「大江健三郎 作家自身を語る」の別の場所では、大江健三郎は、この時期の自分の小説について、出来が良くないと感じている記述もある。
    東大在学中に芥川賞を受賞し、次々と作品を発表し、颯爽としているように見えたであろう大江健三郎は、この時期の作品の出来に満足しておらず、いったい何のために書いているのだろうとすら考え、それは、単純な作家としてのスランプというレベルではなく、「生き延びる」かどうかのレベルでの本質的な悩みであったということだ。
    この「大江健三郎全小説2」に収められている9編の小説は、基本的に、地方から東京に出てきて、いったんは成功するが、自分自身の内面の動きによって、破滅してしまう青年が主人公となっている。これは、この当時の大江健三郎自身の姿に似ている。小説の主人公に自分自身の悩みを体験させることで何が出てくるのかを、色々なパターンで試しているかのようである。


    大江健三郎自身は、ここに収められている小説を、あまり評価していないようであるが、私自身は、ある意味で感情移入しながら読むことが出来た。それは、私が地方から東京に出てきた元青年であるからだと思う。
    九州の田舎の高校を卒業して、東京の大学に入学した私は、田舎では味わえない東京の暮らしを楽しんでいたけれども、一方で、大学の東京出身者や、東京の都会的な街(六本木や乃木坂や青山や原宿といった感じの場所)に、コンプレックスを感じ、疎外感を感じることがあった。それは、田舎で本当にのんびりと世間知らずに育った自分にとって、大学の東京出身者は、異世界である東京のことを、ひいては、社会のことをよく知っているように見えたということだろうし、私が高校時代までを過ごした場所に比べると、東京には、本当の世の中や社会がある(国会議事堂や皇居があり、テレビやレコードで知っている表参道や青山通りがある)ように感じていたからなのだと思う。
    それが実際には大したことではないこと、そういう具合に感じること自体を「世間知らず」と呼ぶという具合に感じ始めたのは、もう少し後のことだった。
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    投稿日:2023.01.27

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