おばちゃんに言うてみ?
泉ゆたか(著)
/新潮社
作品情報
東京から大阪の夫の実家近くに引っ越し、関西のノリについていけず疲れ果てた沙由美。モデルの仕事を餌に、詐欺師まがいの男にマウントされる華。ネグレクト育ちで転売ヤーとして荒れた生活を送る達也。大阪は岸和田のおばちゃん・小畑とし子が追い詰められた人々を勇気づける、抱腹絶倒&ちょっと涙のヒューマンドラマ!
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この作品のレビュー
平均 3.2 (9件のレビュー)
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どないしたん、えらいつらそうな顔してるで。おばちゃんに言うてみ? 言うたら気持ちが楽になるかも知れへんで。
大阪は岸和田のおばちゃんが、悩める人たちの心を元気にするヒューマンドラマ。
… ◇
スマホを見ていた正岡沙由美は、急に話しかけられて驚いた。ヨガウェア姿の沙由美を下着姿の高齢の女が見つめている。
ここは岸和田駅前の貸しスタジオの更衣室で、沙由美は蛍光オレンジのトップスとダークグリーンのスパッツを身に着けている。件の女はそのウェアを指差して「ニンジンみたいでええなあ。スタイルがええもんな」と言うが、沙由美は褒められている気がしない。
その女がさらに「わたしなんかがそれ着たらカラスウリに見えるで」と言うと、そばにいた別の女が「カラスウリちごて赤カブやろ」とちゃちゃを入れてスタイルを揶揄する。
言われた方がすかさず「赤カブこんな色ちゃう。赤カブいうたら赤やんけ」と突っ込むと、「ほならパプリカや」と倍返しで返ってくる。まるで漫才だ。
沙由美はこの騒がしいだけのノリについて行けず、そっとため息をついた。
沙由美は東京の世田谷から大阪南部の岸和田市に越してきたばかりだ。
結婚間もない夫が突然会社を辞め、個人で仕事を始めたものの借金を膨らませて岸和田の実家に逃げ帰ったのがつい先日のことだった。
否応なくついて来るしかなかった沙由美には、初めて触れる大阪のコミュ文化に馴染めないばかりか、ここ岸和田の人たちの驚異的な馴れ馴れしさは恐怖ですらある。
ヨガが趣味の沙由美を気遣った姑の勧めで試しに来てみたヨガ教室だったが、沙由美は早くも後悔していた。
(第1話「岸和田でヨガ」) 全6話。
* * * * *
大阪のおばちゃん文化が描かれていました。コテコテのイメージとしては次のようなものでしょうか。
〈性格〉
・好奇心旺盛。
・おせっかい。
・馴れ馴れしいほどフレンドリー。
・ずうずうしく押し付けがましい。
・涙もろい。
〈ファッション〉
・茶髪でショートカットのチリチリパーマ
・ヒョウ柄やトラ顔プリントの服
・太めや大きめのアクセサリー
〈その他〉
・大声で早口。
・飴や蜜柑などを気軽にくれたりする。
まさにイメージのままの「大阪のおばちゃん」が登場します。物語では、小畑とし子という女性がその代表格です。
とし子は、確かに生まれも育ちも現居住地も岸和田という生粋の岸和田人ですが、近年は地元の芸能事務所に所属し、「大阪のおばちゃん」キャラの需要に応える形で芸能活動をしているタレントなのです。
だから、とし子は型にはまった「大阪のおばちゃん」を演じているとも言えます。(ただし適性はあったと思われます。)
第1話〜第3話の主人公は、人生がうまくいかない若者でした。若者たちは、偶然知り合った小畑とし子のおばちゃんペースに巻き込まれていきます。
困っている人を見ると放ってはおけない「大阪のおばちゃん」のおせっかいに、はじめはとまどい苛つく若者たち。
けれど、どう抗おうと親身になってグイグイくるとし子に、つい悩み相談をしてしまいます。そして気づけば、泥沼から抜け出すパワーを若者たちは身につけているのでした。
このコメディパターンで行くのかなと思っていると、第4話から路線変更。
とし子の半生と現在抱えている事情が明かされ、しんみりした人情話主体のヒューマンドラマへと切り替わります。それでも暗い展開にならないのはさすがです。
クライマックスで描かれる「岸和田だんじり祭」も、物語をいい意味で盛り上げてくれていました。
途中で転調はありましたが、全話を通して「人間にとって、あるいは人生にとって大切なものは何なのか」を考えさせてくれる筋立てで、読んでよかったと思える作品です。
映画を1本観たような、少し哀しくてほっこり笑えるハートウォーミングストーリーでした。続きを読む投稿日:2024.04.06
初読みの作家さん。
「おばちゃんに言うてみ?」って~
この装丁からして
「ちょっと笑かしてくれるん?」
軽~いノリで読み始めたら
不意打ちを食らってしまった。。。
5編の連作短編集。
3編までは悩み…を抱える3人に
持ち前の大阪のおばちゃんパワーで体当たり。
関西人ではない3人は
最初は大阪のおばちゃんに恐れおののくのだが
とし子のおかげで見失っていた自分に気付いていく。
そして後半でとし子は
大阪人の私に体当たりしてきた~
「笑わしてくれるんちゃうの?」
「あかん、泣いてしまうやん~」
なあ、そこのあんた。
何か辛いことあったん?
そんなしょぼくれた顔せんと、
大阪のおばちゃんに言うてみ?
一緒に笑って、一緒に歌って、大きな声出して、好き勝手なこと言うて。
そしたらきっと気ぃ晴れんで。
きっときっと、楽しなるで。
やなことあっても、明日も頑張ろ、って思えんで。
何でもええからとにかく生きといたら、また祭りの日は来んねんで。
(引用:「おばちゃんに言うてみ?」)
以前、ご主人の転勤で大阪に引っ越してきた友人が
「大阪のおばちゃんの距離感に慣れない」と言ったことがあった。
電車で隣に座ったおばちゃんが急に話しかけて来て
降りるまでずーっと話していたことがある、とか
スーパーで買い物をしていたら
隣からおばちゃんが「それは〇〇の方が安いで」と
急に言って来た、とか。
大阪人の私にとっては”あるある”だけど…
私も大阪のおばちゃんなので
毎日笑って、頑張ろー。
たまには泣き笑いの時もあるかもしらんけど。。。
笑って、泣いて、ちょっと元気になれる一冊でした。続きを読む投稿日:2024.03.06
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