古墳とはなにか 認知考古学からみる古代
松木武彦(著)
/角川ソフィア文庫
作品情報
なぜ、日本列島に前方後円墳のような巨大古墳が生まれたのか。長をまつる巨大な墳丘を「見上げる」行為や、石室の位置や様式、埴輪、また鏡・刀などの副葬品から、古代の人びとは何を感じとっていたのか。竪穴式石室から横穴式石室への大転換はどのように起きたのか。人の心の動きの分析を通じて解明。神格化の装置から単なる墓へ。3世紀から7世紀の日本列島に16万基も築かれた古墳とは何であったかを問う、認知考古学の最前線。
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商品情報
- シリーズ
- 古墳とはなにか 認知考古学からみる古代
- 著者
- 松木武彦
- 出版社
- KADOKAWA
- 掲載誌・レーベル
- 角川ソフィア文庫
- 書籍発売日
- 2023.05.23
- Reader Store発売日
- 2023.05.23
- ファイルサイズ
- 11MB
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この作品のレビュー
平均 3.7 (3件のレビュー)
-
松木武彦さんは、私の三大リスペクト考古学者の1人である。他2人は、故近藤義郎先生、故佐原真さんだから、現役は松木さんだけ。最近はビジュアルの良さとハッキリモノいうスタイルが評価されているのか、良くテレ…ビ出演するようになった。見た事ある方もおられると思う(3人のうち松木さんだけ、少し直接質疑応答をしたことがあるのが、私の密かな思い出)。
考古学で未来を測るという態度は、3人とも同じなのではあるが、松木さんは認知考古学をイギリス留学までして本格的に日本に持ち込んだ。2010年代からその成果を次々に本に書いてきていたが、本書は2011年に単行本化された時には、関心外の古墳のことだと思って私はスルーしていた。今回読んで本の殆どは、正しく私の最も知りたかったことがゾクゾクと書いていて不明を恥じた。弥生時代から古墳時代に移る、「日本の姿」を墓を通じて明らかにしただけでなく、吉備国のその後、世界から見た古代日本にも言及していたのである。
文庫本後書きで、認知考古学の「方法」についてこのようにまとめている。
「古墳とは何かを明らかにするためには、それを作り出した「人間」とはなにかを知る必要があり、さらにそのためには、それ自体が著しい進化の産物である人間=ヒトの心と身体のメカニズムを、進化科学の知見に沿って理解しておく必要がある。本書の副題の認知考古学とは、その理解に沿って考古資料を分析・解釈する方法のことを指している」(303p)
世界的に流行っている「人類史」は、そういう科学的発展の基に書かれているのだと予想することができる。今のところ、この観点で考古学を著述しているのは日本では松木さんだけなのだから、考古学のトップランナーなのではないか?
今年5月文庫化に際して、加筆・修正したようだ。最新で、日本のトップレベルの考古学の成果がここに明らかになる。
実は、この後延々といつものように私的学んだ事をメモしていたのだが、本を読みながらうたた寝していると、気がつくと、書いたものを全部一文字づつ「消去」していた。つまり復元不可能の消去がなされていた。それは私的にはかなりショックの出来事であり、もう一度書き直そうとこの1週間何度も思ったけど、気力が湧かなかった。幸いにも図書館から借りたのではなく、手元にある文庫本なので、みなさんには、あまり興味もないであろうメモ部分は、省略することにした。大変面白かった、という最もレビュー的には面白くない結論を添えておく。
続きを読む投稿日:2023.10.16
・松木武彦「古墳とはなにか 認知考古学からみる古代」(角川文庫)を読んだ。私は単なる古墳の書であらうと思つてゐた。ところが「はじめに」にはかうある。例へば「なぜ前方後円墳なのか」等々「といつた根本的な…疑問(中略)これらの問題にアプローチするには、歴史学としての考古学よりもむしろ、人類学や社会学や認知科学としての考古学が力を発揮する。(原文改行)この本では、それらのうち認知科学を用いた考古資料の解釈法=認知考古学を加味して、古墳の成立から発展を経て衰退にいたる道筋をさぐってみた。いわば、心の考古学による古墳の理解である。」(7〜8頁)「心の考古学」とは何かと考へてしまふのだが、 同時に「古墳の成立から発展を経て衰退にいたる道筋」ともあ る。これはたぶんごく普通の考古学だと思はれる。古墳時代である。実に多くの古墳がある。 それらの成立から衰退の過程は 普通の考古学でわかるはずであ る。だからこそ古墳に関して様々なことが言はれてきたに違ひない。
・古墳時代以前の九州北部、「棺に物を入れられるような立 場の人たちが、おたがいの優劣を、物の種類や量によって絵解きされながら葬られてい」 (27頁)たといふ。副葬品の質や量でその人物のその集団に於ける位置、地位が、あたかも絵で描いたやうに見えるといふのである。これも初めは「墓地を営んだ親族集団内部での位置づけや関係を物語るものにとどまっていた。」(同前)が、や がて「九州北部一円におよぶ広い範囲での結びつきや、そのなかで位置づけを絵解きするもの」(28頁)となつていく。 それが古墳時代に入ると、「古墳は、生前自分たちの主であ り、リーダーであった首長を、『神』に転化する装置」 (「神」に「ゴッド」のルビつき、121頁)となる。本書で はここで初めて「神」が登場するのではないか。もしかしたらこれが「心の考古学」といふものであらうか。「古墳の長は、 沖ノ島の『神』と同じ扱いを受 けている。長を『神』と同化させることも、弥生社会とは明確に異なる古墳社会の特徴であり、長をそのようにする機能こそが、前方後円墳を冠とする古墳の本質のひとつだった。」(122頁)古墳のことはほとんど知らないので、そこに葬られる「長」を神とするなどといふことがあつたのかと思ふ。確かにあの大きな古墳に祀られるのは「神」こそがふさはしい。「古事記」以前の時代である。記録として残されてゐなくても 沖ノ島の状況から想像できる。たぶん、当時の列島中で行はれたことであらう。人が神になつたことを確認はできない。古墳時代か、古墳以前か。いづれにしろ古い昔のことである。それを知らうとするのが「心の考古学」なのであらう。だから逆に 「神々のたそがれ」(276 頁)もあるし「神はどこへいった?」(251頁)といふ疑問もある。この言はば理屈つぽい説明は、「個人の記念碑から一 族の奥津城へと墳墓を変質させ、まもなく消滅へと追いやったのは、横穴式石室化の波だった」(279頁)といふことになる。それはまた宗教とも関はる。日本や東アジアでは仏教(280頁)である。これもまた「心」の問題である。宗教に関はつて古墳、つまり墳墓が変はる。大体、お釈迦様は紀元前、イエス・キリストは紀元1年に生まれたことになつてゐる。日本への仏教伝来は6世紀、当然さういふことも起こる。「心の考古学」が神や仏のみで終はるはずがない。その他にも関はつてゐる。それでもなじみないものだが、ただ、古墳の歴史といふ点から見れば実におもしろく刺激的であつた。なかなかかういふ書はない。私は考古学者を単なる土掘り屋さんと思つてゐたらしい。反省である。続きを読む投稿日:2023.09.15
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