帰れない村 福島県浪江町「DASH村」の10年
三浦英之(著)
/集英社文庫
作品情報
東日本大震災から10年以上たった今でも、住人が1人も帰れない「村」がある。東京電力福島第一原発から20~30キロ離れた「旧津島村」。ここはかつて人気番組でアイドルグループ「TOKIO」が農業体験をした「DASH村」があった地域だ。原発事故によって「100年は帰れない」と言われ、引き裂かれた人々の苦悩を、数々のノンフィクション賞を受賞した気鋭のライターが描く。忘れないでいよう、もっともっと考えよう。反響を呼んだ『南三陸日記』に連なる記念碑的ルポルタージュ。
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商品情報
- 著者
- 三浦英之
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文庫
- 書籍発売日
- 2022.01.20
- Reader Store発売日
- 2022.03.03
- ファイルサイズ
- 36.2MB
- ページ数
- 248ページ
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この作品のレビュー
平均 4.3 (16件のレビュー)
-
2019年3月、著者の「文庫版 南三陸日記」を読んで、私はおそらく生涯で1番読書で泣いた。大震災直後の赴任先での、コラムと写真の記録だった。
本書は、岩手県ではなく福島県浪江町「旧津島村」の「(放射…能で)100年は帰れない」と言われたその後の元村民たちを取材した記録である。3年半のWEB連載だった。「南三陸」同様のコラムと写真で構成されている。けれども、私は読書中一度も涙を流すことはなかった。代わりに、どんどん塞ぎ込みたくなった。
前著は、「直後」ということもあって、町民たちの心が、未来が激しく動いていた。悲しいことがたくさんあったからこそ、展望を持とうとしていた。一方、10年後の「旧津島村」帰宅困難区域の人たちは、もう悲しみ尽くして涙さえ枯れ果てている気がする。全編展望が感じられない。怒りと悲しみはでてくるけど、未来が見えない。
それでも前書きで、三浦英之さんは写真と共に書いている。
「僕たちはすぐに多くのことを忘れてしまう。(略)でも、それは仕方ないことなのかもしれない、と僕は思う。僕たちには僕たちの生活があるし、人生をかけて夢を追っている人もいれば、大切な人を守っていかなければならない人もいる。(略)だから、少しだけでいい。この小さな本を読み終わった後に少しだけ、福島について考えてほしい。今も自宅に戻れないでいる、「帰れない村」の人々に心の中でエールを送ってほしい。「僕らはちゃんと知っています。日本には人の住めない『村』があることを」そう知ってくれただけでも、彼らはきっと喜ぶはずだ。なぜか?彼らが1番恐れているのは、人々の記憶から消し去られることだからだ」
2019年の東電旧経営陣への無罪判決に憤る春江(60)さん。
満州引き上げ者が多かった津島村。国によって、半世紀も経って2度までも家を追われたチヨ(90)さん。
秘密にされていたTOKIOのDASH村は、実は津島村だった。「撮影は無理でも、当時使われていた古民家を復興の足掛かりにできないか」と未だに草刈りの手入れをしている宝次(84)さん。いつになるのかわからないのに。
気がつかず子供たちに牛乳を飲ませてしまった酪農家の女性(62)、3月14日子供たちの「お手伝い」を応援していた児童クラブの職員(58)。今も激しい後悔に苛まれている。
精神科医は言う。「神経の覚醒が継続していて、相撲で言えば、『はっけよい』『見合って、見合って』の状態がずっと続いている」←時々私はひょんなことで不眠症になるけれども、それが目が覚めていても24時間続くということだろうか。
写真は「南三陸」よりも倍ぐらい多くなっている。しかし、暗い写真が多い。なぜなんだろ。と思ったら、三浦さんは一度もフラッシュを焚いていないのである。
今年も3月11日がやってくる。
涙は一滴も流れない。
悲しみが続く。続きを読む投稿日:2022.03.01
三浦英之(1974年~)氏は、京大大学院卒、朝日新聞社の記者・ノンフィクションライター。『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞(2015年)、『牙 アフリカゾウの「密猟組…織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞(2018年)を受賞。
著者は、東日本大震災の直後から1年間、宮城県南三陸町に駐在し、2011年6月~2012年3月に朝日新聞に連載した「南三陸日記」をもとに、2012年に『南三陸日記』を出版し(更に、一部内容を追加して2019年に文庫化)、文庫版は平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞(2019年)を受賞している。
本書は、著者が2017年秋~2021年春に、現在も全域が帰還困難区域となっている浪江町津島地区(旧津島村)と、同地区に暮らしていた人々を訪ねた記録を掲載した、2020年9月~2021年3月に朝日新聞と朝日新聞のデジタルサイト「withnews」の記事を加筆修正し、まとめたものである(オリジナル文庫)。LINEニュースでも配信されだ記事のダイジェストは、2021年の「LINEジャーナリズム賞」を受賞した。
私はこれまで、『南三陸日記』をはじめ、辺見庸『瓦礫の中から言葉を』、門田隆将『死の淵を見た男』、眞並恭介『牛と土 福島、3.11その後』、奥野修司『魂でもいいから、そばにいて』、青木美希『地図から消される街』等、東日本大震災と福島の原発事故に関わる多数の本を読んできたが、著者の作品の特徴は、エピソード毎に、それに関連する写真が載っていることであろう。文章の力はもちろん大きいが、視覚を直撃する写真の力は、また別の強さを持っている。
それにしてもだ。現在も残る帰還困難区域の面積は約300㎢(東京ドーム7,200個分)で、旧津島村は全域がその中に含まれ、凡そ1/3を占めるのだ。行政単位で語ることにどれほどの意味があるかはわからないが、あの原発事故の影響で、この日本に「人の住めない村」ができてしまったこと(大規模な除染が行われない限り、今後100年は住めないと言われている)の衝撃はやはり大きい。
東日本大震災は、地震による直接的被害、津波による被害、原発事故による被害と、幅広い被害をもたらし、この十年間で様々な対策が取られてきてはいる。しかし、忘れてはいけないことの一つは、原発事故は人災の側面が大きかったということだ。地震と津波は、この日本列島に住んでいる限り避けることはできないが、原発事故は、原発がなければ絶対に起こらない。ドイツでは、福島の原発事故後、メルケル首相(当時)が、「日本ほど技術水準が高い国も、原子力のリスクを安全に制御することはできない」として、それまでの方針を180度転換し、わずか10年で(本年4月)原発の完全停止を実現した。私は強硬な原発廃止論者ではないが、他国の災害からでも学ぶドイツに対し、自国の大惨事すら喉元過ぎれば忘れてしまう日本(の政治家や原子力ムラの人々)を、本当に情けなく思う。
著者は、旧津島村の人々の思いを代弁して、「僕たちにできることはあまり多くはない。だから、少しだけでいい。この小さな本を読み終わった後に少しだけ、福島について考えてほしい。今も自宅に戻れないでいる、「帰れない村」の人々に心の中でエールを送ってほしい。」と書いている。しかし、こと原発事故に関して重要なのは、「忘れないこと」に加えて、「二度と起こさないこと」であろう。
震災から12年を経た今、読む意味のある一冊である。
(2023年6月了)続きを読む投稿日:2023.06.13
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