- 最終巻
ねじまき鳥クロニクル―第3部 鳥刺し男編―(新潮文庫)
村上春樹(著)
/新潮文庫
この作品のレビュー
平均 3.9 (490件のレビュー)
-
久しぶりに村上春樹の長編を読了。
時系列的にはこっちのほうが古いんだけど、『騎士団長殺し』的なイメージが強かった。特に登場人物が涸れ井戸の底にいる感じなんてね。ほぼ同じような描写が『騎士団長殺し』に…もありましたね。
村上春樹は狭くて、暗くて、じめじめしたところにキャラクターを置くのが好みなのかもしれないな(笑)。
村上ファンタジーのお約束で、ストーリーに出てくる謎の解き明かしや伏線の回収等はまったくありません。このあたりは
まあ、村上春樹だから・・・
ということですべて許されるのでしょう。
という訳で、このモヤモヤ感を感じる為に村上春樹を読んでいるとっても過言ではないでしょう。
結論として、極上の村上ワールドを堪能させていただきました。
ありがとうございました。続きを読む投稿日:2020.10.04
このレビューはネタバレを含みます
ウィキペディアによると、「第三部:鳥刺し男編」は、第一部、第二部が出てから一年以上経った1995年の8月に出たらしいけど、これは蛇足だ(爆)
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これでは、第二部の終わりで描かれていた、あのなんとも言えな…い寂しい陽光の風景が台無し。
そういえば、松任谷由実の「悲しいほどお天気」という曲の歌詞に、♪みんな まだ 気づかず過ごしていたんだわ ずっと一緒に歩いていけると 誰もが思っていた いつまでもわたしの心にあるギャラリーにある あなたの描いた風景は 悲しいほどお天気ぃ〜というのがあったけど。
この第三部はさしずめ、「悲しいほどお天気」の後に、この時間が終わることを気づかないで過ごしていた“みんな”でゴールデンウィーク辺りに集まって酒を飲んでワイワイ騒いだという歌を聴かされているみたいなものだ。
ただ、それは、自分がこの『ねじ巻き鳥クロニクル』を倦怠期を迎えた夫婦(夫婦というよりは男と女?)の物語として“のみ”読んだからで。
著者がテーマに組み込んだらしい、組織としての暴力が個人に及ぶことということに付随する要素である綿谷ノボル等々、さらに、主人公の岡田亨を助けるorストーリーを動かす役割のシナモンとナツメグ云々を含めて読んだ人は、自分とは違う感想を持つのかもしれないな?とは思う。
自分は、クミコが岡田亨の元を去ったのは、綿谷ノボルとは全然関係ないと思う。
いや。著者が描くこの物語(フィクション)には、そのことは関係あるんだろう。
兄妹として一緒に住んでいた綿谷ノボルとのいきさつがあったからこそ、クミコはずっと心に闇を潜ませていた。
信頼し安心していた岡田亨が他の女性と一晩過ごしたこと、クミコが中絶したことをきっかけに、その潜んでいた闇が頭をもたげだして。
ひょんなことから他の男と寝たことで、気づかず欲していた欲望に気づいて。そこに火が着いてしまえば、その欲望のまま突っ走ってしまう……、というのが、この物語(フィクション)だが。
でも、そういうことが起こってしまうのは、なにもクミコだけじゃない。
現実においては、綿谷ノボルとのいきさつのようなことが過去にあろうとなかろうと、それは女だろうと男だろうと、どんな人にでも起こりうることだ。
それは、大人としての分別とか、そういう次元の話ではない。
むしろ、それが大人だからこそ、社会的な責任やストレス、あるいは時間的な制限で、自分が見えなくなって、どんどん深みにはまっていくものだと思う。
深みにはまっていった結果、本来のパートナーへのすまない気持ちから、自分を責め、罰しようとして、結果的に本来とのパートナーとの関係を壊していく。
世の中にはそんなこと、普通にある。
結婚していない男女の間に起きることなら、もっと普通だろう。
ただ、村上春樹としては、そういう物語にはしたくなかったんだろうね。
だから、そこに組織としての暴力が個人に及ぶことというテーマを組み込むことで、クミコが岡田亨の元を去ったのは、悪の根源としての綿谷ノボルがいたからだ、という現実のドロドロした出来事とは違うキレイなファンタジーにすることで、読者が読みやすい物語に仕立て上げた。
そういうことなんじゃないのかな?
ウィキペディアを見ると、『国境の南、太陽の西』はこの『ねじまき鳥クロニクル』の中にあったエピソードを分離させて一遍の小説にしたみたいなことがあるけど、それを見てもそんな気がするかな?
ただ、そうすることで一種のファンタジーとして面白くはなったんだけど、暴力云々というテーマはこの物語にうまく結合していないように感じた。
出来上がったジグソーパズルに、一部他のジグソーパズルのピースがはまっているみたいって言ったらいいのかな?
そういう風に読んじゃうと、結局、岡田亨はこの第三部でも、♪Nothing’s gonna change my world〜でしかないんだよね(^^ゞ
だってさ。第一部の最初、クミコは不満をあらわにして言うわけだよ。
“あなたは疲れていても誰にもあたらないでしょう。あたっているのは私ばかりみたいな気がするんだけど、それはどうして?”と。
奥さんであるクミコは、一番信頼できて安心できる旦那の岡田亨に文句なんか言いたくないわけでしょ?
仕事等で疲れてるから、イライラしていて、つい言っちゃうわけだよね。
つい言っちゃって、その申し訳ない気持ちから、自分を責める。
でも、自分を責めている自分に居ても立っても居られない気持ちになって、そのことでどんどんストレスを溜めていく。
仕事等からくるストレスで、クミコがイライラするのはどうしようもないことなわけだ。
それは、世の人全て一緒なんだもん。
仕事をしている限り、ストレスは絶対付きまとうものだし。
仕事を辞めることでそのストレスの原因を取り去ったところで、今度は今までストレスでなかったことが新たなストレスに変わっていくだけだ。
それは際限がない。
てことは、ストレスに対処するには、他の何か楽しいことで紛らわすしかないんだよ。
にも関わらず岡田亨ときたら、延々♪Nothing’s gonna change my world〜だ。
もちろん、クミコだって、♪Nothing’s gonna change my world〜は理解出来る。
理解出来るからこそ、クミコは出逢った岡田亨に惹かれて。岡田亨も♪Nothing’s gonna change my world〜を理想とするクミコに惹かれた結果、お互いを一番信頼して、一番安心出来る相手としているわけだ。
というか、だからこそ、クミコは働かないでブラブラしている岡田亨に、“あなたのペースでやればいい”とことあるごとに言ってあげることが出来るわけだ。
でも、♪Nothing’s gonna change my world〜じゃ、友だち同士ではいられても、毎日顔を合わせて一生を暮らしていく夫婦としては続かない。
夫婦というのは、どんなに気が合おうとも、元々は異物同士だからだ。
自分を妥協させて、変わっていかなければどうにもならない。
そのことがよく表れているのが、第一部P16の二人の電話での会話だろう。
知り合いの雑誌社で詩の選考と詩を書く仕事があるけどどう?と言ったクミコに、岡田亨はこう言う。
「僕が探しているのは法律関係の仕事なんだぜ」、「詩なんか僕には絶対書けない」と。
クミコはそれに対して、こう言う。
「でも詩っていたって(中略)別に文学史に残るような立派な詩を書けって言っているわけじゃないんだから。適当にやればそれでいいのよ」と。
先に変わったのは…、というか、仕事等のストレスで否応なく変わっていったのはクミコの方だった。
わたしは、もう♪Nothing’s gonna change my world〜ではいられない、それまでの自分を保ち続けるのはもう限界…、と。
クミコがそれを明確に意識するようになったのは、たぶん、自分一人で中絶を決心して病院に行った時なんじゃないのかな?
相手(クミコ)の意見を尊重するばかりで、旦那としてなんらサジェスチョンしない岡田亨に人生の伴侶としての物足りなさを感じた…、というより、たんにぶっ切れたんだろう。
もちろん、クミコにとって、岡田亨はその時でも一番信頼して安心出来る人だった。
クミコが岡田亨のことを信頼して安心するのは、岡田亨が相手を尊重するタイプの人間だからだ。
なぜなら、兄の綿谷ノボルが相手を一切尊重しない人間だからだ。
だから、クミコは自らを尊重してくれる岡田亨に惹かれ、付き合い結婚したのだ。
そんなクミコも、仕事等のストレスによる日常的な疲れから、自分の行動を他人に決めてもらえたら楽になるのにな…、と変わっていった。
なのに岡田亨は仕事辞めて疲れないのをいいことに、相変わらず♪Nothing’s gonna change my world〜と、クミコとつき合いだした頃のまま、オレもキミもそうだよね?と、その価値観を押し付けて接してくる。
いや。岡田亨からすれば、それはクミコに対する愛情なのだ。
ていうか、もしかしたら、岡田亨はクミコから、おそらく相手を尊重しない綿谷ノボルの精神的暴力を聞かされていたはずだから、意識して相手の意見を尊重するようにしていたというのもあるのかもしれない。
だから一概に岡田亨が自分一辺倒だったwとは言えないのかもしれないが、いずれにしても、クミコがストレス等で変わっていったことに岡田亨は気づかずに♪Nothing’s gonna change my world〜だった。
だから、ストレスに耐えきれなくなったクミコは、岡田亨にあの電話をかけていた。
♪Nothing’s gonna change my world〜じゃないわたしを愛して。
♪Nothing’s gonna change my world〜じゃなくなってしまった、わたしを思いっきり辱めることで罰して、と。
そういうことなんだろう。
こんなことを書くと怒り出す人もいるかもしれないけどw、岡田亨はクミコを“きちんと支配してあげなきゃいけなかった”のだ。
だって、クミコは自分からかつて自分を支配してた綿谷ノボルの元に行ったわけだ。
物理的な理由で行かざるを得なかったというのはあるのかもしれないが、綿谷ノボルの下にいれば生きていく上でのことを自分で決めなくていいから楽だ、…というより、日々のストレスで疲れ果ててしまって、まともな考えが出来なくなり、綿谷ノボルに支配されていた子どもの頃に戻って楽に生きたい…、と考えたというのもあるはずだ。
でも、他人を尊重しないで支配することしか出来ない綿谷ノボルの下で暮らして、クミコが幸せに生きられるわけがない。
だって、クミコは自立した心を持っている。
なら、相手を尊重できて、お互いに一番信頼して安心できる岡田亨に“きちんと支配されて”暮らす方が絶対幸せなはずだ。
なぜなら、それは男といわず女といわず、世の中の多くの人が普通にしている生き方だし。
なにより、たぶん、それらの人たちは自分が支配されて暮らしているとは思っていないはずだ。
それが、P499でボリスが間宮中尉に言った、“この国で生きる手段はひとつしかない。それは何かを想像しないことだ”、に通じているとしたら、かなり怖いが。
でも、P567での笠原メイの手紙に書かれていた、“「また氷かよ、しょうがねえな」とぶつぶつこぼしながら、冬は冬でけっこう楽しく生きているみたいに見えます。私はそういうアヒルの人たちのことが好きです”、という風に見れば気が楽になる。
それは、ネットだのマスコミだのに巣食う輩に「今は生き辛いよね」とエセ共感されることで、オレ/わたしも「生き辛くていいんだ」と自ら幸せになるために頑張ることを放棄するよりは、「しょうがねえな」とぶつぶつこぼしながら生きる方が幸せということと通じているのかもしれない(爆)続きを読む投稿日:2024.05.01
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