経営者・従業員・株主がみなで豊かになる 三位一体の経営
中神康議(著)
/ダイヤモンド社
この作品のレビュー
平均 4.0 (13件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
本書は、「投資家の思考と技術」を経営に取り込むことで、経営者、従業員、株主が皆で豊かになる道筋を示しており、経営者と従業員、そして厳選投資家を加えた三位一体で経営する構想を綴っている。
レビューの続きを読む
「経営が変われば会社の本質的価値が上がり、株価も上がる」というストーリーが本書筆者であるみさき投資の中神さんのいう理想状態。
なお、本書では長期投資家の中でも厳選投資家に注目する。
すなわち、長期分散投資家とは逆に、投資先を厳選して長期に投資する人であるが、
定量的に表せば、統計学的に「2σ=偏差値70=上位2.275%」の企業に投資する、すなわち上場企業約4,000社に対してわずか90社程度の割合を選び、投資する資産家達である。
この2σの選球眼が「投資家の思考と技術」として濃縮されているのだ。
さて、ここからは備忘録として書き記していく(そのため長文となっている)。
まず、経営には4つのタイプが存在すると中神さんは言う。
①額の経営:売上至上主義
売上や利益の「額」そしてこれらの伸び率を重視する経営である。
②率の経営:効率至上主義
売上高営業利益率や売上高キャッシュフロー比率を重視する経営である。
上記まではPL発想/PL思考とも言い換えられるであろう。
下記からはPLとBSの双方に目を向けた在るべき経営の姿である。
③利回りの経営
投下資本に対して、どれだけ効率良く利益やキャッシュフローを生み出したかを重視する経営である。
定量指標としては単年度のROE、ROIC、ROAなどが挙げられる。
④複利の経営
元本運用から生じたリターンを再投資する
投下資本を再投資によって雪だるま式に膨らませてゆく経営である。
定量指標としては長期持続的なROE、ROIC、ROAが挙げられ、時間を味方につけて長期的に価値を最大化していく。
厳選投資家は
「複利による投下資本の増殖」を最重要視しているため、もちろん④の経営が求められるのはお分かりの通り。
一方で④の経営状態に至るまでには前提条件があるだろう。
それは、額や率がある程度安定的に稼げるだけの事業規模にあるということだ。
額も率も小さい事業初期において、利回りを重視するのは時期尚早と考えられ、まずは圧倒的な額と率を伸ばし、その先に得た利益=超過利潤を再投資に回していくことは忘れてはならない。
さて、④の経営を進めるにあたり、当たり前であるが投下資本を太らせるだけの超過利潤を獲得しなければならない。
超過利潤=資本生産性-資本コスト
すなわち、資本コストを上回る資本生産性を上げることが必要になる。単純にインプットに対して、それを上回るアウトプットを出すことと同義で付加価値はイン/アウトの差分に当たる。
この資本生産性を測る代表的な指標はROEだ。
(みさきの黄金比:ROE>=ROIC>=ROA>WACC)
そして一般的な株主資本コストとされているのが8%であるため、ROEは8%を越えなければ超過利潤は生み出せていないことになるが、残念なことに過去10年平均で東証一部上場企業のROEを見れば、54%が8%以下になっているのだ。
また、本書では触れていないが、この手の数値を見る際はPBRとPERも確認しなければならない。
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/006_03_00.pdf
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/008_04_00.pdf
上記参考文献も加味してまとめれば、特に製造業種におけるPBRが低く、早急な改善が必要であることが分かるであろう。
(PBRは少なくとも1倍以上、理想では2倍以上)
話が少し逸れたが、超過利潤の向上に対して残論点となるのが資本コストを下げる方が良いのか、それとも資本生産性を上げる方が良いのかだ。
本書では経営のインプットでしかない資本コストの計算を緻密に行うよりも、「経営の本質であり、成果・アウトプットでもある資本生産性を高めるほうに全精力を注ぐべし」と説く。
では、資本生産性を高めるにはどうすれば良いのか。
そこで重要となるのが「事業経済性」「障壁」「事業仮説」なのだと本書は説く。
「事業経済性」
まずは十分な利益率を確保すること。
ROEをデュポン分解すれば、
・ROE=収益性(売上高利益率)×資本の効率性(総資産回転率)×財務状態(財務レバレッジ)
・売上高利益率:当期純利益/売上高
・総資産回転率:売上高/期首総資産
・財務レバレッジ:期首総資産/期首株主資本
上記公式から読み解くに、ROEを向上させるには、
・収益性を改善し、
・資産の効率性を高め、
・デッド・ファイナンスを増やせば良い
となるが、伊藤レポートなどでは「収益性」「資本の効率性」こそが長期的にROEを改善する本質であるとの指摘がある(デッド・ファイナンスを増やすことに本質的なROE改善の素養が無いことは明らかであるからだろう)。
また、米国や欧州とこれら3要素の数値を比較すれば、明らかに「収益性」が劣っていることが分かる。
すなわち「事業で儲ける力(特に「収益率」)」が圧倒的に弱いのだ。
この「事業で儲ける力」を養うには様々方法はあり、他書の解説で深めていくとしよう。(本書は概念的な内容に終始しているため、本解説/感想も概念レベルで一旦留める。)
さて、資本生産性を高める2ステップ目は「障壁」であった。
十分な利益を獲得する、もしくは獲得した後には「障壁」を形成して長期に持続可能性の高い資本生産性を構築する必要がある。
そして、本書で語る「障壁」は単なる優位性や差別化ではなく、投下資本に対して利回りが十分に出せている状態を作れているかに注目している。
ブランドも模倣困難技術も高度人材も、全ては「利回り」を十分に出せているかが論点になるのだ。
これはPL脳であるか、PLとBS双方を考慮して経営を考えられているかの思考の差分である。
では、「真の障壁」とは具体的に何か。
本書では3つの障壁を挙げている。
①コスト優位:供給面でコスト優位に立てているか
②顧客の囲い込み:需要面で顧客を囲い込めているか
③規模の経済と顧客の囲い込みの組み合わせ:囲い込みと規模を組み合わせられているか
これら3つの障壁はあるものの、特に③の障壁が最も強く強靭であり、
①供給サイドの障壁のみではそれほど強靭では無く、
②需要サイドの障壁と①を組み合わせて③を作り出すことが必要なのだ。
需要サイド、すなわち顧客の囲い込みになるのだが、囲い込むには3つの顧客状態を作れれば良い。
①習慣化:なぜか同じものを使い続けてしまう
②スイッチングコスト:他製品への切り替えが負担
③サーチコスト:他を探すのが面倒
これら障壁を形成するには圧倒的な「コストとリスク」が必要となる。
障壁の形成には圧倒的な「投下資本」が必要条件であり、経営者の「事業仮説」が十分条件なのだ。
また、「大きな池の大きな魚」を目指してしまえば、たちまち競争環境は厳しくなり、障壁の構築難易度も格段に上がる。
ゆえに、競争環境観点からは「小さな池の大きな魚」を目指すことが「利回り」を高めて維持することに有効である。
最後の資本生産性を高める3ステップ目は、「事業仮説」である。
この事業仮説は本書ではIdiosyncratic Vision(特異なビジョン)とも言い換えられていた。
すなわち、常軌を逸するような常識の戦略には目もくれない仮説。
事業に対する深い洞察と、仮説構築、そして論理的検証が事業仮説を支えている。
楠木建氏著作の「ストーリーとしての競争戦略」とも近しい部分がある。
とにかく、他社の二番煎じではなく、常識的に、論理的には難しい事柄に対して、論理を超えた仮説を経験、洞察、気づきから導き出していく必要があるのだ。
そして、その仮説は逆に論理的に検証されてこそ、真に事業仮設としての価値を見出される。
「事業経済性」「障壁」「事業仮説」によって資本生産性を高め、ROEの向上並びに皆んなで豊かになる経営を概念的に実現的できると本書は説いている。
また、本書では障壁を形成したのちのガバナンス設計やマネジメントによって、長期に持続可能な資本生産性の維持・向上のすすめを記しており、コーポレートガバナンス・コードと合わせて確認すれば深みのある学びになるが、超長くなるため割愛。
概念的な理解として本書の内容を押さえつつ、「事業経済性」「障壁」「事業仮説」について、それぞれの専門書に当たることが最も効率的な学びになるだろう。投稿日:2023.05.14
投資家の考え方を学ぶのに良い本。一方で、提案がハイリスクを取ることや投資家を経営に迎え入れることなど、どこまでいっても投資家目線なので、事業会社にいる身としては、その結果にまで責任を取ってくれるのかと…突っ込みたくなる箇所も多い。続きを読む
投稿日:2024.03.06
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。