社会的ジレンマ
山岸俊男(著)
/PHP新書
作品情報
「自分一人ぐらいは」という心理が集団全体にとっての不利益を引き起こす社会的ジレンマ問題。違法駐車、いじめ、環境破壊等々、現代社会で起こっている多くの問題はこの「社会的ジレンマ」と見ることができる。著者は数々の調査・実験・シミュレーションから、人間は常に自分の利益を大きくすることだけを考えて「利己的」な行動をとるわけではなく、多くの場合、「みんながするなら自分も」という原理で行動することを明らかにした。そしてこの「みんなが」原理こそが人間が社会環境に適応するために進化させてきた「本当のかしこさ」ではないかと指摘する。『信頼の構造』『安心社会から信頼社会へ』などの話題作を発表し、心と社会との関係について、認知科学・心理学・社会学・経済学など多方面からユニークな研究を展開する著者。本書も、これからの社会や教育のあり方を考える上で、お説教的な精神論の限界を乗り越える重要なヒントを与えてくれる。
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商品情報
- シリーズ
- 社会的ジレンマ
- 著者
- 山岸俊男
- 出版社
- PHP研究所
- 掲載誌・レーベル
- PHP新書
- 書籍発売日
- 2000.06.21
- Reader Store発売日
- 2020.07.17
- ファイルサイズ
- 4.3MB
- ページ数
- 232ページ
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この作品のレビュー
平均 3.7 (12件のレビュー)
-
利己的行動が集団全体に不利益をもたらす問題について、人間関係から国家レベルまで考察されている。
進化によって獲得した行動ゆえ、誰しも少なくとも無意識には理解していることだろうが、実験結果などによって…構築された理論からは大いに学ぶところがあった。自分のやっていることが絶対的に正しいと考える人には関わりたくないと思う理由が、よく理解できた。最終章の「質量限界グラフ」が見事だが、モデルにすぎないのか、実験データなどの裏付けがあるのかがわからない。累積グラフでS字カーブを描くためには、分布が山なりになることが必要なのだが。
この本になぜ今まで気づかなかったのかと思うほど。
・協力的な人と非協力的な人の間では、他人がどのような行動をとるかの予想や期待が異なる。協力的な人々は、人は様々と考える傾向があり、相手によって自分の行動を変えることになり、応報戦略を採用する。非協力的な人々は、他人も非協力な行動を取りやすい利己主義者だと考える傾向がある。
・他人がとる協力行動の理由の解釈も異なる。協力的な人々は、良い人間か悪い人間かという点から判断する傾向がある。非協力的な人々は、相手が協力的な行動をとったのは自分の利益を最後まで追求する力にかけていると考える傾向があり、非協力的な行動を強める。
・ホッブスは、社会的ジレンマを解決するためには、人々の行動を強制させるための公権力に委ねることにより、安心の保証を得ることを提唱した(社会契約論)
・社会的ジレンマをアメとムチで解決する方法の問題点は、人々の行動を監視し統制するためのコストがかかること、そのコストを誰が負担するかという二次的ジレンマが生じること。
・また、アメ(報酬)を与えることによって、自発的協力の意欲が下がるという問題もある。政府などの組織の存在によって自発的協力の動機を減少させ、親族や地域などの共同体を破壊することが指摘されている。
・怒りや愛情などの感情は、コミットメント問題(しなければならないことを実行すること)や社会的ジレンマを解決するために必要な、行動の選択の自由を束縛するためのメカニズムとして働いている(R.H.フランク「オデッセウスの鎖」参照)
・互恵性原理(社会的交換ヒューリスティック)とは、お互いに協力行動または非協力行動を取り合うこと。
・協力的な行動を取らせるためには、そうすることが本人の利益になることを理解してもらうことが有効。
・人々の協力行動を高める働きをする要因(p.190)
・「質量限界グラフ」によると、協力者の割合は、最初にどれだけの人々が協力しているかによって全く異なってしまう。半分くらいのクラスではいじめの傍観者の数がほぼ全員であるのに対し、別の半数くらいのクラスではほとんどいない(「いじめを許す心理」正高信男)続きを読む投稿日:2012.09.04
(1)一度きりのジレンマ状況においても応報戦略を用いる「賢い」利己主義者が、同じ様な「賢い」利己主義者の集団で最も利益を得る、と言う実験結果は大変興味深い.問題は母体集団において、短期的視野でしか動か…ない「愚かな」利己主義者の比率をいかに減らして、長期的視野でお互いに協力できる「賢い」利己主義者を増やせるかにかかっている.
ある程度のアメとムチ(規制)は必要なようだ。しかしアメとムチが行き過ぎると全体主義に陥るというリスクがある.
また、「みんながするなら(じぶんもそうする)原理」=「自分だけがバカを見るのでは無い」で協力行動を撮る人間が多数であれば、それにつられて「アメとムチ」が無かったとしても協力行動を取る人間は増えていく.
(2)「限界質量モデル」から考えると、同じような社会的ジレンマに直面した2つの集団において人々の協力率が大きく異なっているからといって、その2つの集団ないし社会に属する人々が異なった種類の人々であるということには必ずしもならないのである.(=分布の初期値が限界質量を上回っているか下回っているかで最終的な結果が大きく変わってしまう)
限界質量モデルは社会的ジレンマ解決の際に大きなポイントとなる.限界質量を超えた状態では、高い協力率を生み出し維持するのに人々が「みんながするなら自分もそうする」原理に従って行動するだけで十分だからである.言い換えると、いくら多数の「みんながするなら自分もそうする」主義者がいても、協力率の"初期値"が限界質量を下回っていれば、高い協力率は達成されない.
社会的ジレンマ解決にとって一番重要なのは、筋金入りの利己主義者による日協力行動を、限界質量を超えないように押さえつけられるかどうかだ、ということになる.
比較的穏やかなアメとムチの使用が手遅れになって、協力率が一度限界質量を下回ってしまうと穏やかなアメとムチを使うだけでは社会的ジレンマの解決が不可能となります.そうすると強いアメとムチを使ってすべての人々の協力傾向を変化させる必要が出てくる.
(3)合理的な利己主義者はコミットメント問題を解決できない.そのコミットメント問題に直面すると、合理的な利己主義者は、非合理的な人間、つまり感情に駆り立てられて行動する人間よりも損をしてしまう.コミットメント問題を解決するためには、将来の自分の「選択の自由」を自分で放棄する必要がある.
「かしこい非合理性」の源として「直感的理解」と「感情」がある.感情的な行動が時に合理的な行動を凌駕する(後先考えない行動が、他者に認識されると、覚悟を決めた人間として認識されその行動が今後も認められるというメリットがあるので)
(1)の話は(2)とかなり重なっている.
本書はジレンマについての視点をいくつも提供してくれており、実生活でジレンマに遭遇した時も基礎となる考え方として有用であろう.続きを読む投稿日:2012.12.13
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