となりのヨンヒさん
チョン・ソヨン(著)
,吉川凪(翻訳)
/集英社文芸単行本
作品情報
もしも隣人が異星人だったら? もしも並行世界を行き来できたら? もしも私の好きなあの子が、未知のウイルスに侵されてしまったら・・・・・・? 同性愛、フェミニズム、差別と情報統制――マイノリティからのまなざしを受け止めつつ、人々の挫けぬ心を繊細に描く、「いま」と未来の物語。切なさと温かさ、不可思議と宇宙への憧れを詰め込んだ、韓国SF短編集全15編。
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商品情報
- シリーズ
- となりのヨンヒさん
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文芸単行本
- 書籍発売日
- 2019.12.20
- Reader Store発売日
- 2020.04.04
- ファイルサイズ
- 0.4MB
- ページ数
- 256ページ
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この作品のレビュー
平均 4.3 (10件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
うーんなるほど。作者がジェームズ・ティプトリー・ジュニアに影響を受けたこと、よくわかる。
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SFだが、情緒に訴えるところも、生きとし生けるものへの深い愛情を感じさせるのも良い。
パラレルワールドものでジェームズ・ティプトリー・ジュニアが出てくる「アリスとのティータイム」、人に紛れて暮らす異星人を養子にした女性と異星人の友情を描く「養子縁組」、隣に暮らす異星人との交流を描く「となりのヨンヒさん」が特に良かった。「ヨンヒさん」は、最高。人種差別の暗喩ではあるだろうけど、それだけではない。人間からは「ガマガエル」と蔑まれる容姿の異星人の、故郷を思う心情と、人間との束の間の友情は本当に切ない。異星人が「イ・ヨンヒ」という、韓国では古くさいと思われるような名前を名乗っているのもおかしいが、本当の名前は名乗れないというところは考えさせられる。
「養子縁組」も異星人との友情が描かれるが、どちらかと言うと異星人の子どもの特徴を含めて愛する親の姿が心に残る。「跳躍」はケン・リュウみたいだなと思った。
第二部のカドゥケウスシリーズはもっとたくさん書いて連作長編にしてカドゥケウス社の支配の始まりから終わりまで書いたら『火星年代記』みたいになったんじゃないかと思う。
LGBTや障がい者の社会参加なども興味深いが、南北問題や、(南にもかつてはあり、北には今もある)情報統制など朝鮮半島特有の問題を扱った作品は特に印象に残る。
作者は地方からソウル大学に合格し、翻訳者、弁護士としても活躍中とあるから、とても頭のいい人なのだろうが、作品は才気ばしった感じというよりは、共感させるもので、そこも凄いなあと思った。
他の作品も読んでみたい。投稿日:2020.06.28
短編作品集なので、一つずつ簡単に感想を書いていく。
第一部
「デザート」
最初はよく分からず、『付き合った男性がデザートに見える』という世界なのかな……と思いながら読み進めると、ラストで実は『全…ての人がデザートに見える世界』という事だった。単純に面白いし、お腹が減る。デザートが食べたくなる作品。
「宇宙流」
囲碁の話は半分も判らないし、読んでいてもイマイチ頭には入って来ない。そこから宇宙飛行士を目指す主人公が絡み合う。主人公が事故で宇宙飛行士を諦めた後、どんでん返しで『障がい者を宇宙へ』となるのは、すごいと思えた。囲碁の部分はやっぱりわからないままだったけど、世界が反転するとはこういう事かと思えた。
「アリスとのティータイム」
この話好き――。と思えた。多次元世界の話。フェミニズム文学と言う言葉をこの作品で知った。なにそれ、すごい気になると思ってネットで調べた。物語は特にフェミニズムは関係なく、こちらと少しだけ違う世界の人との交流の話。
「養子縁組」
この辺りから、なんだかがっつりと異世界気分になった。地球に紛れて暮らしている異星人の話。
「馬山沖」
死者に会える海の話にほんのりとした同性愛も相まって、せつない。
「帰宅」
幼いころに別れた家族と会う話。幼すぎて覚えていないでも、他人とも思えない不思議な感覚と何とも言えない奇妙さ。これもせつないけど、それだけではない感覚に襲われる。
「となりのヨンヒさん」
宇宙人が隣に住んでいる話。最初は分からなかった。いや。読み終わっても理解できているのか自信がないが、『言語を越えた交流』というシーンがとても印象的だった。言葉がないから伝わるものがある。それを文字だけの小説で表現できてしまうんだ。と思った。
「最初ではないことを」
死に逝く友を見守る話。他の話と違ってこれはなんだかすごく身近な気がした。死の原因の病はファンタジーなのだけど、死を前にして何かしてやれなかったかと思う気持ちは普遍的な気がする。そして、「誰かにとっての最初の死」にならないようにと願う気持ちも。
「雨上がり」
存在が薄い子の話。存在が薄い理由が『世界が違うから』というのは面白かった。いや。面白いといっていいのか分からないケド。でも、女の子の「注目されたくない」という気持ちはすごく分かる。私もそっちの人だなぁと思った。
「開花」
姉が逮捕された妹の独白。自由に情報を得られない世界の話。ちょっと淡々としすぎていて、読み辛かった。姉が自由に情報を取るために政府に逆らって活動したために逮捕されたというのは読み進めないと分からない。さらに、妹はその『自由』についてよく分かっていない。私はたぶん、戦う姉の方かもしれないなと思いながら、妹にも姉にもなれずただひとり『悶々』する部外者がいいところかもしれない。
「跳躍」
人に触覚が生え、全ての情報がだだ漏れになり、世界が変わっていく話。読み進めていくだけで次はどんな変化が起きるのかワクワクした。
第二部
「引っ越し」
妹の病気を治すために宇宙飛行士の夢が遠ざかった兄の話。兄弟児といわれる病気の子が兄弟にいる健康な子は我慢するというものかな……と思ったら、すごくしっかりと親は何を優先したのかを書かれていて驚いた。
親の前で「僕にとって大切なものは、父さんや母さんには、チエ(妹)ほど大切ではない」と言い切ってしまうのがかっこいい。さらにここに「お前にとって大切なものは何なのか知らないけど、それが何であれ、僕にとっては大切ではないだろうと思う」と続く。ドキドキ。え。この後、喧嘩腰になるの?と読み進めると
『お前にとって大切なものが何なのか分かるなら、それもいいような気がする。僕にとってお前は、それくらいには大切なものだから』
お互いに大切なものを大切には出来ないケド、大切なものの話をしあう事は出来る。それは素敵だなと思える話。
「再会」
人を助けたために大切な試験に落ち、夢を叶えられなかった話。
単純に『助けて良かった』と言う話ではない。助けたけれども、相手が本当に無事だったかどうかは確認ができず長い間、自分は無駄な事をしたのではないかと思い悩む話。最後の最後に「助かっていたよ」と知るのだが、それが二十年後。何が最適だったのかが分からないままというのは苦しい。
「一度の飛行」
正直よく分からなかった。チャンスを不意にした人の話。恐怖は人によって違うのかもしれない。
「秋風」
人の力に頼らず自然のままに作物を育てたいという反乱のお話し。
私もお天気に苦しめられるのは分かると同時に人が全て天気を支配するのは違和感を覚えると思う。そして、『人よりも長く生きてしまう宇宙飛行士』たちの話も絡んでいる。これは対比なのだろうか?と思いながら読んだ。
一瞬にして変わっていく自然の苦悩と、長く変わらない姿の宇宙飛行士の苦悩。
そんな感じの話だった。
どれも、挫折や苦悩が混じっているだけではなくて、同性愛・障がい者・異種族などいろんな要素が混ざっている。読んでいて、気持ちが良かった。
ごちそうさまでした。続きを読む投稿日:2023.12.16
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