危険な食卓
小池真理子(著)
/集英社文庫
作品情報
健康至上主義の妻と美食家の夫の晩餐は、殺意が隠し味の特別料理。(『危険な食卓』) がさつな嫁に耐える姑の、穏やかな顔の下にある、もうひとつの顔。(『天使の棲む家』) 21年ぶりに電話をかけてきた同級生の魂胆。(「同窓の女」) 妻と夫、姑と嫁など、普通の人々のありふれた日常に芽生える小さな悪意、殺意の兆し。人間の心理を、恐怖というスパイスをきかせて鮮やかに料理した極上のメニュー8編。
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商品情報
- シリーズ
- 危険な食卓
- 著者
- 小池真理子
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文庫
- 書籍発売日
- 1997.04.21
- Reader Store発売日
- 2017.09.01
- ファイルサイズ
- 0.3MB
- ページ数
- 296ページ
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この作品のレビュー
平均 3.6 (23件のレビュー)
-
いわゆるどんでん返し物とは違う種類の
そうきたか...な裏切りを豊富なバリエーションの鳥肌と共に味わえるハズレ無しの短編集。
人間の根本的な恐ろしさと人間故の賢さの融合で産まれた「闇の部分」を、ライト…で簡潔なボリュームで楽しむ事が出来る。
ヒェッ:( ;´꒳`;): となるものから
シュン(´・_・`) となるもの、
ホッε-(´∀`*) と出来るものと
怖いけど....( *´艸`)クスッ
となる、飽きが来ない素晴らしいセットリスト。続きを読む投稿日:2020.10.01
ホラー・サスペンス風味の短編集。人間関係で生じた軋轢や不和が(短編という都合もあるだろうが……)かなりスムーズに殺意に昇華されて、実行に移されていくのもちょっと面白かった。どの話の主犯も「こいつが居な…くなったらいいのにな……。よし、殺るか」となるまでの決断が早く、その後も怖気付くことなくサクッと邪魔者を消している。勿論完全犯罪の条件を揃えた上での犯行なので、真相を知るのは主犯を除けば我々読者のみ。彼や彼女たちの計画通りに転んでゆく結末に、一緒になってこっそりほくそ笑むことが出来るのもこの本の良さなのかもしれない。
個人的には「花火」の結末が好きだった。同じ本の中でも完全犯罪を達成して恙なく暮らしている主人公がいれば、こうして後から自身の行いを理由に一生罪悪感に苛まれていそうな主人公がいるのも良い。
従姉とその旦那、従姉の間男、そして主人公の久美子。なんとも不思議な組み合わせの四人旅行。間男と自分がカップルで、その旅行に同伴することになったのが従姉夫婦、というのが従姉の立てたシナリオであるらしい。実際、従姉の間男と久美子は無関係で、それほど認識がないのにも拘らず。……そんな風に、従姉の不倫旅行の口実(ダシ)に都合よく使われたことを不満に思っている久美子。その意趣返しか、彼女は従姉の夫である忠彦と二人きりになったタイミングで、従姉の不倫について言及してしまう。
「あんなにも分かりやすく夫の前で間男といちゃついているのだから、あれは気弱な忠彦の性質を利用した夫公認の不倫なのだろう」。そう考えての発言だったが、結果的にそれが最悪の事態を招く。鈍感な忠彦は久美子に指摘されるまで、妻の不貞など勘付いてすらもいなかったのである。愛していた妻に裏切られた悲しみからか、彼は湖上に打ち上げられた花火のひかりに紛れて入水自殺する。ボートから足を投げ出し、沈みゆく忠彦に気づいたのは久美子のみ。決定的な瞬間を目撃して凍りつく久美子を他所に、何も知らない従姉と間男だけが花火に歓声を上げるシーンが醜悪だが、美しいとも感じた。口は災いを招く。いくら相手に腹が立ったとしても、勢いに任せた感情的な言動は避けた方が良いし、芽生えた悪意にも蓋をしてやり過ごした方が良いのかもしれない。
後味の悪さで言うなら「囚われて」もなかなかサイコな話で良かった。束縛癖の旦那にほぼ軟禁に近い生活を送らされ、狂った妻が旦那を刺殺してしまう話。しかし実際のところ、妻が語る「夫とは似ても似つかぬ優しく美しい恋人(不倫相手)」は存在せず、また旦那が殺した愛犬というのも幻覚で、取り調べ中に妻は(旦那に壊された)ボロボロのぬいぐるみを掻き抱き、泣きながら(架空の)愛犬の名前を呼んでいるという壮絶な描写にゾッとさせられる。
ネットで感想を見ていると「天使の棲む家」の評判も良いようだった。天使のようだと称される優しい奥様が、厚かましい嫁(しかも不倫していて、息子を困らせている)を手にかけるシーンは実に鮮やか。話自体のテンポも良く、かつては世間知らずのお嬢様と呼ばれた貴婦人がこんなにもあっさり完全犯罪を成し遂げてしまうのかと思うと、いやはや参りました。お見事、という感じ。表現的にはあまりよろしくないかもしれないが、読んでいて一種の気持ち良さを感じてしまった。
ちなみに、表題作の「危険な食卓」は収録されている8編の中では最もコミカルだった。トリを飾る位置にあるが、この本の中では珍しく読了感が爽やかな話なので、この編集順はよく考えられていると思う。
食生活の違いから関係が冷め切り、離婚に踏み切った夫婦。元は夫を支える良妻だった基子。しかし、途中から自然食至上主義の友人に感化され(今で言う過激なヴィーガンに近いかも)、過剰なまでの食事制限や節制を夫に強いるようになる。添加物は当たり前、ジャンクな食べ物を愛する夫からすれば、それは苦痛に満ちた結婚生活だった。これまで受けた仕打ちに業を煮やした夫は、基子に仕返しすることを考える。
……しかし、彼が考案した仕返しは残念ながら失敗に終わる。愛しさ余って憎さ百倍、その復讐からとうとう妻の殺害を考えて実行に移さんとする夫だったが、この話は全てにおいて妻の方が一枚上手だ。結果的には、彼一人が苦渋を舐める羽目になっていて笑ってしまう。知らず知らずのうちに自分の酒に仕込まれた強烈な下剤によって、耐え難い便意に襲われて殺害計画を阻まれるなんてオチ、面白すぎないか?深夜にひとり、公衆便所で終わりない腹痛と便意と戦わなければならなくなった彼を思うとより笑いが込み上げてくる。悪いことはしようとするもんじゃないな〜。続きを読む投稿日:2024.02.09
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