ヤマケイ文庫 アラインゲンガー 単独行者 新・加藤文太郎伝上
谷 甲州(著)
/山と溪谷社
作品情報
構想35年。ヒマラヤ登山の経験を持つ作家・谷甲州が、史実を基に伝説の登山家・加藤文太郎を描ききった長編山岳小説の上巻。
雪山登山がまだ一般的でなかった昭和初期の時代に、案内人も雇わず、ただ独り雪の北アルプスを駆け抜けて風雪の北鎌尾根に消えてしまった加藤文太郎の生涯がリアルに浮かび上がる。
加藤の遺稿集『単独行』を徹底的に分析し、独自の解釈によって生み出された文太郎像は、新田次郎の『孤高の人』とはちがったキャラクター設定となっていて興味深い。
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商品情報
- 著者
- 谷 甲州
- ジャンル
- スポーツ・アウトドア - 登山
- 出版社
- 山と溪谷社
- 書籍発売日
- 2013.05.01
- Reader Store発売日
- 2015.07.24
- ファイルサイズ
- 2.4MB
- ページ数
- 408ページ
- シリーズ情報
- 既刊2巻
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この作品のレビュー
平均 4.2 (6件のレビュー)
-
新たな加藤文太郎像を描ききった労作です
私的体験を交えた長い感想ですが、ご容赦ください。
出張でバス時間待ちの間に、モンベルの書籍コーナーに立ち寄ったとき、この本を見つけました。こんな書籍があったことを全く知りませんでした。おそらく、加…藤文太郎を知っている人は、0.4秒未満で反応するのではないでしょうか。恥ずかしながら、この著者を知りませんでした。この書籍を語るとき、自著の「単独行」はもちろんとして、「孤高の人」を避けて通ることはできないでしょう。
40年前になります。(センター試験はおろか、共通一次の前年です)入試を終えた日に、何か厚い本を読みたいと、手に取ったのが新田次郎の「孤高の人」でした。銀色表紙に槍ヶ岳の画がある単行本です。感じるところは色々あったけど、読み終えた後、高校に引き続き大学でワンゲルに入るきっかけとなった本でした。本友だちに紹介すると、いつもは好反応が戻ってくるのにこの本に限っては「加藤文太郎が良い人に描き過ぎられている」と。確かにそうです。新田次郎の多くの長編小説(特に故人)では、主人公を破滅に追いやるキャラクターが存在しています。たとえば「八甲田山死の彷徨」の山田(山口)大佐、「武田勝頼」の穴山真君など。これはストーリーとしては読みやすいのですが、物語の掘り下げを妨げる気がしてなりませんでした。この作品では上司の景山(これは「単独行」で別の上司である遠山氏が謝辞を述べています)であり、宮村健(吉田富久)です。特に宮村を「悪者」に祭りあげている違和感が特に強いです。だから架空名にしたのでしょうが。
その経験を経て、本書を読みました。冒頭に、遭難する北鎌尾根に向かったこと、次章に兵庫の里歩きがありますが、何とも冗長なで、「いつ終わるの」とフラストレーションがたまり、かなり苦痛でした。その後読み進めて、「単独行」の記載になじみのところが出てきますが、そこでも登山「計画」とはほど遠い、日程もコースもその瞬間瞬間で行動を変更する文太郎の描写がありました。私は基本、山行では計画に忠実に行動する(平地の旅行ではむちゃくちゃ行き当たりばったりですが)タイプなので、このような描写は結構不快に感じました。とりわけ、パーティーのメンバーが文太郎を疫病神呼ばわりしていた描出には少なからずショックを受けました。これこそが著者の掌の内にあったのでしょうが。
この作品は、ほぼ徹底して加藤文太郎の山中での描写に尽きています。仕事とか、浜坂の家族とか、家庭とかはわずかに描かれているのみです。ただ、この点に関して不満はなく、本当に登山家としての加藤文太郎を描ききったと思います。この点が、新聞連載で山場を設けなければならなかった「孤高の人」との大きな違いでしょう。
またこの違いは、多分、文太郎の家族や知人に、著者が逢うことができたかどうかが影響しているのではないでしょうか。奥様の花子氏は、新田次郎のインタビューを受けて、是非実名での小説化を希望されておられたし、私が最初に浜坂の文太郎の墓に訪れた70年代後半では花子氏の名が赤く塗られていた、おそらくはご存命であったのでしょう。その中で新田次郎は、加藤文太郎を描くうえで何か制約を感じたかもしれません。
その一方、この作品は、おそらくそのような背景はなく、文献を読み解いて、その上で加藤文太郎像を構築していったのではないかと思われます。また、吉田富久像も、新田次郎での描出と比較してしっくりきます。もちろん小説の中ですが。その意味では、本当にすばらしい作品と思い至りました。
最終章の高取山で、竹橋が出てくるのはいささか違和感があったのですが、「孤高の人」の冒頭にリンクすると思い至ったときには、著者の、加藤文太郎とその知人、そして新田次郎に対する尊敬の念を感じ取ることができました。
蛇足ですが、北鎌尾根から滑落した先は、天上沢と千丈沢、「孤高の人」と本書とでは全く異なります。真実はわからないのでしょうが、本書では千丈沢側に滑落痕があったという捜索隊の報告をもとに、千丈沢に滑落し、千天出合を経て吊り橋に向かったとしています。なら、吉田氏が加藤氏よりも天井沢上流側で見つかったことが説明できない。わざわざ出合から吊り橋を越えて天井沢に向かうでしょうか。水俣乗越に向かう? あり得ない。この小説の中での記述は異和感を感じました。おぼろげな記憶ですが、確か昭和30年代に作られた文富ケルンは天井沢に作られたはずです。
続きを読む投稿日:2017.04.09
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新田次郎の孤高の人とは違い山の描写が詳細に書かれていて凄い。
また加藤文太郎の心情が描かれているが、それが堪らなく面白い。上下巻一気に読んだ。投稿日:2021.05.16
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