悪者見参 ユーゴスラビアサッカー戦記
木村元彦(著)
/集英社文庫
作品情報
「世界の悪者」にされNATOの空爆にさらされたユーゴ。ストイコビッチに魅せられた著者が旧ユーゴ全土を歩き、砲撃に身を翻し、劣化ウラン弾の放射能を浴びながらサッカー人脈を駆使して複雑極まるこの地域に住む人々の今を、捉え、感じ、聞き出す。特定の民族側に肩入れすることなく、見たものだけを書き綴る。「絶対的な悪者は生まれない。絶対的な悪者は作られるのだ」。(解説・田中一生)
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商品情報
- シリーズ
- 悪者見参 ユーゴスラビアサッカー戦記
- 著者
- 木村元彦
- ジャンル
- スポーツ・アウトドア - スポーツ
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文庫
- 書籍発売日
- 2001.06.25
- Reader Store発売日
- 2015.03.13
- ファイルサイズ
- 6.2MB
- ページ数
- 448ページ
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この作品のレビュー
平均 4.3 (15件のレビュー)
-
われわれがさして関心がない事柄でも、マスコミの報道というのは知らずしらずのうちに耳にはいってくるもので、その点ではマスコミの力は大きい。
当時からテレビも新聞もあまり見ておらず、ユーゴスラビア紛争や…コソボ紛争に特に関心があるわけではなかったけれども、セルビアに関する悪評はなんとなく知っていた。民族浄化という名の下に恐ろしい虐殺を行っているらしいということを。
NATOによる爆撃が開始され、それまで加害者であったはずのセルビア人が急に被害者になり、一般的には正義の側と思われていたNATOがどうもそうでもないらしい気配がただよってきて、セルビア人のサッカー選手であるドラガン・ストイコビッチが、母国への爆撃中止を訴えるデモンストレーションをピッチ上で行ったとき、正直、どう反応していいのかわからなかった。
セルビア人=加害者側の民族 ストイコビッチ=サッカーのヒーロー
このふたつをうまく結びつけることができなかった。
といってもそれから急にユーゴ問題に関心が高まったというわけでもなく、ユーゴ紛争はユーゴ紛争であり、サッカーはサッカーであって、前者は後者に較べてあいかわらず興味を引く話題ではなかった。その点はいまでもそうである。ただしこの問題の理解が少しだけでも深まったとしたら、それはイビチャ・オシムとこの本の著書木村元彦氏のおかげである。
本書は、「サッカーを通じて世界を観る」という言葉がピッタリのレポートだ。
著者は、紛争の中心地である旧ユーゴスラビア各地でサッカーとサッカー選手を取材して回る。
憎悪が蔓延しているこの地域で、縁もゆかりもない日本人フリーライターが、場違いにもサッカーのインタビューをして歩こうというのだから、非常に馬鹿馬鹿しいシチュエーションというか、聞かれた方がビックリするだろうし、まかり間違えば相手を怒らせて殺されかねないだろう。実際著者はコソボの武装組織に銃口をつきつけられ地べたに這わされるという目にあっている。
ではこれは無責任な傍観者のレポートなのだろうか。
本人は真剣のつもりでも現地人にとってはた迷惑でしかない、一人よがりのジャーナリストによる勘違いレポートなのだろうか。
そうではない。ここでは、人々の生活の中に息づいているサッカーというポーツを通すことによって、戦争という異常な現象が生活の中にどう入り込んでいるのか、その姿をまざまさと浮かび上がらせている。戦争というものを知らないわれわれにも、サッカーという共通言語を通して、その過酷さと無慈悲さを知らしめる。国際政治の中の大言壮語ではなく、生活のレベルで、戦争のもたらす悲惨な風景を浮かび上がらせている。それは、著者のまっとうな視線と筆力のおかげであるが、サッカーという国際的でありかつ個人に親密なスポーツが持つ力のおかげでもあるだろう。
その中で、著者はセルビアが負う悪名の不当性と、クロアチアやNATOの悪辣さ――まあ、どっちもどっちといったところなんだろうが――を、遠慮がちに訴えている。その誠実さと公平性は信頼に足るものだ。
この本を読むことによって、われわれは、しらずしらずに染まっていた一方的なプロパガンタから逃れることができる。もちろんそのことによって私が何かができるというわけではない。けれども、そのことだけでも大きいことである。本書を読んだわれわれはもうストイコビッチに対して、あるいはセルビア人に対して、間違っても「この怪物め!」というような無知に基づく愚劣な言葉は吐かないだろう。日本の中で、そしてサッカーファンの中で、セルビア対する不当な偏見を中和するために果たした本書の役割はきわめて大きいと思う。
もしわが国が他の国々に較べてセルビア人に対する偏見が少しだけでも少ない国であるとしたら、それはおそらくこの著者のおかげだろう。私は本気でそう思う。
それにしても、こういうもろもろの苦しい事柄の中でも人は生きていかなければならない。
力づけてくれるものの一つとして、サッカーがあるのだろう。
サッカーをめぐる喜びと悲しみが、その役割を果たしているのだろう。
いや、そこまで断定したらいいすぎか。
サッカーにそんなものを求めてはいけないのかもしれない。
しかし、求めてはいけない、というきまりはないのも確かだ。
私自身は、そこまでサッカーに求めてはいない。
が、もちろん、そうであることを否定はしない。
それが幸せであるかどうか、それはまた別の問題としてある…
むむむ。
なにを言いのかわからなくなってきた。
ですから、これで終わりにしておきます。続きを読む投稿日:2017.11.18
この本は、著者・木村元彦によるユーゴ内紛のルポタージュである。
ピクシーことドラガン・ストイコビッチ選手の華麗なサッカーに魅了され、ユーゴスラビアサッカーを愛してやまない著者が
「サッカー」という…フィルターを通して、自らの目と耳と足で体験した当時のユーゴ情勢を
一般人の目線でそのまま書き綴っている。
なので、これまでレビューしてきた本(小説)とは根本的に趣が異なる為、点数による評価は控える事にした。
(何となく、小説と同じ土俵に乗せるべきではないと判断した為。小説とルポの上下関係だとか、そういう意味は全くない)
先にも述べたように、著者はユーゴスラビアという国をとても愛している。
が、ユーゴ内紛からNATOの空爆、そしてコソボでの独立運動に至るまでを
『セルビア側の視点』で書いている訳では無い。
見たまま、聞いたままを書き綴り、その上でセルビアが「不当に悪者にされている」としている。
つまり、『作られた悪者』だという。
セルビアはアメリカ及び西欧諸国連合により政治的に『悪者』とされたのだが、
実際に空爆が始まる前までは、ユーゴスラビアの地に住む人々はどの民族もそれなりに平和に生活してきたのだ。
サッカー選手も例外ではない。セルビア人もモンテネグロ人もアルバニア人もクロアチア人も、
同一のリーグで同一のチームで、仲間だったのだ。
そんな一般の人々が、政治的な決断により容赦なく分断され、空爆が開始された。
祖国から遠く離れた日本の地で活躍するユーゴスラビア出身のJリーガー達の気持ちを考えるだけでも、とても心が痛む。
日本という国はとても平和だ。
民族的な対立が皆無とは言わないが、少なくとも現在は、
このバルカン半島のような「武力行使」を伴う民族紛争が起こる程ではないだろう。
正直、この本を読むまでこの1990年以降のユーゴ内紛について、一般のニュースとしての意識しかなかった。
そしてこの本を読み終ったとき、その無知さ加減が恥ずかしくなった。
しかし、大半の日本人は自分と同様ではないかと推測する。
なぜなら、遠く離れた地で起きた想像のつかない内紛だから。
「だから日本人は平和ボケしているのだ」等という事をここで言うつもりは無い。
日本人であり、日本に住む限り、バルカン半島の民族意識を理解する事は非常に困難な事であろうから。
それでも、筆者のユーゴ愛とそのわかり易い文章のお陰で胸を痛める事ができた。
ピクシーの、マスロバルの、ペトロビッチの、そしてプラービィ(ユーゴ代表)の気持ちが少しだけわかった気がした。
彼らはどんな困難な状況でも、ユーモアを忘れない。そして心に「イナット(意地)」を秘めている。
セルビア人のイナット。それを思うだけでも胸が熱くなる。
ここまで心を揺さ振られた本は久しぶりである。サッカー好きならば是非読んで欲しい一冊だ。
サッカー好きではなくても、ユーゴの内紛に少しでも興味があれば読むべきかもしれない。
ユーゴ内紛の真実の一面が見えてくる、とても意義深い本であろう。
続きを読む投稿日:2021.03.14
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