飢餓旅行
阿久悠(著)
/講談社文庫
作品情報
昭和21年が明けて間もなく、恩田幸吉(おんだこうきち)の一家は、勤務先の淡路島から彼の故郷である九州宮崎へ旅行した。戦死した長男の遺骨を故郷の寺へ納めたいというのが幸吉の強い希望であった。妻、次男、三男、末娘と、総勢5人の家族旅行は、この時代においては無謀とも思えたが、幸吉はなぜかこだわった。戦後日本の家族の絆。涙と笑い、愛と感動の抒情紀行。
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商品情報
- シリーズ
- 飢餓旅行
- 著者
- 阿久悠
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社文庫
- 書籍発売日
- 1993.11.04
- Reader Store発売日
- 2022.06.03
- ファイルサイズ
- 0.7MB
- ページ数
- 264ページ
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この作品のレビュー
平均 3.0 (1件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
舞台は敗戦直後の日本。
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戦死した長男の遺骨を、両親の故郷にある墓に納めるため、淡路島から九州に渡る恩田一家の物語。
戦後の混乱によって大幅に計画が狂わされるなか、恩田一家は家族の絆を見出していく。
題名に「飢餓」とありますが、葉っぱ一枚や薩摩芋一欠で一日を凌ぐといった、いわゆる餓死系の描写はほとんどありません。
もちろん、戦時戦後の貧しい食事場面は出てきますが、それよりも戦後復興を彷彿とさせる豪華な食事場面(ほとんど闇市の商品ですが)に見所が集中しています。まあこの小説自体が、戦争に負けた日本に於ける新しい価値観の萌芽を主題としているようですので。
私がこの小説を読んで一番感じたことは、「本当の飢餓とは、程度はどうあれ何らかの欲求を持ちながらも、具体的に何を欲すべきか分からない状態である」ということです。
例えば「猛烈に寿司が食べたい」というのは、「猛烈にお腹が空いている」状態だとしてもただの「飢え」なんです。自分が具体的に何を欲しているのか分かっているから、寿司屋へ行くなり、寿司の写真を眺めたり、刺身と米を用意して自分で握るなり、握れないなら代わりに海鮮丼をつくるなり、対処法はいくらでもあります。
でも、「美味しいものがたべたい」という場合、その人は「これだ!」と思うものが見つかるまで、たとえ適当に何かをかきこんで空腹を満たしたとしても、欲求は満たされないんです。欲求を満たすためには、存在するのかも分からないものを、漠然と思い描きながら探し回るしかない。これが「飢餓」なんです。「何となく美味しいものが食べたい」でも、「猛烈に美味しいものが食べたい」でも、「飢餓」であることは同じです。どちらも「猛烈にお腹が空いて寿司が食べたい」人よりは、欲求が満たされにくい。
んで、この小説に出てくる圭太という少年は、この「美味しいものが食べたい」という状態なんですね。彼自身はひもじい思いをしているわけではないんですけれど、美味しいものが食べたいのに、食べたいものが思いつかない、と書かれている場面があるんです。物心がついた頃には戦争が始まっていたから、戦時中の食事しか知らないんですよね。だから私は、圭太とその両親が食べているものは一緒でも、「飢え」の度合いは随分違うんじゃないのかなあ、と思ったわけです。
欲求があるのはわかるのに、具体的にその内容が分からないというのは、現代でも珍しいことじゃないですよね。「自分さがし」なんかもその一種じゃないでしょうかね、最近聞かないけど。
あとも一つ気になったのが、圭太が饅頭を食べるのを拒んだり、圭太の父親が闇の酒を飲むのを渋ったりと、戦時中に無かった食物の飲み食いを渋る場面が多かったこと。
「食の禁忌」というのもよく話題になりますけど、これもその一種なんですかね。甘い饅頭や美味い酒を飲食することが、贅沢をいましめてきた日本への裏切り、今までの日本人を捨てて得体の知れない新しい日本人に変わってしまう、みたいに。イヴの林檎と同じですね。投稿日:2012.02.08
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