文学部の逆襲 ──人文知が紡ぎ出す人類の「大きな物語」
波頭亮(著者)
/ちくま新書
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近代社会を形作ってきた資本主義と民主主義は、もはや我々に豊かさも希望も与えてくれない。これらを刷新し、AIが拓く新しい時代を迎えようとする今、社会はどのように構築され、人はどのように幸せな人生を生きるのか。その答えとなる「大きな物語」こそが、世の中を新しい時代に向けて動かし始める。今こそ、哲学や美学、歴史や芸術といった人文の知性が時代を進める、栄えある役割を担う時である。文学部の逆襲を待望する。
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この作品のレビュー
平均 3.2 (14件のレビュー)
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四章の構成がそのまま起承転結になっている。
1.新自由主義経済によって格差は拡大の一途にあり大多数は貧しくなっている
2.暴走する資本による買収で民主主義も民意を反映していない
3.AIの発達は失業…の危機をはらむ一方、人間を労働から解放する可能性をもつ
4.人間にとって物語は必需であり、AI化時代に適合した新たな物語を紡ぐために人文学の力が求められる
前半部、新自由主義経済がほとんどの人びとを貧困に陥れ、民主主義も機能不全をおこしているという現代の負の側面の説明に説得力を感じた。最近この手の本を読む機会が多くて新しさはなかったが、よくまとまっている。第三章もAIによる失業問題への懸念までは前半部にある悲観的な現状認識の延長にあたり、これも頷ける。続いての、AIが生産と消費を分離し人の生活が一気に豊かになる可能性があるという予測については、ここまでのネガティブな論調にくらべると裏付けにも乏しく強引にも思えるけれど、流れとしては不自然ではない。
ここで終われば、行き過ぎた資本主義によって窮地に陥った人類をAIが救うというストーリーで納得できる。ただ、書名の由来にもなっている締めくくりの終章への接続がいまひとつ腑に落ちなかった。物語の普遍性や、人間が世界と自身を認知し、社会を動かすために物語が必要だという話には頷けるし、文学部をはじめとする人文系の学問を縮小・廃止せよという動きに反対する考えにも同意だ。しかし上記の第三章までの展開のあとに「文学部の逆襲」が据えられていることに、木に竹をつぐような違和感を覚えた。そのためか、結末部にある政府の人文系への冷遇にたいする憤りもややヒステリックに感じてしまった。第三章までの展開と第四章は違う場所で語られるべきだったのではないだろうか。続きを読む投稿日:2021.10.13
資本主義と民主主義は、もう豊かさも希望ももたらさない。幸せな人生を生きるには、新しい時代を切り拓かねばならない。そのために必要なのは、「大きな物語」と解く書籍。
現在の新自由主義経済の下では、大多数…の人々が豊かさを得られていない。それを是正すべき政治も資本によって買収されており、民主主義は機能不全に陥っている。
今の閉塞状況を打開する可能性があるのが、AI(人工知能)である。しかしAIは生産性を高めるが、その業務に携わる人間の職を奪う。そしてAIは人間の知的業務を代替するため、失業者は行き場がない「構造的失業」となる可能性が高い。
一方、AIによる生産性の向上は、格差などの問題を解消する可能性も持つ。消費活動をしないAIが産出する富を人間に再分配すれば、労働は人間にとって必須の営みではなくなる。そしてAI時代は、少数の「経済的強者」が総取りできなくなる。
「物語」は我々の生活や社会の仕組みを規定する。人の心を動かす物語には、「主人公が冒険の旅に出る→敵や難題に遭遇→これらに打ち勝つ→日常の世界に戻る」という共通パターンがある。古今東西、人は同じ物語に共感する。
ある時代の人々が共有する、あるべき世の中の姿を含意した物語を「大きな物語」という。資本主義など、現代の大きな物語は機能不全に陥っているが、AI化時代に適合した新しい大きな物語が人々に共有されれば、人類は新しい時代へ進める。
AIの活用と、再分配の仕組みが実現すれば、富の量や金を稼ぐ能力の価値は一気に低下する。労働から解放された人類が迎える新しい世界は、遊びによる文化と交流を楽しむ世の中であり、人間がより人間らしく生きる世界である。続きを読む投稿日:2023.04.06
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