この作品のレビュー
平均 5.0 (1件のレビュー)
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本能寺三部作で私も愛読しています、加藤廣氏により書かれた本で、終戦直後の昭和時代を彼がどのように生きたのか、その当時の様子をどのように見ていたのかが書かれている本です。
昭和5年生まれで、私の父より…4歳年上です。終戦時が15歳で、もう少し年上だったら召集されている可能性もあり、当時の様子を、生活していくために考え方を180度転換せざるを得なかった大人の視点ではなく、状況の把握できていなかった子供の視点でもない、本当に何が起きていたのかが書かれた、私にとってはとても貴重な本でした。
文中に、当時の為替レートや、給料の額、食料品などの価格がでてきて、昔の貨幣価値が分かったのは興味深かったです。また加藤氏の経歴は、最後は山一證券だったようですが、それ以前には、以前勉強したときに知ることとなった、中小企業金融公庫に勤務していたようで、いまでは大企業ですが、当時中小企業だった会社が発展してきたのを見届けてきた貴重な方ですね。
大空襲で家が焼けるまでは、ある程度裕福な暮らしをしていた加藤氏の家族が、大空襲により一夜でほとんど全てを失って、どのように生きてきたのかが書かれています。それを読むと、今の時代も色々と問題はありますが、やはり幸福な時代なのだなと思います。住むところがあり、食べたいものが食べがれる時代に感謝しなければと改めて思うと共に、戦後苦しい時代を生き抜いてきた両親に改めて頭が下がりました。
以下は気になったポイントです。
・昭和10年代の未成年の殺人事件は、年間100件程度。これが昭和30年代になると400件、近年は急降下を続けて100件を下回る(p19)
・昭和16年12月8日、「これで胸のつかえが、すっと下りましたよ」、巷ではそんな喜びの声に満ち溢れていた。16世紀に始まった白人のアジア侵略とその横暴を、日本人は我慢に我慢を重ねてみてきた。明治以後は、自らも海外移民の経験によって人種差別のひどさを味わってきた(p28)
・アメリカから準備金(ゴールド=600トン)を使ってアメリカから密かに、クズ鉄と石油を買ってため込んでいた。その備蓄金がついたところで、ハルノートを突き付けた。これは、秀頼と家康の関係と同じ(p29)
・B29は高度一万メートルなので、日本の戦闘機は上昇できない、高射砲の弾も5,6千メートル程度だが、雲の多い夜間だけは、低く飛ぶ(p54)
・8月14日まで、鬼畜米英等と叫んでいた日本人が、敗戦とともに同じ日本人かと思うくらい変身して、一億総ざんげ・デモクラシーなどと言い出した(p76)
・遺産であった貯金は、戦後インフレにより、百分の一から二百分の一に価値を減じた、戦前の円ドルルートは、1ドル=2円から4円、これが実勢で、400-500円となり、後に360円で統一された。強制的に買わされた戦時国債は無価値になっていた(p82)
・戦前の大卒サラリーマンの初任給は、帝大卒で100円、私立は70-80円であったが、昭和23年ころは、3000円レベルになっていた(p87)
・進学ジャンプ制度は、新制中学と高校ではできなくなった、4年生になると6か月毎に5年生と一緒になって模擬試験を受けられたので、四年修了時点で、受験できる仕組みであった。日本の高校一年修了でアメリカのハイスクールに留学して成績優秀なら卒業免状(ディプロマ)がもらえて日本に帰国して受験できる制度がある(p93)
・イカは海の上に墨を吐いて水中でカラスを待つ、カラスが下りてくるとイカが水中に引き込んで食べてしまうので、カラスの賊、イカ=烏賊となる(p110)
・読書で印象に残っているものは、雨月物語(上田秋成)、三四郎(夏目漱石)、藪の中、永井荷風等、カラマーゾフの兄弟(p116)
・ルーズベルト大統領下で、ニューディール政策に携わり、一時は成功したのものの、のちに追放を喰らった若き改革派が、日本で実験をしようとした。これは、日本の左翼学生が日本で受け入れられずに満州に渡り、満鉄調査部から発信したように(p120)
・モノづくりは奴隷に任せておいて、高貴な貴族が手を汚してまですることではなかった。物を作ることは、この社会を一番汚すもと、だから。欧州でも、18世紀までは殆どの国の男は、ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)であった。そのころまでの、男は、戦争や冒険でもしない限り、日がな一日、化粧して着飾って遊んでいた。反対に女性たちは、上から下まで黒ずくめの地味な洋服を身にまとい、朝から晩まで仕事(育児、家事、裁縫、洗濯など)をしていた(p142)
・この数百年の間に人間の生き方だけが、自然界の動物と違って男女あべこべになってしまったのは、産業革命以降、モノづくりみたいなことに熱中して、人生を楽しむことを放棄したから(p142)
・朝鮮戦争にて、アメリカ軍が38度線まで押し戻せたのは、仁川までアメリカの武器弾薬、そして食糧を運び入れた日本の漁船団(総数700隻)の功績であった、つまり日本の集団的自衛権はすでに実証すみ(p147)
・共同相続とは、もともと牧畜社会の知恵、1万頭の羊を長子だけに相続させれば、増え続ける羊が牧草を根絶やしてしまうから、兄弟が等分して違った方向に別れて暮らす方が、牧草と羊を守る知恵であった(p148)
・物事には、よかれと思ってしたこと(相生)が、可もなく不可もない状態(比和)となり、やがてはマイナス要因(相克)となるという原理がある(p148)
・戦後の花形産業は、黒と白、であった。黒は石炭、白はセメント、砂糖、製粉(p160)
・厳しい選抜が定番の帝大エリート教育のため、大正7年までは、帝大の在校生だけが「学生」と呼ばれ、「生徒」と呼ばれるほかの大学生とは区別された。その卒業生のみが、学士と呼ばれた。ほかの場合は、早稲田大学政治学士と称された(p172)
・時価発行増資が頻繁であり、無償交付も多くされた。この言葉は、のちに株式分割というアメリカ流の言葉となった(p177)
・英国が戦争末期にドイツからの海と空からの猛攻で降伏寸前であったが、それでも英国を見限らず資金援助を続けて、決死の覚悟でアメリカから物資を運んでくれたのは、ユダヤ系の商船のみ(p242)
・ユダヤ人国家の建設をルーズベルトは反対したが、あっけなく病死し、後を引き継いだトルーマンは根っからユダヤ派だったので、ユダヤ人建国の話は進んだ(p243)
・平成の年号は、最初の「大化」から数えて、247番目となる。これまで年号に用いられてきた文字は、72字。1回だけの使用文字が30字、なので40字くらいが何度も繰り返して使われてきた、水:29、天&元:27、治:21、応:20がベスト5(p263)
・エネルギーと農業問題を考えると、日米安全保障条約の必要性は、いま、日本側で高まりこそすれ、アメリカ側では低下している(p270)
・日本が支那を尊敬していた期間は2000年、軽蔑した期間は、明治から昭和20年までの80年間である(p272)
・特定秘密保護法の成立以来、国民全体が、政府・産業界に正面から異を唱えることを控えるようになった、自主規制という言葉がその傾向を如実に表している。さらに、異次元金融緩和政策(日銀の放漫な国債買い入れ)は、昭和11年以降、軍部のいいなりに国債を引きうけて国家破滅を導いた流れとそっくり(p282)
2017年1月15日作成続きを読む投稿日:2017.01.15
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