日本陸海軍はロジスティクスをなぜ軽視したのか
谷光太郎(著)
/パンダ・パブリッシング
作品情報
■ロジスティクスの視点から、日本陸海軍がどう戦略を間違えたか、なぜ間違えざるを得なかったのかを再検証する1冊。
■目次
第一章 異質機能の統合
“太平洋戦争中、大西瀧治郎海軍中将は「海軍は全力をあげて陸軍と戦い、余力でもって米軍と戦っている」と嘆いた。”
ロジスティクスが上手く機能しなかった要因の一つに、陸海軍の縦割りで、協力し合えなかった点が挙げられる。
ただ、陸海軍の仲が悪いことはアメリカ軍も同様で、珍しいことではなかった。
アメリカ軍の統合参謀本部のような陸海軍を統括する組織は、日本のほうがアメリカより先につくられていたのに、なぜ機能させることができなかったのか。アメリカとの比較から再考する。
第二章 新しい概念の創造
“鉄道という新しいテクノロジーの潜在力に着目し、鉄道運輸という概念から従来の戦略を考え直したのが、プロイセンのモルトケだった。彼は鉄道を参謀本部の管轄下におき、陸軍大学校の最優秀卒業者を鉄道関連の参謀将校に任命した。”
シベリア鉄道の運行状況で何ヶ月後にロシア・ソ連軍が侵攻してくるかがわかるものだという。
近現代は、馬・馬車から鉄道や蒸気船、自動車、飛行機へと輸送手段が変わった時代だったが、それらの新方式によって、兵站はどのように変わったか。
また、各国はそれぞれにどのように対応したかを見ていく。
第三章 戦略の正誤
“戦術のまずさは戦略で補うことはできるが、戦略の誤りを戦術によって正すことはできない。”
太平洋戦争(第二次世界大戦)は戦闘機や空母機動部隊の戦いだったといわれるが、じつは潜水艦の戦いこそが勝負をわけている。
ロジスティクスの視点から、ドイツ軍も含めて、日本陸海軍がどう戦略を間違えたか、なぜ間違えざるを得なかったのかを検証する。
第四章 ロジスティクス事例研究
“鉄道や船舶の輸送量や速度、飛行機の燃料使用料などは観念論で変えられるものではない。
情報参謀や後方参謀の提出するデータをもとに軍の運用(作戦)は考えられるべきであったが、独断的な作戦参謀は自分の「願望」に基礎をおく傾向が強かった。”
果して陸海軍はロジスティクスを軽視していたのか?
ノモンハン事件からサイパン戦、ソ連の満州侵攻戦などの戦史をもとに戦闘ごとに再検証していく。
■著者略歴
谷光 太郎(たにみつ・たろう)
1941年香川県に生まれる。1963年東北大学法学部卒業、三菱電機株式会社入社。1994年同社退社、山口大学経済学部教授。2004年、大阪成蹊大学現代経営情報学部教授。2011年同校退職。著書に、『海軍戦略家キングと太平洋戦争』『海軍戦略家 マハン』(共に中央公論新社)、『敗北の理由』(ダイヤモンド社)、『青色発光ダイオードは誰のものか』(日刊工業新聞社)、『米軍提督と太平洋戦争―世界最強海軍のルーツ』(学研パブリッシング)、訳書に『統合軍参謀マニュアル』(白桃書房)など多数。
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この作品のレビュー
平均 5.0 (1件のレビュー)
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精神論…
石原莞爾が最終戦争論を唱えて10年。ひいき目に見れば、日本陸軍も、日本海軍も必敗の戦いに臨み名誉の戦死を遂げることだけ考えていたのかもしれないとは思わないではないです。天皇家と市民の命運をそのような賭…博事に費やすことの是非はありますし、科学に賭ければ、仁科研究所が一定の成果を上げたかもしれません。ただ、この戦争ではどうも、明治維新からの政争が付きまとっており、正直、正気の戦いかどうか疑いたくなる時もあります。
とにかく、著者の議論は確定的で、ロジスティクス軽視、補給断裂の軽視があげられます。補給は確かに、直の戦争抜きで戦力を削減できるわけで、これは、効力さえ知っていれば誰でも迷わず採用するものです。
ただ、明治以降、西洋の騎士文化の側面と東洋の神秘としておだて挙げられた日露戦争の果ての結果であることは押さえておいた方がよいでしょう。
この時代の狂気にはいくらでも言いたいことがあります。
まず、国家神道であり、次に秋丸機関であり、次にマーストリヒト条約後にドイツと結んだことでしょう。
欧州情勢が奇々怪々だった以上仕方のないことですが、国民党政府を相手とせずという発言にもわかる通り、日本の行動も奇々怪々で日本政府相手とせずと言いたくなるのはわからないような気がしないではないです。
著書に出てくるように陸大出身者ではなければ出世できないというのは平時にはおそらく良い制度なのでしょうが、いかんせん軍隊は非常時のものです。武士は在中戦場とはいいますが、近代戦では正気ではない選択なのでしょう。
精神論で有名な辻政信の話が載っています。
”戦争とは負けたと思ったときに負けたのだ”
一体、日本はいつ戦争に負けたのでしょうか?
戦争については来年戦後75周年を迎えますが、その源となったものを見つめ反省すべきでしょう。
星は5つ。続きを読む投稿日:2019.05.07
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