巨船ベラス・レトラス
筒井康隆(著)
/文春文庫
作品情報
『大いなる助走』から四半世紀、巨匠・筒井康隆が再び文壇の内幕を鋭く描く! パソコンソフト会社で成功を収めた狭山銀次が創刊した、前衛的な文芸誌「ベラス・レトラス」。破格の原稿料に釣られ、常連執筆者となった作家たち。実験的な作風で知られる錣山兼光、ホラー小説の旗手・伊川谷幻麝、盲目の詩人・七尾霊兆、革新的な作品で派手に登場した笹川卯三郎……。そうした作家たちの成功を妬む同人誌作家が爆弾テロを起こすところから物語は始まる。小説世界の内と外は自在につながり、過激なメタフィクションが展開、ついには「筒井康隆」を名乗る人物が語り始める。現代の文学を取り巻く状況を風刺する、ブラックユーモアに満ちた快作。
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商品情報
- シリーズ
- 巨船ベラス・レトラス
- 著者
- 筒井康隆
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春文庫
- 書籍発売日
- 2013.11.10
- Reader Store発売日
- 2014.02.07
- ファイルサイズ
- 0.2MB
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この作品のレビュー
平均 4.3 (6件のレビュー)
-
文壇をテーマにした小説らしいということで読み出したがすでにそうしたものには『大いなる助走』がある。うろ覚えで恐縮だが新進作家が文壇の俗物どもにいいようにされて最後にぶち切れて文壇皆殺しをはじめるとい…った話でなかったか。筒井康隆ともあろう者が同じようなものを書くとも思えぬ。と読み出してみると似たエピソードが導入となっている。つまり私小説を書いている同人誌作家が文壇の前衛作家を狙って爆弾事件を起こすというのが冒頭。しかし本書のテーマは「文壇」ではなく「文学」なのだ。
そこで書評の導入もこんな風に路線変更。
私は週に1回だが、少々遠方に仕事に行っている。これまで自家用車で行っていたが、諸般の事情で電車にかえた。すると片道1時間ばかり読書時間が確保できてとても嬉しい。車中読書をしながらふと視線をあげると覚醒している乗客の多くがスマホをいじっているというお馴染みの情景がある。それでも1車両にひとりやふたりは自分の他にも本を開いている人がいる。絶滅危惧種なのかも知れないが少しほっとする。これはそんな時代の「文学」に関するメタフィクションなのである。
登場人物はいずれも実験的な姿勢をもった作家たち。登場するのはベテランの前衛作家、新進の実験的作家、ホラーを脱臼させた実験的作風で支持を集める作家、同様に推理小説でそれをやっている作家、前衛詩の大御所(彼は盲である)、その弟子でジュヴナイル小説で売れ出した作家など。三人称だが視点はどんどん変わる。
「ベラス・レトラス」とは文学青年だったパソコン・ソフト会社社長が創刊した実験的文学の専門誌で、スペイン語で「純文学」の意である(ただし本書では「純文学」「大衆小説」という分類は取らない。実験的な小説とエンターテインメントと記されている)。破格の原稿料で登場する多くの作家が寄稿しているが、みなそこに書いた作品は実験的であるというだけで碌でもないものだと思っている。
ここをフィクション第1層としよう。
登場人物たる小説家の作品自体も地の文に続けて「引用」されているのでこれをフィクション第2層としよう。フィクション内のフィクションだからである。
さて、フィクション第1層の登場人物たち、つまり実験的作家たちはふと気がつくと、船に揺られているような感覚を覚え、やがて実際に巨船ベラス・レトラスに乗っていることに気づく。しかしまたふと気づくと現実(すなわちフィクション第1層)に戻っている。こんな往復を続けながら話が進むが、巨船ベラス・レトラスには自分が書いた小説の登場人物も乗船している。すなわちそこはメタフィクション層なのある。とすれば当然、フィクション第0層のあの人も登場するはずではないか。
巨船ベラス・レトラスは文学界の象徴である。批評家たちの集う空中楼閣があとを監視するようにつけてきており、航路にはテレビ島やインターネット島も見え、船主はそんなところに寄るななどと言っているが、ややっ、ここはインターネット島ではないか。
昔は同人誌作家が大変な読書量を誇り文学界を下支えしてきたが、いまや彼らは他の人の作品を読まずデビューした作家をやっかむばかりである。かつてはエンターテインメント作家も文学的な教養を豊かに持ち、あわよくば実験的小説にも手を出そうとしてそれがエンタメ小説の面白味を支えていたのに出版社も作家もとりあえず売れればと言う姿勢でいるために却って小説がつまらなくなって売れなくなっている。などと当時人物たちが議論を展開する。あるいは差別表現の問題。言葉を憎むと差別をする人を憎むのではなくなってしまう。文学者としては「目が亡くなる」という言葉を大事にするべきだ。いまやネットなどを中心にただ批判するだけの人が増えてしまった。登場人物の作家のひとりは9.11多発テロ事件への論評で世間のバッシングを受けている。ならばその主張を小説にしてしまおう。登場人物の主張する意見ならばそれがすぐに作家の意見といえるわけではなく批判しにくいだろう。というのを筒井康隆はこの小説でやっているのだ。
筒井康隆すなわちフィクション第0層のあの人が作品世界に登場するところがクライマックスである。ベラス・レトラスに降臨した彼が長々と述べるのは実際に彼が体験した出来事である。まあ文学に関わっているといえば関わっているがそこまでの話と直接関わってるわけではない唐突さ。それは北宋社なる出版社が彼の著作権を侵害した事件であって唖然とするような話で面白いことこの上ない。が、日常の些事を事細かに語るのだからこれは筒井の私小説である。なぜかここ、すごく盛りあがる。
されば巨船ベラス・レトラス、どこへ行く。といった小説なのであるが不思議にも感動する。感動のあまり俺も文学を書くぞと奮起してしまいそうな小説である。続きを読む投稿日:2016.02.15
時間と空間が交錯するメタフィクションで現代の文学界を暴く怪作、昔に比べるとスピード感が乏しいの年齢的に仕方がないか。。。
投稿日:2019.08.19
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