ynpyさんのレビュー
参考にされた数
17
このユーザーのレビュー
-
聖の青春
大崎善生 / 角川文庫
将棋が解らないので中途半端なレビューかもしれませんが。
9
恥ずかしながら将棋のことは全く知らないので最初は買うのを躊躇っていたのですが、読み始めたら一気に読んでしまいました。
人間は悲しみ、苦しむために生まれた。
それが人間の宿命であり、幸…せだ。
僕は死んでも、
もう一度人間に生まれたい。
村山聖氏22才の頃に書いたものらしい。この言葉を20代の若さで書くようになるまで、どんな人生を送って来たのか。大崎氏はどちらかと言えば淡々と書いていて、見たまま、感じたまま、聞いたままに描写している。その抑えた筆致の中に最後の最後まで将棋を打つことを諦めず、生きるために壮絶に闘い抜いた村山聖という人間に対する敬意と普段の生活の人懐こい村山君に対する愛情が感じられる。
師匠との交流が物凄く良い。羽生善治との交流の様子も良い。ご両親の訳もわからず振り回されながら懸命に息子を支える姿も子を思う親の気持ちとして共感できる。勝負師として厳しい面とたくさんの人に愛された村山聖という人間の魅力が本書からたくさん伝わってくる。
多分、将棋が解ったならもっと村山聖氏の凄味がわかるんだろうなぁと思い、ちょっと悔しい気持ちはあるけれど読んで良かった。
続きを読む投稿日:2016.11.05
-
絶対読むべき名作 風立ちぬ
堀辰雄 / ゴマブックス
翻訳小説のような感じ
2
約80年前の出来事なんですよね。堀辰雄が経験したことを基に書いたものです。甘い恋愛物の闘病記とは違ってもっと生きることに切羽つまったものを感じる時代の生死について書かれています。
この本は堀辰雄が書い…た文章を翻訳のように書き直したものです。
その雰囲気とか空気のようなものを上手に伝えているなあと思いますが、これを読んで良いなと思ったら原文も読んでみて欲しいです。
このあと、立原道造という詩人の死後彼をモデルにした菜穂子という
小説も書いています。確か映画の「風立ちぬ」の方はこの名前を使っていたようですね。恐らく、宮崎監督は両方のイメージを使っている
のだと思いますのでこちらも出来たら読んでみてください。
たった80年と思うかはるか遠い時代と思うかは読み手次第だと思いますが、いつの時代も変わらない人を思う気持ちの美しさを感じて欲しいなあとたった80年と思うおばちゃんは願っております。
続きを読む投稿日:2015.05.31
-
ある華族の昭和史 上流社会の明暗を見た女の記録
酒井美意子 / 講談社文庫
軽妙で読みやすい自伝
2
今となっては想像もつかないけれど、戦前の日本には身分制度があってその時代の本物のお姫様のお話です。加賀百万石の姫君が白鷺城主の奥方へやがて平民になっていくのですが、どの時代もしなやかに強かに生きていく…酒井さんの姿は痛快です。
梨本宮伊都子妃殿下の日記は日記という形式上堅苦しい感じがしますが、酒井さんの文章は軽妙で読みやすいです。
皇室が最も皇室らしかったと言われていた時代を子供の目を通して書いてあって、同級生でいらした照宮様とのご交流の様子や様々な行事の様子が書かれていて面白かった。
鍋島家の朗子(酒井さんの祖母)、梨本宮伊都子妃、松平信子の姉妹を三女傑と書かれているが、酒井さんも女傑の血を充分継いでいるかなと思います。
出来たら、多部未華子でドラマ化して欲しいなあと思ってしまいました。
続きを読む投稿日:2015.08.15
-
慟哭 小説・林郁夫裁判
佐木隆三 / 講談社文庫
罪を憎んで人を憎まず
2
一気に読了しました。当時、新聞や雑誌等でおおよそのことは知っていましたが、本書を読むと何が起きていたのかが良くわかります。
前半は逮捕されてから警察官の取り調べに徐々に心を開いて行き、様々な葛藤を経て…「私がサリンを撒きました。」と告白するまでが書かれている。
後半は自身の或いは他の被告の裁判の中での証言を通して、自分の知りうることを全て明らかにする事が被害者に対する贖罪であると懸命に時には嗚咽しながら証言をする姿が書かれている。その林被告の真摯な姿勢に最初は「極刑を強く望みます。」と言っていた被害者遺族の方も極刑は「望めない。」「望まない。」と心を動かされて行く。これだけの裁判でありながら、ほとんど無報酬で引き受けた私選弁護人の支えと法廷戦術もあったけれども、サリン実行犯の中で唯一無期懲役に処せられたのはこういうことであったのかと理解ができた。
著者は足繁く法廷に通い傍聴をしていて、その時々の林被告の様子や法廷内の様子を書いていて、「私はやはり・・・生きていてはいけないと・・・おもいます。」と慟哭する場面、胸を衝かれて言葉もなく見つめる裁判官、検察官、弁護人、傍聴人とシンと静まり返る法廷の中に自分も居るように感じてしまう。
林被告はオウムによってあまりにも多くのものを失ってしまった。財産、地位、名誉、家族。それは「私は専門馬鹿だったんです。」と本人も言っている愚かさからのものではあるけれども、本来は非常に真面目で私欲のない人間だったように思われる。だから、極刑を覚悟して全てを語った。その姿勢に心をうたれると共に、元々の医師であったならどれ程のことが成されていたかと思うと残念で仕方がない。本来の自分を取り戻した今、この人は刑務所の中で何を思っているのだろう。
続きを読む投稿日:2016.08.15
-
北朝鮮に消えた友と私の物語
萩原遼 / 文春文庫
ひとつの歴史
1
中国の歴史は大まかなところはわかるけど朝鮮半島の歴史はよく分かっていなかったので、この本によって戦後の朝鮮半島について知ることができました。
日本の敗戦による解放から新しい国をつくるまでの苦しみ。同じ…民族同士の戦い。当時の世界情勢に翻弄されて個々の人間の思いとは違う方向に行かざるを得なかった悲しみが今も続いていることを思うと胸が痛みます。著者も自らの痛みと憤りを隠さず淡々と書いているので時として陰惨なところもさらっと読むことができます。
私の知っている方は終戦時兄は北、弟は南、ご本人は日本に分かれて住んでいて今もそのままです。今は兄弟は会うことができているようですし、ご兄弟のことはわかりませんがご本人は幸せに暮らしていらっしゃいます。戦後70年という長い時間の中で辛い時を乗り越えて
の今という事なんでしょうね。
著者はもっと言いたいこと書きたいことがあったのかなと思いますが、あの時代のひとつの歴史や空気を知ることができる本だと思います。
続きを読む投稿日:2015.08.15
-
漱石の妻
鳥越碧 / 講談社文庫
悪妻という良妻?
1
漱石と鴎外、鏡子としげ明治の文豪の妻はどちらも悪妻と呼ばれていた。
鴎外の妻は今に残る写真を見ても美人。時代を越えて今見ても美人。
几帳面で生真面目。娘の茉莉は言わないけど鴎外はずるいところがあって人…に断らせるときに妻に頼んだ。何せ生真面目な性分なのでにこりともせずにぶっきらぼうに断った。悪妻と評判がたった。
姑との折り合いが悪く、日本では初となる二世帯住宅を建てた。悪妻と評判がたった。茉莉に言わせれば父親に惚れて一生懸命尽くした母親のどこが悪妻なのかと。
では、鏡子さんの方はといえば反対にズボラ、夜遅くまで布団のなかに潜ってお菓子を摘まみながら本を読み朝起きられない。旦那の仕事に興味を示さない。旦那の弟子達にお座なりな扱いをする。悪妻と呼ばれる漱石自身も悪妻と呼ぶ。文句なしに鏡子さんは悪妻と呼ばれても仕様がないように見えるけど、実際は・・・
夫婦のことは夫婦にしかわからないということかもしれなけど、私には鏡子さんは良い奥さんにみえるし、腰の据わったふてぶてしさも好きだ。
この著者の書くものは対象人物に深く入り込んで描いていて感情の表現がとても上手です。だから、読み手も一緒に怒ったり泣いたり一気に読んでしまいます。
しかし、明治時代の主婦は大変だったんだなあとしみじみ思う。私には悪妻にも成れないw
続きを読む投稿日:2015.08.15