Reader Store
toobookさんのレビュー
いいね!された数18
  • ふかいことをおもしろく

    ふかいことをおもしろく

    井上ひさし

    100年インタビュー

    言葉や文学を信じる力強さ

    テレビのインタビュー番組をまとめた本で、非常に読みやすくわかりやすい内容になっている。 面白かったのは学生時代の話。 何でも井上は大江健三郎、筒井康隆と同年なのだとか。  大学のとき「大江健三郎ショック」を受けたという井上、小説は彼に任せようと感じたと打ち明けている。 また筒井康隆のSFを読み、SFは筒井にと思ったのだとか。  3人とも、それぞれのジャンルで大きな存在。同年で同じような存在感を持つ3人がいるというのはすごいことだ。  井上は父親が農地解放運動などに携わったことから、戦中派「アカ」=共産主義者として、一種のいじめにもあっていたようだ。  弱者への共感や、国家、特に戦争を遂行しようとする国家の意思、あるいはそうした勢力への疑義が常に井上の底にあった背景に、こうした生い立ちがあったのだ。  あとこんなエピソードも面白い。  いったん休んでいた大学に戻ったとき、本や映画に使うお金を稼ごうと「浅草フランス座」の文芸員のバイトを始めた井上青年。  同じ時に採用されたのは作家林真理子の叔父さんだったとか。ちょうどそのとき、結核の療養から戻ってきたのが渥美清だったという。  こんな部分に感銘を受けた。以下に引用する。  理屈でわかっているようなものを書くと、全然面白くありません。いいものを書くためには、練って練って、これじゃ駄目、あれも駄目、これも駄目と、何度も何度もやってはじめて出てくるものを信じています。僕はその感じを「悪魔が来る」という言い方をしています。(p79)  初日の幕が開いて、お客さんが拍手をして「いい芝居でした」「感動しました」「笑いました」といってくれるのが何よりの報酬なのです。(p81)  「笑い」については、こうも書いている。  人は、放っておかれると、悲しんだり、寂しがったり、苦しんだりします。そこで腹を抱えて笑うなんていうのはない。それは、外から与えられるものがあってはじめて笑いが生まれるからです。しかもそれは、送る側、受け取る側で共有しないと機能しないのです。  笑いは共同作業です。落語やお笑いが変わらず人気があるのも、結局、人が外側で笑いを作って、みんなで分け合っているからなのです。その間だけは、つらさとか悲しみというのは消えてしまいます。(p91)  本についても、本好きには心強い発言がある。  本とは、人類がたどり着いた最高の装置のひとつだと思います。それを簡単に手放すのはどうかと思うのです。やっぱりそれを大事にしたいという思いと、じつはどこかでまだパソコンを信用していない自分がいます。やっと集めたものが、ある朝一気にどこかにいなくなっちゃうような気がしているのです。(p113) やっぱり、すごい人です。実に説得力のある発言です。

    0
    投稿日: 2016.05.28
  • ジェフ・ベゾス 果てなき野望 アマゾンを創った無敵の奇才経営者

    ジェフ・ベゾス 果てなき野望 アマゾンを創った無敵の奇才経営者

    ブラッド・ストーン,井口耕二,滑川海彦

    日経BP

    世界を変えたネットビジネスを作った男

    この人の意思の強さは、かなりすごい。 例えば、創業から間もないころ、大手書店から裁判を起こされるという局面では、従業員を前に「みんな、聞いてくれ。毎朝、目を覚ますたびに心配でしかたがない、こわくてしかたがない、そういう状態だと思う。だが、他社の心配などするな。他者が我々にお金をもたらしてくれることなど、いずれにしてもないのだから。考えるべきは顧客だ。集中しよう」と呼び掛けたという。(同書p81より) つまり、ライバル社の動向を気にするのではなく、自社がどうするかを集中して考えろということ。実に示唆に富む発言だ。 あるプロジェクトの進め方について、関係者を集めていろいろ意見を集約するのは無駄だという考え方も、経営者の志向としては興味深い。 著者はその方向性について「関係者の調整は時間の無駄である。問題解決に一番適しているのは、問題に直面している人々だ」と代弁している。 自立型の組織でなければ変化の速い時代には対応できない。ネットビジネスの先端を走り続けてきた企業を引っ張ってきた人らしい考え方だ。 ベゾスが電子書籍の開発を任せたスティーブ・ケッセルへの言葉も面白い。 「君の仕事は、いままでしてきた事業をぶちのめすことだ。物理的な本を売る人間、全員から職を奪うくらいのつもりで取り組んでほしい」(p329) 本当に革新的なアイディア、会社の存続や発展のためには、それぐらいの覚悟が必要ということ。 変化の激しい現代らしい経営者の一言だ。 ベゾスがアマゾンをどんな会社にしたいかをまとめたという以下のメモは、これから発展したいと考える、あらゆる企業に参考になるのではないか。 長いけれど、面白いので引用。(p439) 不作法なのはクールじゃない。 小さな相手をたたきつぶすのはクールじゃない。 成功者の後追いはクールじゃない。 若いのはクールだ。 リスクを取るのはクールだ。 勝つのはクールだ。 愛想がいいのはクールだ。 皆が共感を覚えない大きい相手を打ち負かすのはクールだ。 発明するのはクールだ。 未踏の地を探検するのはクールだ。 征服するのはクールじゃない。 ライバルばかりを気にするのはクールじゃない。 他者がいろいろできるように支援するのはクールだ。 自社で価値を独占するのはクールじゃない。 リーダーシップはクールだ。 信念はクールだ。 率直なのはクールだ。 大衆に迎合するのはクールじゃない。 偽善はクールじゃない。 真正なのはクールだ。 大きく考えるのはクールだ。 意外なことはクールだ。 伝道師はクールだ。 金の亡者はクールじゃない。 「勝つのは」とか「若いのは」は同意できないけど、他はいい感じだ。 とまあ、いろいろ学ぶべきことの多い経営者ではあるけれど、いわゆる倫理的な方法ではなく、「顧客のため」と称して、結局自社が利益を出すことを目的としているあたりは、まさにアメリカ的。 たとえば、キンドルの発表前に、出版社に本の電子化を働きかける時の手法がそう。 本書によると、アマゾンは自社の要求にこたえない出版社の本を推奨プログラムの対象から外すなどして、圧力をかけたのだという。 これってつまり、顧客が、アマゾンの「お勧め」機能は面白くて信用していても、実はアマゾンサイドの介入でいかようにも操作できるってこと。 あたかも無味乾燥で、正直なプログラムが行っているようにみせつつ、実はそうでもない可能性がある(もしくはあった)ってことで、ネットの世界の不誠実さがよく分かるエピソードだった。 いずれにしても、この会社をここまでひぱってきたジェフ・ベゾスという人物の魅力や特性がよく分かる本だった。 本書の最終章には、少し不思議なエピソードも収められている。これはネタバレになるので触れない。

    3
    投稿日: 2015.09.29
  • 長いお別れ

    長いお別れ

    レイモンド・チャンドラー,清水俊二

    早川書房

    旧訳もかっこいい

    数年前、村上春樹訳で一躍有名になった同作品。 へそまがりなので、旧訳で読んでみました。 非常に硬質で、綺麗な訳文です。原文を読みたくなってしまいましたよ。 村上春樹訳で、原書の人気が出て、古本で安く出回らないかなあ。 かっこいい文章を抜書き。 「(前略)法律は正義ではない。はなはだ不完全な機構なんだ。ボタンの押し方をまちがえないで、そのうえに運がついていたとしたら、正義が飛び出してくることもある。法律とはそんなものだ(後略)」 死んだ人間ほど世話のかからないものはない。何をいわれても抗弁しないのだ。 「(前略)妻に近づくなマーロウ。君が妻に惚れているのはわかっている。だれだって惚れるんだ。妻と寝てみたいだろう。だれだってそうだ。ともに夢をわかち、妻の思い出のばらの匂いをともに嗅いでみたいだろう。ぼくだって、そんな気持ちになるかもしれない。だが、わかち合うものなんかない。―何もないんだ。暗闇に一人取り残されるんだ」 でも、そんな女性が目の前にいたら、普通引かれるよねえ。 ストーリーもさることながら、訳文のかっこよさを味わって心地よい読書の時間を過ごせました。これって、文体の力だ。 今度村上訳も読んでみましょう。

    5
    投稿日: 2014.11.28
  • 私流 頑固主義 続・礼儀作法入門

    私流 頑固主義 続・礼儀作法入門

    山口瞳

    集英社文庫

    昭和の香り 漂うエッセイ

    著者は洋酒の寿屋(いまのサントリー)の宣伝部員で、同僚に開高健がいたのは有名。  あとがきによると、このエッセイ、「GORO」という雑誌に連載されていたとのこと。  30代後半以上の人には懐かしい雑誌です。  「プレイボーイ」「平凡パンチ」などと並ぶ、若い世代を対象にしたグラビア雑誌です。  でもすごいですねえ。1970年代の若者は、こんなエッセイを読んでいたんですねえ。  「名刺の使い方」「接待の心得」「性生活の知恵」「読書について」「『粋』について」など。  若いサラリーマンを読み手として想定した内容です。    ちょっと年上の先輩が後輩に説いて聞かせる感じで、説教くさくないのが気持ちいい。文章のリズムも快適です。 「昭和」のにおいをたたえたエッセイ集でした。    山口は1961年から31年間、亡くなるまで続いたエッセイ「男性自身」の著者としても有名。『江分利満氏の優雅な生活』で、1963年に第48回直木賞を受賞しています。  ちなみに、山口は若い頃、ノーベル賞作家川端康成の隣に住んでいたそうです。  それが縁でもらった著書は、知人に貸して戻ってこないのだとか(「読書について」)。  返さない人もすごいけど、そんな本を貸してしまう山口の太っ腹なところもすごい。

    1
    投稿日: 2014.11.28
  • クリスマスのフロスト

    クリスマスのフロスト

    R・D・ウィングフィールド,芹澤恵

    創元推理文庫

    ダメダメなのに憎めない人。フロスト警部登場

    クリスマス直前。仕事の合間に立ち寄ったブックオフで、なんとな~く買った1冊。これが大当たりでした。  1994年が初版で、私の買った2004年には32刷を重ねている。売れているんですねえ。    読み始めたら、売れる理由も納得。主人公のフロスト警部のキャラクターが実にいいのだ。  人の家に行っても、勝手にティーカップを灰皿にしたり、上司に言われた大事な用件のメモも、人からもらったまずいクッキーも、何でもかんでもポケットに突っ込んでしまったりする、なんともだらしない人。で、オフィスのデスクの上には未処理の書類が山をなしていたり、上司には悪態をついたり、同僚のお尻に子供のように「かんちょー」をしたり。  しかしなぜか、同僚には人気。若い女性警官も、フロスト警部の下ねたには不思議と寛容。  魅力ある、ダメ人間。  ん?  こんなキャラクター、確かほかにも?  そう「刑事コロンボ」!    でもコロンボとは大きく違う点がひとつ。それはフロスト警部が下品だと言うこと。  死体を前に、不謹慎なジョークを放つのなんてへっちゃら。そんな人なのです。  次々と起こる事件を、その直感と、強引な違法すれすれの捜査方法で引っ掻き回すフロスト。 ところが、最後には、ジグソーパズルのピースがぴたっとはまるように、事件は解決する。 キャラクターの魅力でぐんぐん読めるミステリ。 続編もおすすめです。

    4
    投稿日: 2014.01.10
  • 鍵・瘋癲老人日記

    鍵・瘋癲老人日記

    谷崎潤一郎

    新潮社

    スリリングでエロティックな小説

    読まず嫌いはいけません。  そう、つくづく思いました。  最初に谷崎を読んだのは確か高校2年のころ。学校の図書室にあった「春琴抄」だか「刺青」だか。その記憶もあいまい。ただ、「言葉が難しいし、良く分からん」という感想だけは覚えている。  大学に行って、「なんだかすごくエロい小説らしい」と聞きつけて挑戦した「痴人の愛」も、どうもいまいち。で、「やっぱり耽美派はだめだ」とすっかり見向きもしなかった。  繰り返しますが、読まず嫌いはいけませんね。  両作品のうち、特に面白かったのは「鍵」。  主な登場人物は2人。56歳の肉体的衰えを感じはじめた大学教授と、その45歳になる美しい妻。  脇にいるのは、夫婦の娘と、その娘の結婚相手と目されている夫の後輩の男性・木村。  夫は、妻に男との不貞をそそのかす行為を繰り返し、そのことで自身の性的欲求を高めていく。いわば、倒錯した性癖の持ち主。  彼は妻も読んでいるであろう日記に、妻に自分の気持ちを悟らせようとこう書きます。  元来僕ハ嫉妬ヲ感ジルトアノ方ノ衝動ガ起ルノデアル。ダカラ嫉妬ハ或ル意味ニ於イテ必要デモアリ会館デモアル。アノ晩僕ハ、木村ニ対スル嫉妬ヲ利用シテ妻ヲ喜バス事ニ成功シタ (略)  妻ハ随分キワドイ所マデ行ッテヨイ。キワドケレバキワドイ程ヨイ。僕ハ僕ヲ気ガ狂ウホド嫉妬サセテ欲シイ。(p21)  作品は、この夫と妻の日記体でつづられます。  日記には本当のことが書かれているのか? それとも、相手に読ますためにかかれていのか? 読者は常にその判断がつかない宙ぶらりんな状態に置かれている。  このどっちとも判断がつかない状態が、実にスリリングでエロティック。  いったいどこに真実があるのか。芥川龍之介の「藪の中」を思わせる雰囲気は、読み手をあきさせない。  ラストには、二重三重のどんでん返しも用意されている。  良質のミステリーでもあり、良質の恋愛小説としても読める作品。  ただし、夫の日記はカタカナ交じりで非常に読みにくい。その読みにくさを一種のリズムとして受け取れないと、かなりきついかもしれない。  手っ取り早くストーリーだけ、という人には、コミック版もあります。

    1
    投稿日: 2013.12.09
  • 配達あかずきん 成風堂書店事件メモ1

    配達あかずきん 成風堂書店事件メモ1

    大崎梢

    東京創元社

    本屋に行きたくなるなあ

     「書店の謎は書店人が解かなきゃ!」という帯コピーのまんまの内容です。  駅ビルの6Fにある書店「成風堂書店」のしっかり者店員杏子さんと、手先は不器用だけど、勘の鋭い推理力を持つアルバイト店員多絵ちゃんという名コンビが、書店を舞台にした日常の謎を解き明かしていくというシリーズ。  この本を読んでいると、とても書店という空間に身をおきたくなるから不思議。暖かな空間が、ふわりとイメージできる連作集です。  各タイトルと私の評価は  「パンダは囁く」 ★★  「標野にて、君が袖振る」★★★★★  「配達あかずきん」★  「六冊目のメッセージ」★★  「ディスプレイ・リプレイ」★★★  といった感じ。本の内容と物語がリンクする「標野ー」は、本をめぐる小説としては、素晴らしい出来だと思います。  切なさや、ラストの意外さも◎    ネット書店では、こんなストーリー構築は難しいよねえ。  とかいって、既にネット書店を舞台にしたミステリーがあったりして。。。

    2
    投稿日: 2013.11.27
  • ベイカー街少年探偵団ジャーナル I キューピッドの涙盗難事件

    ベイカー街少年探偵団ジャーナル I キューピッドの涙盗難事件

    真瀬もと

    角川文庫

    ロンドンの少年探偵団だ!

    これはおもしろい。 普通の推理小説好きが面白いんだから、シャーロキアンには、きっとたまらない面白さなんでしょうね。 ホームズを助けて活躍する貧しい少年たちの物語。 タイトルのにある「キューピッドの涙」なんて表現が、なんとも少年ごのみの推理小説の雰囲気でいい! 本家のホームズものに出てくるさまざまな人物がちりばめられている中、ホームズをしたいホームズのために働いている貧民街の少年たちが縦横無尽に活躍するというお話。 ミステリなのであらすじ紹介はやめておきますが、文体も本家を思わせて(といっても、自分は翻訳でしか読んだことありませんけど)、小学生のころ、ちょっと背伸びして新潮文庫でホームズシリーズを読んでいたころを思い出しました。もう35年も前! さらに事件とは別のストーリーとして、アイルランド独立闘争が仕込まれているというのが面白い。 沖縄出身の自分にとっては、この独立闘争のほうが、どうも興味がわきます。 時代的には昔みた映画の「マイケル・コリンズ」の頃なのでしょうか。 この部分の今後の展開も気になります。 続編も読まねば!

    2
    投稿日: 2013.11.27
toobookさんのレビュー一覧 | ソニーの電子書籍ストア -Reader Store