
社員を幸せにする会社
片山修
東洋経済新報社
中小企業の経営者たちの奮闘記!
富田製作所、両備グループ、伊那食品工業という非上場企業3社をとりあげています。 富田製作所は、茨城県に本社があり、戦後、創業者がハンマー一本から立ち上げた、厚板精密板金のものづくり企業。 両備は、岡山県に本社があり、鉄道から始まった、100年以上の歴史を持つ企業で、運輸、交通、観光、ITなどを手掛けます。現CEOは、ねこの駅長「たまちゃん」の生みの親。 伊那食品工業は、長野県の寒天関連商品の生産販売企業。「かんてんぱぱ」という商品が有名です。 3社には、「社員の幸せ」を掲げるという共通点があります。三社はそれぞれに、社員の幸せを実現すべく、さまざまな工夫をしています。 序章で総論が語られ、各章では、それぞれの沿革が詳しく記されます。読んでいくと、各社が社員の幸せを目指すようになった経緯がわかるようになっています。 名前も知らない企業もありましたが、企業の歴史には、日本企業ってすごい!と思わせるエピソードがたくさんありました。 富田製作所は、世界一を掲げた創業者の意志を継ぎ、五人息子が企業を存続させるために奮闘します。 両備は、ねこのたま駅長の和歌山電鉄をはじめ、衰退する地方公共交通を守ろうと、代表の小嶋さんが奮闘。 伊那食品工業は、『日本でいちばん大切にしたい会社』の第一巻でも紹介されていますが、経営方針や会長の人柄、トヨタとの関係など、より詳しく触れられています。 どの章も、一言でいえは“奮闘記”です。 社員も客も仕入先もみんなハッピーになる会社の経営を通して、利益優先、株主優先の経営、価値観に遠回しに警鐘を鳴らす書だと思います。
0投稿日: 2015.11.02
戦艦武蔵
吉村昭
新潮社
たんたんと記される事実が重い
戦艦武蔵の建造から沈没までが記されています。建造や建造中の機密保持の様子に、全体の3分の2強が割かれており、戦記というより記録文学です。 主役はいません。あえていえば戦艦武蔵です。文中、登場人物と著者の主観はほとんど見当たらず、たんたんと事実が記され続けます。それが逆に、当時の造船所や町や軍や国が、戦争に進んでいくしかなかった様子を感じさせます。 あとがきより。 「私は、戦争を解明するのには、戦時中に人間たちが示したエネルギーを大胆に直視することからはじめるべきだという考えを抱いていた。そして、それらのエネルギーが大量の人命と物を浪費したことに、戦争というものの本質があるように思っていた」 「戦争というものの本質」を描くために、驚くほど緻密かつ膨大な取材がなされています。 個人的に戦中戦後の製造業の現場の様子が知りたいと思っていたので手に取りました。 知りたいことが知れたという意味では星5つ。ただ、あまり興味のない人には、とっつきにくい内容だと思います。
2投稿日: 2015.09.21
サムスン・クライシス 内部から見た武器と弱点
張相秀,片山修
文藝春秋
なぜ日本企業はサムスンに負けたのか。答えは「人への投資」にあり
張氏と片山氏の対話形式で書かれているので、読みやすく、わかりやすいです。 断っておくと、サムスンの悪口やスキャンダルの暴露本ではありません。 なぜ日本企業がサムスンに完敗したのか、「日本企業は失われた20年の間に人材投資をおろそかにした」という点から、徹底的に分析されています。 サムスンの強さの秘密、日本企業の問題点が、具体的な数字や制度などをあげながら詳述されており、日本企業の人事がグローバル企業のなかで遅れている事実を突き付けられます。 「サムスンの役員って、実際どれくらいもらってるの」「引き抜かれた技術者は、3年で捨てられるって本当?」など、下世話だけれど日本人が気になることを、片山氏がしっかり聞き、張氏が、具体的に正確な数字を含めて論理的に答えていて、納得、かつおもしろく読めます。 後継者問題についても、日本語で書かれているもののなかでは、もっとも詳しく触れられていると思います。 お金をかけて育てた社員が派遣先から帰国後に約2割もやめてしまう、とか、若者に我慢させるとすぐ会社を辞めたがる、とか、若手を飲みに誘っても嬉しそうじゃない、とか、成果が出ない部下は、いやだけど叱らなきゃいけない、、、など、人事に関して、サムスンも日本企業と同じような悩みを抱えていることがわかります。 サムスンだって、ソニーやパナソニックやシャープだって、「人」が動かしているのです。結局「人」をいかにマネジメントするかに尽きるんだな、という感想を持ちました。
4投稿日: 2015.09.16
月と雷
角田光代
中公文庫
孤独で、弱くて、幸せではないつもりだけれど、じつは強い女性の話。
角田節といいますか、いつもの筆致のいつもの角田さんの小説という印象です。つまり、現実にはあり得なさそうなことが、なぜかリアリティをもって違和感なく読めます。 いつもの角田さんが読みたくなって読みましたが、その意味では期待通りでした。 泰子は「なぜ、こうなってしまったのか」と、自分の不幸の犯人探しのようなことを考え続けます。 でもじつは、不幸だけでなく幸せも誰かのせい。誰もが影響しあって生きている。つまり、誰もが誰かのせい(おかげ)で生を受け、いま生きている、という話です。 孤独で、弱くて、幸せではないかもしれないけれど、じつは強い女性の話です。
3投稿日: 2015.09.11
邂逅(かいこう)の森
熊谷達也
文藝春秋
マタギの生き方を、リアリティをもって描き出す
人と獣とのかけひきもさることながら、人と人とのかけひきやつながりを、とてもおもしろく読みました。ストーリーもどんどん展開します。 マタギである主人公は、山に対しても人に対しても、迷いつつ、最後には真っ直ぐに向き合います。彼の正直な生き方が、すっきりとした読後感につながりました。 雪山の風景、獣との格闘、夜這い、民家の生活の様子など、頭のなかに映像が残る作品です。 巻末に参考文献が10冊以上載せられていましたが、時代背景や土地の歴史、風土、猟の方法や方言のちがいなど、かなり念入りな調査や取材が必要だったはずです。細かな情報が、物語が展開する舞台をしっかりと固めていて、説得力がありました。
1投稿日: 2015.09.10
火花
又吉直樹
文春文庫
「笑い」の深みへ
笑いのことを、深く長く考えたことがある人でないと書けないものです。業界の人だからこそ書けるものだと思いました。笑い以外のネタで書いた作品が読んでみたいです。次作が楽しみです。
0投稿日: 2015.08.24
一瞬の風になれ 全3冊合本版
佐藤多佳子
講談社文庫
熱い!高校生の陸上部物語
よくある熱い青春ストーリーを期待して読んで、期待通りでした!一気に3巻続けて読みました。おもしろかったです。 陸上競技って、何を見ればいいんだろう?何がおもしろいんだろう?と思っていましたが、これを読んで、走っている人たちの気持ちが少し分かるようになった気がします。100m走やリレーが面白く見られるようになりました。
3投稿日: 2015.08.24
