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このユーザーのレビュー
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コロロギ岳から木星トロヤへ
小川一水 / ハヤカワ文庫JA
ライトな本格SF
13
2014/07/19 第45回星雲賞、日本長編部門受賞作。ということで早速。
書店でこの作者の本はよく見かけ、装丁からハードSFを想像していた。ところが、この作品は、ライトな感じの、ちょいと前に読んだ…野尻抱介とも似た、ユーモアあふれる読みやすい作風。しかも最近マイブームの時間ものと来れば、読まないわけにはいかん。短めのボリュームも手伝って、通勤2日で読破してしまった。
物語は、4次元の世界に生きる謎の生物?カイアクが、「泉」の中で「楔」に引っかかってスタック。200年の時と木星近く小惑星と北アルプスとにまたがって動けなくなってしまい、動けなくなった「尾」の解放のため主人公たちに協力を求める。
トンデモない設定の異種文明(文明、ですらないけど)、地球の危機にもかかわらず、そんなこと知ったことかとばかりに登場人物たちは、未来の少年2人組に妄想を働かせてるし、未来へのメッセージはモナリザの裏への落書き。どう考えても深刻な話のはずなのに、最後まで楽しく読まされる。
その一方、時間パラドックスを避けるための「手続き」の必要性、可能性の収束による世界の(主観的な)変動など、読み応えのあるSFでもあり、読み応えもある。星雲賞受賞も納得。
もう少し、この人の作品を読んでみようかな。実は35回、37回の星雲賞も受賞している、思いっきり実力者であるみたいだし。 続きを読む投稿日:2014.07.23
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僕らはみんな河合荘(1)
宮原るり / ヤングキングアワーズ
ストレートど真ん中のラブコメ!
11
変人揃いの住人に囲まれた中でのラブコメ。
「めぞん一刻」ほど「生活感」はなく、「ラブひな」ほどのテンションの高さもなく、良くも悪くも洗練され、あまりアクの強くない、爽やかで非常にバランスの取れた王道に…仕上がっています。
何よりこの絵。登場人物の可愛さにイチコロでした。あまりにコテコテで人前で読むのが恥ずかしいなら、電子書籍版がオススメです(^^)
実は本好きの心をくすぐる展開も素敵です。 続きを読む投稿日:2013.12.20
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All You Need Is Kill
桜坂洋 / 集英社スーパーダッシュ文庫
いい意味でライトノベル
9
「神林長平トリビュート」に寄稿していた桜坂氏に惹かれ半年前購入していた本書を、年末滑り込みで読了したけれど。どうやら、ハリウッド映画化やコミック連載など、メディアミックス的展開が進んでいるようで、流行…に乗ったみたいでちょっと癪(^^;)。
ストーリーは、繰り返す時間のループに捕らわれてしまった主人公が、そこから抜け出すための手段を探す物語。ループの中で出会ったある人物(うら若き女性)との出会いが、ループを抜け出すための鍵になるのだけれど…。
若い女性登場ということで当然ながら予想されてしまう分かりやすい展開や、ループ発生のSF的理屈の掘り下げは丸めている(ちょっと「なんちゃって」感が…)など、厳密さを求めずちょっと情緒に傾けたライトノベル的な方向付けが行われているのだけれど、この作品については吉と出ている気がする。短いボリュームの中で、話のフォーカスがぶれずに、スッと最後まで読み通すことができた。結末もきれいで爽やかにまとまっている。あえて言えば全体がきれいにまとまりすぎの感があって、結末にもっと不条理感ややりきれなさを残してもいいかなとか、もう少しパワーを感じさせてほしいかなとか思うのだけれど、そこは計算も入っているのかな、とも感じた。確かにこれはハリウッド映画的かも。
一点。電子書籍版で読んだのだけれど、文庫版にはあったはずのイラストがない。ライトノベルなのだから、小説+イラストが揃っての作品のはず。安倍吉俊氏のイラスト、以前、某アニメ/ゲームで結構はまったのもあったので、その点は残念。 続きを読む投稿日:2014.01.12
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四月は君の嘘(1)
新川直司 / 月刊少年マガジン
ヒロインが魅力的
7
規格ハズレの才能、悩みを抱えた主人公。ありがちと言えなくもない話を、キレイな絵と、とにかく前向きな周囲のキャラクター(ダブルヒロインが、両方とも強い!という変わった構成が、象徴してるかな)でグイグイ引…っ張っていってくれそう。そうは見えないけど、実は少年マンガ的、燃える展開のような気もして楽しみ。
まあ、「カラフル」なので、カラーで見たかったという気はする(^^;)アニメ放送開始されるということなので、そこがどう表現されるか楽しみ。 続きを読む投稿日:2014.10.04
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逃げるは恥だが役に立つ(1)
海野つなみ / Kiss
ぶっ飛んだ設定のようで、意外とリアル
6
1話無料で読んで、気になったのでとりあえず1巻買ってみましたが、やっぱり面白い。
まずは、題材の選び方がとにかく目を引くのだけれど、登場人物それぞれが、結構正直な心情を吐露していて(文章量は多いかな)…なんかリアリティがあって納得させられてしまう。そして、この奇妙な関係の中で、何故かお互いの気持ちが少しずつ動いていって…と、意外としっかりとした恋愛物になるのかどうか。先が読めそうで読めないところが楽しい。
下手なような上手いような、独特のあっさりした絵柄が、重くなってもおかしくない話を、一歩引いて見せてくれるのもいいのかな。 続きを読む投稿日:2014.06.13
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復興の書店
稲泉連 / 小学館
被災者たちの物語
5
以前読んだ「紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている──再生・日本製紙石巻工場」(以下「紙つなげ」)と、比べながらの感想。
「紙つなげ」が、紙を中心とした、本にさまざまな立場で携わる人々の物語をつなげた…「ストーリー」を構成しているのに対して、本書(「復興の書店」)は、末端の「書店」にフォーカスしており、独立したエピソードはほとんどリンクしていない。「復興の書店」は雑誌連載という背景もあるのだけれど、どちらか一冊を、ということであれば、「紙つなげ」の方が、(物語の登場人物の努力の集大成を、実際に「本」という形で手にできる、という点まで含め)完成度は高い。
ただ、「復興の書店」がフォーカスしているのは、「紙つなげ」での作り手側の物語よりもっと末端の「読み手」に近いところ。一章のタイトル「本は「生活必需品」だった」が、本書の位置づけを示しているように思う。品質、もの作りとしてのこだわり、そういったものを超えた、純粋に「情報」「環境」としての読書。そういったものがいかに被災者にとって大事であったのか、それを復興させるために、書店員がどのように戦ってきたのか、そういったことを、より、被災者に寄り添った視点から描き、まざまざと感じさせてくれたのが「復興の書店」であった。
そういった意味では、本書で求められている「本」の役割を果たすのは、紙である必要はなく、電子書籍でも構わないはず。ただ現時点での電子書籍における「共有」の弱さが、浮き彫りになったかなという印象を受けた。
どちらの本も、やはり涙なしには読めない。それだけの出来事であったのだし、遠く、ほとんど被害はなかったとは言え、同じ災害を体験したものとして、考え続け、語り継いでいかないといけないということを再認識させられた。 続きを読む投稿日:2014.12.20