tsuda-hanakoさんのレビュー
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武士道
新渡戸稲造, 岬龍一郎 / PHP研究所
武士道は未だ我々の中にある
39
江戸時代に生まれ、明治初期の教育を受け、キリスト教徒となり、外国人と結婚し、最終的には国連事務次長を務めた新渡戸稲造が、アメリカで日本を紹介するために英文で書いた本。否応なく西欧の文物を取り入れる世に…あって、自らもキリスト教徒となった新渡戸の精神的支柱はやはり日本の美意識だったということを示す本。
騎士道の薔薇と武士道の桜の対比は鮮やか。薔薇の花びらは西洋人の生への執着を表すが、我が日本人は、散り際一瞬に全てが凝縮される桜を愛でる。そこには生についての美意識が投影されているのだろう。
昨今の日本人は、古来からの美意識を失い西欧化されつつある、つまり、生への執着を強めつつあるように見えるが、それに対して何か据わりの悪さを感じているつつあるようにも思える。要するに、美しくないと感じているのだろう。
我々の中に、武士道は未だ息づいているのだなと気付かせてくれる。
李登輝の「武士道解題」、岡倉天心の「茶の本」もお勧めです。 続きを読む投稿日:2013.11.07
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生き方
稲盛和夫 / サンマーク出版
人間の芯
26
短期的ではない成功を収める人の共通点は人間の芯というようなものがあるということ。芯は、哲学とか道徳とか宗教とかいろんな要素によって形作られるのだろうけど、やはり、古からの知恵というか、我々の中にある共…通の善なる要素に軸足を置かなければ、長期的な成功は望めないのかなという気にさせられます。
昨今、株価等の経済指標に一喜一憂するような劣化した精神が経済界にも蔓延しているようで、それはそれで抗い難い時流なのかもしれないけれど、やはり、自分としてはそういう劣化した精神からは距離を置きたいと改めて思わされました。 続きを読む投稿日:2013.11.07
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里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く
藻谷浩介, NHK広島取材班 / 角川oneテーマ21
創意工夫は大事だけれど
11
少子高齢化する農村。市場原理(主義)が席巻する現代の日本というか世界にあって、少子高齢化への回答を里山資本主義というキーワードで解こうとした試み。
そうはいっても、全ての里山を維持するのは困難で選別は…必須だろうし(限界集落~ちなみに、取材の舞台となった中国山地は限界集落の数が日本一だったような記憶がある)、里山で資本主義をやろうにも、交通の便などの社会資本整備が伴わないと、それらの試みを維持することは難しいだろう。きれい事では済まない。もちろん、これまでの山村の多くに見られたように、お上に頼るだけの無為無策(に近い状態)からの脱却の方法を具体的に広く知らしめたといういう点では評価できる本である。
日本という巨大経済、その近接した地域にあるという強みをどう生かしていくのか、その辺に里山資本主義の将来がかかっているのだが、本体たる日本経済が萎むようではどのみち先行きは暗い。藤原正彦のいう「天才を産む地域」すなわち美しい景色の代表である里山の美観は日本の資産であり、それを維持することには大いなる意味があるように思うので、里山資本主義という地元の努力以外にも、国全体として出来ることをもっと考えてゆくべきだと感じた。 続きを読む投稿日:2013.11.03
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ソニーの「B面」 知られざる黒子事業(週刊ダイヤモンド 特集BOOKS(Vol.6))
後藤直義, 藤田章夫 / 週刊ダイヤモンド特集BOOKS
知ってるようで知らないSONY
7
テレビ局等の業務用カメラにSONY製が多いことは以前から知っていた。以前、ロシアの議会とかでもSONY製カメラが使われているのを見たことがある。しかし、バッテリー事業を昔からやっていたとは知らなかった…。デルのノートパソコンの発火事故の時のリコール騒動で、ソニーもリチウムイオンバッテリーをやっていたのかと思ったが、この本を読んで、その遙か以前、1990年代に既に日産と電気自動車の研究をしていたとは知らなかった。しかも、それを出井氏がストップさせたことも。出井氏がSONY凋落の原因と言われる一つの理由が、こういうところにもあるのだろう。
このレポートは2011年夏に書かれたものだが、著者の一人の後藤直義氏は、最近「アップル帝国の正体」という本を上梓された。それを読むと、アップルにセンサーを供給していることによるデメリットも分かる。氏は、2011年当時iPhoneにソニー製センサーが搭載されるということを肯定的に捉えていたが、2013年現在では、諸刃だと書いている。こういう点にも興味のある人は、本書とともに「アップル帝国の正体」もお勧めしたい。 続きを読む投稿日:2013.09.30
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世界を操る支配者の正体
馬渕睦夫 / 講談社
複眼的視点の提供
5
企業間とかでは陰謀論的なものを熱弁する人が、国家間とかになると、いきなり「陰謀論は低脳なヤツのやること」にようなことを言ったりするのを聞いて呆れてきた身からすると、外交官出身、元大使の馬渕さんが、この…ような本を連続して出版されてることに、彼の「勇気」を感じます。
馬渕さんは、外務省入省以来、基本的に旧・東側諸国、その中心のスラブ畑を歩んできた人だけあって、ロシア人に対する理解については、目から鱗といったものを感じます。確かに、ロシア人は日本人から見ると正反対、例えば、大雑把で野蛮な面を強く持っており、日本の近代は、このロシアの側面を強く認識させられた時代でした。しかし、大雑把で野蛮というのは、世界の多数派がそうなのであって、ロシアだけを特別に警戒の目で見る必要があるかは疑問です。
馬渕さんは、ロシア人の人間観が性善説であること、集団主義的であることに注目します。日本人も性善説で集団主義的ですから、性悪説と個人主義的な西欧諸国や東アジア諸国より、文化的に、日本と親和性が高いのではないか?というのです。もちろん、野蛮な部分を色濃く残すロシアに対する警戒は緩めてはなりませんが、ロシアの近代化への悩みは日本が通ってきた道と同様のものであり、その道の先行者として日本がロシアに援助できる点は多々あるという氏の主張は納得のいくものです。、そして、文化的親和性が高いことから、援助に対するロシア人の変化は日本人の期待するものに近いものになるのではないか、すなわち、強固な友好関係の構築の可能性を論じます。
世界を見る目、なかんずく、ロシアに対する目を、欧米視点の単眼的志向から複眼的志向に変えるのに役立つ、良書だと思います。 続きを読む投稿日:2015.01.09
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雑談力が上がる話し方
齋藤孝 / ダイヤモンド社
思い込みを払う
5
雑談ってのは、盛り上がる必要もないし、笑いを取る必要もない。目的は距離を縮めることで、打ち解けることは必須ではない。ユーモアは距離を縮めるのに役には立つが、これまた必須ではない。どうもその辺について、…最近、変に思い込んでいる人が多いのではないかと思う。浮くこととかに対して過敏になり過ぎているんだろう。
この本は、そういった人に対して肩から力を抜いて話すきっかけを作る指南をしてくれるので、必要な人にとっては有り難い本なんだろうと思うが、わたしにとっては、あまり得るところのない本であった。本自体は、面白い読み物に仕上がっていると思う。 続きを読む投稿日:2013.11.03