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bamuse163さんのレビュー
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  • 愛しの座敷わらし【文庫上下巻合本版】

    愛しの座敷わらし【文庫上下巻合本版】

    荻原 浩

    朝日新聞出版

    心を揺さぶる良著

     久しぶりに読み終えた後に心が温かくなる本に出会えた。すぐに,何度も読み返してしまった。  年齢を重ねるとあまり物事に動じなくなり,同時に感動することもなくなってしまう。ニュース等で悲惨な事故を聞いても,失礼ながら「またか!」と思うだけで,心を動かされない日々が続いていたが,そうした無感動な生活の中で,久しぶりに心を揺すぶられた作品である。  物語に出てくる家族のそれぞれが,座敷わらしとの出会いを通じて,現代社会の忙しい生活の中で次第に薄れゆく「本来人間として大切な心持ち」を再認識していく,その課程が見事な描写で描かれている。  競争社会でもまれていると,人間として失ってはならない大切なことに次第に気が向かなくなり,他人を見ていやだなと思っていたことを,いつの間にか同じことを自分もするようになり,余裕がなくてそれに気付かないことがままあるが,本書を読んでいると,人間として忘れてはならない心の持ち方に気付かされることに気が付く。上から目線で言われるのではなく,自ら気付かされるのである。  家族のそれぞれが,それぞれの状況に応じて成長する姿が描かれている。年を重ねても,心の持ち方次第で人間は成長できるのである。  しばらく時間をおいて,また読み返しても,この気持ちに変わりはない。  物語の最後で,この家族の引っ越し先での新しい暮らしに希望の光をのぞかせることによって読者を安心させる演出が心憎い。ここから先は,読者それぞれが想像することになるが,暗い方向へ考える人はいないだろう。  読み終わると自然と笑顔になる,すばらしい作品である。

    0
    投稿日: 2016.07.22
  • 漫画・居酒屋のつまみを劇的に旨くする技術

    漫画・居酒屋のつまみを劇的に旨くする技術

    筆吉純一郎,伏木亨

    メディアファクトリー新書

    旨い。確かに旨い。

     長きに渡ってアルコールに浸っている飲み助である。若い頃は、様々なものを試して膨大な授業料を支払ってきたが、最近は好みも固まり、一人で居酒屋で杯を傾けることが多くなった。  本書は、飲み助が長年にわたる経験により得た感覚を理論で裏付けしてくれ、読んでいてうれしくなる本である。また、独りよがりな勘違いも指摘してくれて、機会あるごとに自分の舌を鍛え直しているところでもある。旨い、確かに旨い。  この年になると自分の好みも決まってきて、頭では分かっていても好みがそれを上回ってしまうところもあり、居酒屋での注文の時考え込んでしまうことも多くなった。  本書で得た知識により、カミサンが作ってくれる料理について「違うよ」と指摘したくなることもでてきたが、そのときだけは何も言わず黙っているのがストレスになる。  読みやすく、スッと内容が脳裏にインプットされる良書であるが、晩酌や居酒屋での注文の悩みも増やしてくれる、なかなか難しい本である。読んでいるときだけでなく、日常生活を豊かにしくれる良著です。

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    投稿日: 2015.09.18
  • 沙高樓綺譚

    沙高樓綺譚

    浅田次郎

    徳間文庫

    素面で乗り過ごすおもしろさ

     物語の背景設定が絶妙である。それぞれの編で語られる登場人物の名前を、今、世間を騒がせている人に変えてみても何ら違和感なく、現実にありそうな話の連続である。我々一般人とは遠い、限定された世界の話という設定だが、文中で語られる登場人物の心理状態は、一般人と何も変わらない。  語り手が人々を前に語るのを聞くという設定だが、その聴衆の中に自分も入り込んでいるような気持ちになり、それぞれの編を一気に読んでしまう。特に最後の編は、主人公である語り手の、当時の心理状態の変化の記述が絶妙で、朝の通勤電車の中で読んでいたのだが、夢中になって乗り過ごしてしまった。シラフなのに、これだけ引き込まれる展開の話は、久しぶりである。  間をおいて何度も読み返しているが、何回でも夢中になれるすばらしいstoryである。続編を量産して欲しいが、これだけの展開の材料を集めるのは、簡単ではないだろう。  一人の夜に一杯やりながら読むと、夢中になって手が止まり、杯が進まなくなります!

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    投稿日: 2015.08.28
  • ST 警視庁科学特捜班 桃太郎伝説殺人ファイル

    ST 警視庁科学特捜班 桃太郎伝説殺人ファイル

    今野敏

    講談社文庫

    正義は勝つ!

     本作品に限らないが、今野氏の作品には「最後は正義が勝つ」というテーマが掲げられている。主人公は、策謀に長けた登場者達に悩まされながらも、最後は正義が勝利する。水戸黄門ではないが、読者は安心してストーリーを読み進めることができるのである。  現実問題として、昨今の世間を眺めると、「正義が勝つ」とは言い難いニュースばかりが目立つ。正義を主張し過ぎると「大人になれ」などと言われ、嘘をつくことを強要されたりする。真の実力者が脇に除けられ、策謀に長けた人物が出世する傾向があることは否めない。安心して正義を貫き通せるのは、もしかしたら物語の中だけなのかもしれない。  高校で、道徳を教科にする等の声も聞かれるが、嘘は、教育の世界にまではびこっている。実際に、万人に効果のある道徳の教科書など作れるわけがない。  そこで、今野氏の作品を教科書にし、子供に継続して読破させれば、日本の未来は明るくなるなと夢を見る今日この頃です。  日本の未来は、今野氏の筆にかかっている?

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    投稿日: 2014.02.20