
北欧神話と伝説
ヴィルヘルム・グレンベック,山室静
講談社学術文庫
有名どころを網羅した入門書(やや上級編)
いわゆる「北欧神話」といわれるお話にはざっくり分けて、エッダ(オーディンとかトールとかの神話)とサガ(怪物とかも出てくるものの基本的には人間が主役の伝説・伝承)があります。エッダは新旧、二つのエッダにほぼ纏められている(二つしか残っていない)のに対し、サガは無数に存在し、とても一つに纏められるものではないといわれています。 訳者によると本書は、エッダに加えてサガの有名どころを網羅し、それぞれの話をなるべく時系列順に並べて分かり易くしたものとのことです。実際、テュルフィング、グラムといった有名な武器やビョーウルフ(ベオウルフ)、シグルド(ジークフリード)といった英雄、勇者がかなり登場します。意外なところでは、フン族のアトリ(アッティラ大王)、デンマークの王子アムレード(ハムレット)なども。その他にも古ゲルマン的な習俗(復讐や従士たちへの財宝の分配、王位の分割相続など)が各所に見られ、まだ部族社会であった頃のヨーロッパの貴重な資料ともなっています。北欧神話に興味のある方だけでなく、初期~中期中世のゲルマン社会に興味のある方にもおススメです。
1投稿日: 2017.08.08
西洋中世奇譚集成 東方の驚異
逸名作家,池上俊一
講談社学術文庫
プレスター・ジョンの伝説
十字軍やコロンブスに大きな影響を与えた「プレスター・ジョン」の伝説。その元になった、ヨハネ(プレスター・ジョン)からからのものとされる手紙(偽書)。およびプレスター・ジョンからの手紙に大きな影響を与えたとみられる「アレクサンドロス大王からアリストテレスへの手紙」(偽書)が収録されています。プレスター・ジョンの手紙はバージョン違いが二つです。インド(北アフリカ・中近東まで含む概念)は信じられないくらい豊かで、想像を絶する怪物も住んでいる、という内容になります。歴史的な影響は(はた迷惑なことに)非常に大きいのですが、基本的には与太話の類なので、オリエンタリズムの文脈や十字軍、大航海時代の背景についてある程度理解している人向けになるかと思います。
0投稿日: 2017.05.10
神話の力
ジョーゼフ・キャンベル,ビル・モイヤーズ,飛田茂雄
ハヤカワ文庫NF
すごくスピリチュアルで人を選ぶ
『千の顔をもつ英雄』で有名なジョーゼフ・キャンベルのもう一つの代表作。晩年に出演したテレビ番組での対談(というかインタビュー)の内容を出版したものです。 『千の顔をもつ英雄』自体が、集合的無意識を前提としていたりして、結構、スピリチュアルでニューエイジな感じなのですが、こちらは神話論/物語論としての体裁を取る必要が無いぶん、完全にそっち系に振り切ってしまっています。 2017年4月現在のところ、『千の顔をもつ英雄』は電子化はされていませんが、文庫での再販はされています。そちらの電子化を待つなり、文庫を読むなりして、ジョーゼフ・キャンベルのテイストを確認してから本書に進まれるかどうかを判断するのが良いかと思います。
1投稿日: 2017.04.18
ガリア戦記 Gaius Julius Caesar
カエサル,國原吉之助
講談社学術文庫
読むならこれ
『ガリア戦記』の和訳はいくつかありますが、読むならこの講談社学術文庫版がおすすめです。ヒルティウスによる第八巻についても収録されており、『内乱記』への経緯が把握できること、また資料が豊富で文章だけではわかりにくい建築や攻城兵器の構造、社会制度の解説が充実していることなどが理由です。
0投稿日: 2016.12.14
饗宴
プラトン,中澤 務
光文社古典新訳文庫
美少年愛と芸術
アテネの著名人が集まって酒を飲みながら、美少年と同性愛の素晴らしさ、エロスの偉大さを語り合う内容です。誤解を招きやすい言い方かもしれませんが本当です。登場人物によって考えている内容が異なるので、入れ替わり立ち代わり出てくる色々な話を踏まえて最後にソクラテスが「エロスとは」「芸術(ここでは主に詩)とは」といった結論に持っていく構造になっているので、最初に巻末の解説を読んでおいた方が分かりやすいかと思います。 結論だけ読んでもよいような気もしますが、色々と有名な逸話の出典(人間は元々二人で一つの存在だったけどやりたい放題しすぎたので別々の二人に分けられたとか)でもあるので、通して読んでおいた方がよいでしょう。
0投稿日: 2016.12.14
生命40億年全史 下巻
リチャード・フォーティ,渡辺政隆
草思社
下巻はより一般向け?
恐竜、哺乳類や人類の登場など、どちらかといえば上巻よりも下巻の方が一般に好まれる話題が多いと思われます。恐竜絶滅の原因を巡る大論争などが当事者ならではの視点からユーモアを交えて語られています。 本書は人類が農耕を開始したあたりで終了しますが、本書の後に『銃・病原菌・鉄』とか『サピエンス全史』などに行くと話が繋がって丁度良いのではないかと思います。
0投稿日: 2016.12.14
生命40億年全史 上巻
リチャード・フォーティ,渡辺政隆
草思社
独特な古生物通史
ロンドンにある自然史博物館(V&Aのとなりにあるやつ)の古生物学者であった著者が自身の経験や先達、同僚、同業者の逸話を交えながら生命の発生から人類の誕生(より正確には農耕の開始くらいまで)を紹介しています。上巻は海から地上に生命が進出したあたりまで。ブリテン人らしいユーモアと教養溢れる、かなり独特の語り口です。学生時代の思い出から始めてみたり、専門である三葉虫の味を推測してみたり。とはいえ、あまり堅苦しくはなく、読みやすくもあります。
0投稿日: 2016.12.14
若い読者のための第三のチンパンジー:人間という動物の進化と未来
ジャレド・ダイアモンド,レベッカ・ステフォフ,秋山勝
草思社
荒削りな第一作目
ジャレド・ダイアモンドの第一作目。『銃・病原菌・鉄』、『文明崩壊』、『昨日までの世界』、『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』といった、その後の著作の内容が幅広く扱われている。ある意味ではお得な内容。 ただ一作目というだけあり、議論が荒く、著者の執筆当時の価値観が前面に出ており、三部作で見られる中立的な視座を心がける自制的な論調に欠けているきらいがある。 『銃・病原菌・鉄』の名前は聞いたことがあるけれど、長そうだからちょっと抵抗があるという人向け。著者の他の本も読んでいるという人にとっては優先度は高くないと思います。
0投稿日: 2016.12.14
一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル
東浩紀
講談社文庫
既に部分的には実現されている
テクノロジーによって一般意思を可視化し参考にしつつ、場合によってはそれを無視する。早い話が、ツイッターなり、ニコニコ動画のコメントなりを国会に流せということです。技術的には十分可能、というか部分的には既に実現も実装もされているという点、一般意思を賛美するだけでなく、場合によっては理性に基づき、それに反した決断をする必要があることを指摘している点が特筆に値すると思います。 少なくとも民主主義の実装についての議論のスタートにはなるかと。
1投稿日: 2016.11.25
人間の性はなぜ奇妙に進化したのか
ジャレド・ダイアモンド
草思社
生き物のなかのひとつとしての人間
『銃・病原菌・鉄』、『文明崩壊』、『昨日までの世界』のジャレド・ダイアモンドが三部作の前に書いた本です。 他の動物の霊長類や他の動物と比べると、人間の結婚という制度は実に奇妙です。「奇妙」という言葉が悪ければ、生物のなかでは少数派と言ってもいいでしょう。人間と生物学的に近い種に限っても、人間のような「再生産システム」を採用している動物はほとんどいません。なぜ人間はこのような制度を採用したのか、そしてその時期は進化と分岐の途上でいうとどの時点なのかを論じています。三部作でいえば『昨日までの世界』に比較的近い内容でしょうか。第一作である『若い読者のための第三のチンパンジー』を発展させた内容とも言えます。 実証というよりも思考実験と論証という感じで論が進むので、気になる人は気になるかもしれません。また進化論が受け入れがたかったり、人間も動物の一種であると考えることが許せない人も読まないほうが良いでしょう。
1投稿日: 2016.11.25
