iciさんのレビュー
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ビールの教科書
青井博幸 / 講談社学術文庫
雑
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講談社メチエの同名書の文庫版。
ビールの製造実務に関してのノウハウは経験者だけあり、光るものがある。
それ以外はなんというか、かなり雑。ちくま文庫の『ビール世界史紀行』を始めとするビール本の受け売…り、時々致命的に間違ってるという感じ。
全体としてエール、ラガーの二分論を前提としているが、Oxford Dictionary of Englishでは現代語とての"ale"を「ラガー、スタウト、ポーター以外のビール」と定義しているように、上面発酵・下面発酵の二分法をそのままビールの種類に敷衍するのは無理がある。また元はメルマガで配信していた内容を下敷きにしているとのことで、そのせいか言っていることが変わっていたりもする。プロイセンとバイエルンとフランク王国が並立していたドイツとか、そんな時空どこにも存在しねえよ。講談社学術文庫編集部、大丈夫か?メチエでもヤバいわ。でも一番のアホはこんな本をメチエと学術文庫で二回も買った俺自身。
続きを読む投稿日:2019.12.12
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西洋中世奇譚集成 魔術師マーリン
ロベール・ド・ボロン, 横山安由美 / 講談社学術文庫
光と闇が合わさり最強に見えるマーリン
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13世紀初頭(訳者解説によれば1210年頃)にロベール・ド・ボロンによって書かれた『魔術師マーリン』の翻訳。マーリンの誕生からアーサー王の即位まで。アーサー王の父ウーサー(本書ではユテル)の代が中心ア…ーサー王伝説で言えば前日談から本編プロローグ部分に相当します。
解説によれば、ウェールズの伝承にある王子?ミルディンとブリタニアの歴史の中で語られた夢魔と人間のハーフであるメルリヌスをジェフリー・オヴ・モンマスが一つにまとめ、そこに本書の著者ロベールがキリスト教説話的な要素を加えたのが本書とのこと。マーリンの予言者としての能力については夢魔(悪魔)が反キリストを生み出すために与えた過去を知る能力に加え、それに対抗して神が与えた未来を知る能力を併せ持つことによるものとされています。つまり神と悪魔の力を併せ持った、当時の人が考えた最強の魔術師がマーリンというわけです。
アーサーの他はケイが少し、ガウェイン、ガレス、モードレッドが顔出し程度で、その他の円卓の騎士は出番なし。マーリンが湖の乙女ヴィヴィアンに監禁される件もなし。若干、原作者の解釈違いが危惧されるものの、ケイの小物ムーヴに「乳母に育てさせたからひねくれた」という説明がされていたり、本編への理解が深まる記述もあります。アーサー王伝説の作中の時系列的には最初の部分になりますが、入門書には向きません。とはいえ一通り流れを抑えた上で、中級編として読むのであればお勧めできます。 続きを読む投稿日:2020.01.15
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人口で語る世界史
ポール・モーランド, 渡会圭子 / 文春e-book
人口しか語らない世界史
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原題は"The Human Tide"。圧力と動きをイメージさせるタイトルです。
著者は度々マルサスに言及するものの、世界規模で食料を生産し輸送する状況で一国ごとの人口をマルサス的に論じるのはナンセ…ンスと言わざるを得ません。食料生産と人口について論じるのであれば、食糧生産・消費ネットワーク全体で語るべきでしょう。また20世紀におきた「緑の革命」とも呼ばれる穀物生産の拡大についても言及しておらず、本当に人口しか語るつもりがないということが分かります。じゃあマルサスとか言うなよ。
また著者は人口の多寡で説明つかない時は「人口は多かったけど工業が未発達だった」という説明で済ませてしまっているため、本書の内容から言えるのは「同じくらいの発展段階であれば人が多いほうがつよい」という程度のことでしかありません。人口が多く労働力が安価だったため、機械化への動機が少なかったとか、実際そういった研究も数多くあるにもかかわらず、かたくなに人口しか語らないのはいっそ潔いといえるかもしれません。 続きを読む投稿日:2020.03.12
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砂と人類:いかにして砂が文明を変容させたか
ヴィンス・バイザー, 藤崎百合 / 草思社
ドキュメンタリー風
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セメントになったり、セメントと混ざってコンクリートになった、ガラスになったり、シリコンチップになったり、水と一緒に地下深くに撃ち込まれたりと現代文明のあちこちで不可欠な働きをしている砂。一方で用途が…広すぎて資源として枯渇が危惧されたり、採掘による周辺環境への影響が取り沙汰されている。著者はジャーナリストで、本書もインタビューや調査を元にしたドキュメンタリーを思わせる構成となっている。科学や歴史の啓蒙書というよりは、砂にまつわる問題を知らしめることを目的として書かれているように思われる。
科学的な典拠となっているのが、ポピュラー・サイエンス(一般向け自然科学啓蒙書)だったり、修士論文だったりで、信頼性に欠けるとまでは言わないものの、もうちょっと頑張ろ?ちゃんと専門書に当たろ?という不満が残るものの、読みやすく分かりやすいので、まあ、許容範囲か。 続きを読む投稿日:2020.04.08
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ヴァイキングの暮らしと文化
レジス・ボワイエ, 熊野聰, 持田智子 / 白水社
ヴァイキングの日常生活
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「ザ・蛮族」として扱われることの多い「ヴァイキング」の日常生活と文化を描いた名著。専門的ではありますが読みやすく、幅広い層にオススメできる本です。
原題は"La Vie Quotidienne …des Vikings"、ほぼそのまま「ヴァイキングの日常生活」と訳せます。1992年に原著が出版され、2001年に邦訳(多分ハードカバー)、2019年にソフトカバーの新装版が出ており、電子版はこの新装版を元にしています。原著初版から30年、日本語版ハードカバーから20年くらい経っているものの、内容的な古さを感じさせないのは凄い。著者はフランスにおける中世北欧文化研究の大家だった方(2017年没)とのことで、やはりガチの中世史はフランスが強いなあという印象。ただ図版や写真はもうちょっと欲しかったです。 続きを読む投稿日:2020.06.08
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疫病と世界史(上下合本)
ウィリアム・H・マクニール, 佐々木昭夫 / 中公文庫
『世界史』だけじゃないマクニール
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マクニールの『世界史』(よく「東大生協で一番売れてる歴史書」みたいな売り方してるやつ)三部作の二作目。
紙書籍版は結構前の出版ですが、人の移動による伝播や集団内における免疫と周期的な流行を扱っていた…り、中々タイムリー。というか、むしろ時勢を受けて電子化したのかな。
個人的に三部作の評価は3(『戦争の世界史』)>1(無印)>2(本書)。当時の人の遺伝的特性や免疫なんて実証出来ないので、推論の域を出ない所が多いのがちょっと気になります。軍事的な勢力を「寄生」と見做して、疫病と比較したり、三作目は本書の内容を軽く踏まえた話になるので、本書も読んでおきたいです。三作目はマジ名著だから。 続きを読む投稿日:2020.08.01