豚山田さんのレビュー
参考にされた数
471
このユーザーのレビュー
-
殉狂者 上
馳星周 / 角川文庫
二つの時間軸で並行して謎を明かしていく様は非常に楽しい
2
30年前のスペイン・バスク地方を舞台に、テロ組織に身を置く事となった日本人と、彼の遺した謎に巻き込まれる事となった現代の息子の、裏社会に関わる者の苦悩を描いた作品。
主人公二人を用い、現代と30年前と…でシーンを交錯させながら、二つの時間軸で並行して謎を明かしていく様は非常に楽しい。
日本の裏社会で主人公が暴力と酒と女の狭間でもがくという作者のパターンからは離れていますが、ある意味ヤクザよりも無慈悲なテロ社会が舞台とあって何が起きるかわからない雰囲気は十分に楽しめます。
さて後半、どんなサプライズが待っているか。 続きを読む投稿日:2015.01.14
-
花火
太宰治 / 青空文庫
文学的な推理小説は凡人の身にはいささか酷なものが
2
文学的な推理小説とでもいうのでしょうか。
とにかく謎が謎を呼んでおいて、バッサリと結末を切られて終わってしまいました。
父は無実なのか。兄は本当に性根から悪かったのか。妹の最後の言葉は真実だったのか。…そもそもこのタイトルの意味は…。
文学的に言えばそれらの解答に大きな意味はないのでしょうが、凡人たる身にはいささか酷な結末かと。
とはいえ作者の意図も何となく伝わって面白かったです。
兄の小暴君ぶりに波立てられた感情を、妹の最後の「新しい言葉」で締められた時の感覚といったら。
作者はきっとそれがやりたかったのでしょうね。 続きを読む投稿日:2015.01.13
-
駈込み訴え
太宰治 / 青空文庫
このユダがまた落ち着かないこと
1
キリストと使徒の物語。
ユダの視点で「最後の晩餐」あたりの様子が描かれています。
同い年でありながら美しい師であるキリストに対し、複雑な眼差しを向けているユダ。
氏の作品を通じていつも感じるテーマなの…ですが、今回も主人公は葛藤してます。
考えがあちらこちらと揺さぶられ、落ち着くところが無い。
このユダもキリストへの愛情が高まったかと思えば、復讐だと騒いだり。
自分の本心を隠そうとして嘘をつくのか、嘘をつく自分を振り返って正直であろうとするのか、とにかく気持ちがひとところに落ち着こうとしません。
これぞ人間……なのかな? 続きを読む投稿日:2015.01.08
-
恥
太宰治 / 青空文庫
太宰作品なのに、まさかの作家像が…
1
とある思い込みの激しい女性と、自虐的な作風が売りの作家との交流の物語。
冒頭から恥をかいたと憤る語りから始まり、最後にその内容が明かされるのですが、徐々に読者の気分を高めて焦らして「これは恥ずかしいな…ぁ」と苦笑いをさせられてしまう展開には感心しきり。
氏は人間の負の部分が分かっているというか、この場合であれば人が恥ずかしいと感じるためにはどうすべきかがよく分かっているという感じで、つい主人公に同情をしてしまいます。
それにしても、今回は氏の作品にしては見たこともない様な作家像が。
これが氏の本当の姿?
まさかね… 続きを読む投稿日:2015.01.08
-
お父さんのバックドロップ
中島らも / 集英社文庫
派手さはないけど、別れが惜しくなってしまう。そんな父ちゃん。
2
予備知識なしで読みましたが、なるほど児童書でしたか。
タイトルから期待したようなジーンとくる逸話とか、最後の大逆転的な展開等はありませんでしたが、江戸っ子的父ちゃんの奮闘ぶりが後からじんわりと胸に沁み…てきて心地よい。
派手さはないけど、別れが惜しくなってしまう作品という感じでした。
こういう父親って密かに憧れだったなぁ。
人前に出すとちょっと恥ずかしいんだけど、面白いことを何でも知っていて、日曜日が来るのが楽しみで仕方がないみたいな。
果たして自分はそういう父親になれたのだろうか?
図らずも振り返らされていました。 続きを読む投稿日:2015.01.04
-
来なけりゃいいのに
乃南アサ / 祥伝社文庫
嫌な奴ばっかで癖になる
5
読み始めの印象は最悪でした。
主人公含めどの登場人物も共感できず、気持ち的に盛り上がらないと憤った程でした。
ところが二話三話と読み進めるうちに、はたと気づいたのです。
出てくる人物、出てくる人物、と…にかく嫌な奴ばかりでこうして苛立たされてはいるが、それってつまりこの本からそういう感情を引き出されているのではないか、と。
そしてそれも一つの「面白い」の形なのではないかと。
実際、最後の方はそれが癖になっていて、むしろ次はどんな嫌な奴が出てくるのかと楽しみな位でした。
面白かった。
秀逸なのは表題作。
見事に騙されました。 続きを読む投稿日:2015.01.04