rossoさんのレビュー
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空飛ぶタイヤ(上)
池井戸潤 / 講談社文庫
現実は小説のようにはいかない
38
「半沢直樹」シリーズの池井戸潤が書いた長編小説。
三菱ふそうのリコール隠し事件を題材とした話で、主人公は事故を起こしたトラック運送会社の社長。この社長のキャラクターが実に良い味で物語に深みを与えてい…る。
主人公、赤松が経営する赤松運送のトレーラーから走行中突然タイヤが外れ、そのタイヤが歩行中の女性に激突、女性は即死した。事故は赤松運送の整備不良と決めつけられるが、整備を担当した社員の仕事ぶりを確認して、これは整備不良では無いと赤松は確信、トレーラー製造元のホープ自動車は赤松運送の整備不良と断定するが、、、
不審を持った赤松の元にホープ自動車自体のリコール隠しが原因という情報がもたらされ、赤松はホープ自動車、取引銀行のホープ銀行、赤松がPTA会長を務める小学校のPTAなどと戦いつつ、真相を探っていく、と言う話。
物語では池井戸潤お得意の大逆転によりカタルシスのある物語となっている。読み応えもあり大変面白い。
ただ、この物語の題材となった現実の運送会社は赤松運送よりもっと零細な会社で、「人殺し」などの中傷ビラが貼られ、無言電話などの嫌がらせが続いて廃業に追い込まれている。
また、被害者の弁護士は原告に無断で損害賠償金額を引き上げた訴訟を起こし、500万の損害賠償金額を一切原告側に渡さず、横浜弁護士会から懲戒処分を受けている。
現実は小説より醜い。 続きを読む投稿日:2014.03.18
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万能鑑定士Qの最終巻 ムンクの〈叫び〉
松岡圭祐 / 講談社文庫
全くどうでも良いことではあるが
11
このシリーズはずっと角川から出していたのになぜ最終巻だけ講談社?
小笠原君の元職から考えてそこが違和感。
小笠原君が角川を首になった件と言い、作者と角川になにかあったのかな?
読み終わったので追記
…前作に当たる「探偵の鑑定II」では小笠原君の扱いがあんまりだなぁ、と思ってたけど、上手いところに収まってまあ満足の結末。
ところで、小笠原君って立教の文系だよね?。なんであんなに数学出来るの? 続きを読む投稿日:2016.08.09
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荒野の天使ども 1巻
ひかわきょうこ / LaLa
史上初めて成功した西部劇少女漫画
9
開拓時代のアメリカ西部を舞台にした少女漫画は本作以前にいがらしゆみこの「メイミー・エンジェル」があるが、前作(キャンディ・キャンディ)の影に隠れてか、一般的評価としてはあまり成功した作品とは言えないよ…うである。
本作はおそらく史上初めて連載当初から圧倒的な人気で迎えられた西部劇少女漫画であろう。
簡単なあらすじを書くと、
不良少年同士ででつるんで旅をしていたダグラス、カード、ジョエルの3人は駅馬車強盗騒動から8歳の小生意気な少女ミリアムと出会い、ミリアムの圧倒的なパワーに巻き込まれてミリアムとともに住むグレースの牧場で働くようになる。その後、グレースを狙う町の有力者ハレンバーグや旅先でダグラスたちと賭博をきっかけにトラブルになったブライなどとの対立を経て、町の黒幕Mr.ブルーの強盗計画を知ることになり・・・
と言う話。
ひかわきょうこの作品はすべてに共通して「ストーリー漫画でありながらじわじわくる遅発信管性のギャグ」「メインキャラのけなげさ」がある。本作以降の作品はファンタジー・アクションだが、本作以前の学園恋愛ものでも以後の作品でもこの点が共通しており、そこが作品の好感度を高めていると思う。
また、小物キャラ(マスコットキャラ)の扱いが抜群に上手いのも本作以降の特徴で、本作の子豚のウィリー、続編の馬のジェシー、「お伽もよう綾にしき」の狐の五郎太や角丸などのもののけ、ちょっとかわいそうな扱いだが「彼方から」のチモなどが実に良いタイミングで良い味で出てくるのである。
1980年代前半から1990年代前半までの白泉社系コミックスは以前のレビューにも書いたが名作が目白押しであった。この頃の白泉社に特徴的なのは「花とゆめ」「LaLa」ともに少女漫画誌でありながら男性読者も多く掴んでいたことで、本作もその一つである。
アシスタントを使わずにすべて自分で書いていたこと、病気がちであることなどのため寡作ではあるが、漫画史に残る作家の一人だと思う。 続きを読む投稿日:2014.10.27
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アルスラーン戦記1王都炎上
田中芳樹 / らいとすたっふ文庫
まず完結させて欲しい
9
出世作である「銀河英雄伝説」以降、田中芳樹が希代のストーリーテラーである点は疑いようが無いと思う。
また、どこかで作者が書いていたことであるが、「今の出版業界では書きたいものを書きたいというのはお…かしい」というのもまあ分からなくも無い。
それは良い。そこまでは良いんだが、
だったら、作品ちゃんと完結させろよ、と。
「創竜伝」は既に完結不可能な領域に達しているだろう。
「銀河英雄伝説」「マヴァール年代記」は完結したが、それ以外のシリーズ作品で完結したものが原案のみの「野望円舞曲」「KLAN」だけというのは(まあKLANは1話目のみ田中芳樹作ではあるが)あんまりではないか?
本作の他にも「タイタニア」「七都市物語」「灼熱の竜騎兵」「自転地球儀世界」などが未完成のまま残されているのである。
「書きたいものを書きたいようにかけない」と言うのは良い。だが、シリーズである以上完結させるつもりで書くというのも作者の責任では無いだろうか? 続きを読む投稿日:2015.01.11
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ウィンブルドン
ラッセル・ブラッドン, 池央耿 / 東京創元社
最高のスポーツ小説であり、最高のサスペンス小説
7
今回の配信で「うぉっ!」と声が出た。実は再版のアナウンスは知っていて電子書籍が出るかどうか分からなかったので文庫版で買ってしまったのだ。それでも改めて電子版でも買ってしまうぐらい、本作はすごい。
…私が初めて出会ったのは今を去ること20数年前。当時コバルト御三家の一人と呼ばれていた久美沙織の書いた書評からだった。当時はテニスをやっていたので「面白そうだな」と何気なく買ったのだが、一気に作品世界に引き込まれたのを良く覚えている。そして、一度でも本作を読んだことがある人は今回の再版に関して私と同じ感想を持ったであろう。
「やっと返ってきた」
と。
実際、http://www.excite.co.jp/News/reviewbook/20141112/E1415724218274.htmlにも熱い思いが語られているし、他のサイトでも再版を喜ぶ声がいくつも上がっているのだ。
あらすじは、、、
テニス世界ランク2位のオーストラリア人ゲイリー・キングは全豪オープンの前哨戦で17歳のソ連(本作の出版時は冷戦期だったのだ)の天才プレーヤー、ツァラプキンと出会う。言葉も通じない二人だがテニスを通じて心を通わせる。
だが、そこは冷戦期。キングと仲が良くなったこと自体がソ連幹部の不興を買い、その後のわずかな誤解からツァラプキンはオーストラリアに亡命することになる。
やがて2人はウィンブルドンの決勝を戦うことになるが、その舞台の裏では卑劣な犯罪が計画されていて、、、
と言う話。
とにかく、あらゆるシーンが圧巻。ランキング1位のアメリカ人プレーヤーの罠により怪我をさせられたキングの復讐をツァラプキンがもくろむシーンなんか、最後の犯罪とは全く関係ないのにすごい迫力があるし(これだけでひとつの小説にして良いぐらい)、もちろん最後の決勝戦やそれに絡む犯罪も恐ろしいほどの迫力がある。ツァラプキンは今日のプレーヤーで言えばロジャー・フェデラーを彷彿とさせる美しいテニスを展開させるし、キングはキングで片手打ちのバックハンドから豪球を叩き出してくる。
錦織圭の活躍でテニスに興味を持った人はもちろん、スポーツ好き、サスペンス好きのあらゆる人にお勧め出来る最高の小説である。 続きを読む投稿日:2014.11.20
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ボクを包む月の光-ぼく地球(タマ)次世代編- 1巻
日渡早紀 / 別冊花とゆめ
最初は違和感があるが読み進めるほど面白い。
7
「ボク球」(「ボクの地球を守って」)をリアルタイムで読んでいた世代なので、当初は絵が違いすぎてこの作品にかなりの違和感がありました。が、読み進めていくほどに元の「ボク球」ワールドに入り込んでいく感じ…で面白さが増していきます。ただし、違和感があっても必ず最初の「ボク球」から読んで下さい。幸いリーダーでも配信されています。 続きを読む
投稿日:2013.09.27