
沈黙のフライバイ
野尻抱介
ハヤカワ文庫JA
宇宙開拓への限りない希望と愛を感じる
著者の宇宙開拓愛をすごく感じる作品集。野尻作品に共通しているが、読むと「夢をあきらめない!」「いい思い付なら、まずはやってみよう!」「未来は開ける」という非常に前向きな気持ちにさせてくれる。地球にフロンティアが殆どなくなってきた現在、宇宙開拓という分野にこそ、人が夢をかけて行動しつづける価値があるんだ!あきらめるな!という著者の熱い思いが行間から伝わってきそう。5つの短編からなる本書、表題の「沈黙のフライバイ」は異星人とのファーストコンタクトを描いた作品で、カールセーガンの「コンタクト」の冒頭ような知的な謎かけにあふれ、5編の中では一番壮大。他の4編も、著者ならではの技術、科学のな豊富な知見に基づいた説得力のある宇宙科学開拓小説になっており、どれも登場人物の思いがあふれてきそうな魅力的な作品になっている。
6投稿日: 2014.09.22
アコヤツタヱ(1)
佐藤将
マンガボックス
古代日本の歴史 その裏舞台で何がおこっていたのか?
日本の古代史に興味のある人は、発見や気付きを楽しめるマンガ。設定年代はおそらく古墳~飛鳥時代くらいではないだろうか?青銅から鉄へと金属加工技術が変って行く時代を描いている。舞台は淡海(琵琶湖の近く)と思われ、鉄の加工技術を持つ村と持たない村の争いや政治がテーマになっている。教科書や歴史書の解説とちがって、その時代に生きていた人達の生の生活や文化、政治的かけひきが等身大で描かれている。フィクションが多いのだろうが、いかにも「ありそう」な演出なので読んでいて違和感はあまりない。古代歴史の表面には現れない、ムラや民の暮らし、文化、政治、争いという歴史の裏舞台への興味を喚起されるという点で楽しめた作品。続刊も買うと思います。
0投稿日: 2014.09.22
鬼の跫音
道尾秀介
角川文庫
こんな時、人は人を殺す。怖っ!
怖い本です。友人を、恋人を、両親を、妹を、殺す。自分が自分を保つために殺すしかない。そして一層の絶望にさらに落ちていく。誰もがもっている心の暗い部分をえぐり出して、殺人という極端な行動で表現しています。動機や謎かけが上手いので読みやすくて、ミステリーやダークファンタジーとしても十分に楽しめました。でも、結局のところ「ああ、俺も一つ間違えばこんなことしてしまうのかも」という恐怖を植え付けられ、同時に「自分の心をちゃんと前向きに保たなきゃ」という考えを無理やり呼び起されました。面白いですが、本自体も、読んでいる自分も怖かったです。
6投稿日: 2014.09.19
新装版 風果つる街
夢枕獏
角川文庫
俺にはこれしかない。一点に生の全てを注入した男だけが持つ魅力を味わえ
ボロボロな生き方だけど、潔くてカッコいい。一生を将棋にささげつつも、どうしてもプロ棋士になれなかった男の成れの果て。かけ将棋だけで生きる「真剣師」として生きる男たち。生活は苦しくとも、将棋という「俺にはこれしかない」「これだけは譲れない」という一点を持つ者の生きざまが、そぎ落とされたシンプルなカッコよさにつながっている。プロになれなかったという敗者としての過去すら、男の魅力の一部になる。夢枕獏だけど、伝奇・SF・ファンタジー要素を全て排したシンプルで骨太な味わい深い作品。面白い本だと思います。
5投稿日: 2014.09.19
チンネの裁き・消えたシュプール
新田次郎
新潮社
山岳モノとしてはさすがに本物。ミステリーとしてはイマイチ
新田次郎さんのミステリー短編集。30分~1時間位で読める短編が4本。どの短編もさすがに山の表現、登山のディテールは本物の重厚感とリアルさが素晴らしい。この短編集では登山道具がミステリーの鍵として取り上げられていて、アイゼン、ピッケル、ストーブ、無線機等のつくりや構造の豆知識が得られた。岩登りの描写は、「いったいどんな場所だ?」と思わず興味をそそられてすぐにネットで検索して画像で確認。予想以上のハードな岩場で驚いた。そんな楽しみ方をするには面白い作品。ただ、ミステリーとしてはイマイチというのが正直な感想。昭和30-40年頃の山男・山女というのは実感としてよく分からないもののこういう人達だったのだろうか?そういう点では新鮮だが、謎の解決のものはあまり楽しめなかった。 個人的には最後の「消えたシュプール」は、ミステリー作品としても面白かった。
2投稿日: 2014.09.16
ドールズ 闇から招く声
高橋克彦
角川文庫
第一作ドールズを読んだ人なら絶対面白い。怖さで言うならこっちかも
書誌説明にもあるが、これは「猟奇殺人」が題材。グロさが苦手な人はちょっと厳しいかもしれないが、この本の面白さは他にある。全体としては殺人ミステリーなのだが、一作目同様に謎解きのアプローチの多様さが見事で、催眠術、犯罪学、解剖学、伝承、歴史など通常のミステリー作家だと使わないようなアプローチで謎にせまる過程を贅沢に楽しめる。私は伝奇やSFを得意とするこの作家ならではの魅力が好きだが、本格推理が好きな人はちょっと邪道って思うかもしれない。あと、この本を読む前に一作目の「ドールズ」は絶対読んでおくべき。読んでおかないと面白さが百分の一になっていまいます。
2投稿日: 2014.09.16
ドールズ
高橋克彦
角川文庫
怪談?医学ミステリー?SF?見事な設定に導入部からグイグイ引き込まれる
ドールズというタイトルや表紙の人形っぽい画で、人形怪談っぽい恐怖小説を想定して読み始めました。そういう原初的な恐怖を書かせたらこの作家は上手い(読んでない人は記憶シリーズをどうぞ)!でも、この本はそれだけでなく、ミステリーとしても一級。主人公の少女にいったい何が起こったのか?医学からアプローチして謎を探る、伝承からアプローチして探る、その謎解きの過程を一緒に楽しめるのがこの本の魅力です。怖がらせることが目的の恐怖小説ではなく、しっかりとした謎の提示とユーモアある登場人物のかけあいが見事で、恐怖の中にも知性とおかしみを感じられる面白い本です。一気よみ間違いなし。読み終えた後、すぐに続刊に手を出してしまいました。
5投稿日: 2014.09.16
犬・犬・犬(1)
さそうあきら,花村萬月
ビッグスペリオール
サイコキラーに共感しそうになる、危ない本
タイトルは「犬」ですが犬をとりあげた作品ではありません。原作が「花村萬月」、画が「さそうあきら」というちょっと危ない人間や天才を描かせたら天下一品の作家同士のコラボなので、コミックだけど非常に読み応えのある、サイコキラーが主題の文学作品です。普通だとサイコキラーは絶対悪で恐怖の対象として描かれることが多いと思うし、サイコキラーの恐怖をどう逃れるかという一般人の視点に立った作品がほとんどだと思います。でもこの作品は、サイコキラーの日常や行動、思考にできる限り寄り添って描かれていて、思わず一種の共感を抱かせそうになる危ない本でした。心の痛み、肉体的な痛みを感じない主人公、通称「マヒケン(人としての感覚が麻痺している、賢)」は何のためらいも迷いもなく人を傷つけ、表情一つ変えず日常のように殺します。でも、「しかたないかも・・・」って思わせられるのが怖い!。この作品で一番面白いと思ったのは、世間から見たら同じ暴力である「やくざ」と「サイコキラー」を対比させることで、人間らしさの代表として「やくざ」を扱っているところです。やくざの親分自身がサイコキラーとの違いを語るセリフがものすごく心に響く。興味を持ったら読んでみて後悔はしないと思います。
1投稿日: 2014.09.10
剣闘士スパルタクス
佐藤賢一
中公文庫
スパルタクスの圧倒的な強さ!戸惑いと決断の人間らしさ
紀元前のローマのコロッセオで繰り広げられる、奴隷剣闘士の生死をかけたバトル!その頂点に君臨んするスバルタクス。前編では、彼が奴隷としてローマ軍に拉致されてからNO.1剣闘士として頂点にたつまでが語られます。遠く離れた過去の異世界での人事ではあるものの、同じ地球に生まれた人間とは思えない環境におかれ、まさに弱肉強食そのままの世界を生き抜いていくスパルタクスの生きざまが力強く描かれています。後半は、歴史でも有名な「スパルタクスの乱」に至る過程やその渦中での戸惑いと決断が描かれます。求められはじめたのは、剣闘士としての個人の強さだけではなく10万人近い、非力な奴隷のリーダーとしての決断。この過程での戸惑いや失敗、仲間との意見の相違など、スケールは小さいけど仕事の担当者からマネジャーになる過程での苦労に重ね合わせて読んだりしました。全体を通して力強さと爽快さ、そして人間らしい迷いに共感できる良作です。
1投稿日: 2014.09.08
星籠の海(上)
島田荘司
講談社文庫
謎の仕掛け、伏線のめぐらせ方、大作だけど一気よみさせるミステリー
半年に一度くらい島田荘司の作品にどっぷりつかりたくなります。この作品、上下巻合わせて3000円するので買う時にはちょっと勇気が必要でしたが、読後の充足感で元は取れた感じです。著者の多くの作品の中でも、著者が仕掛けた謎や伏線の多様さは群を抜いてるように思います。瀬戸内海のある島に連続して浮かぶ謎の水死体がミステリーの始まり。世界に類を見ない瀬戸内海の特殊な環境をベースに謎を解き始める御手洗。これだけでも一体なんだろう?という気付きに満ちています。さらに数百年の瀬戸内海の歴史から宗教や国際犯罪まで、ストーリがどんどん展開していきます。これだけ詰め込むと伏線も破たんしそうですが、そこは島田荘司。上下巻だいたい1500ページを最後まで一気に読ませる展開と、全てを納得感ある結論にもっていく手腕はさすが!。ちょっと値段は高いけど、週末どっぷり楽しむには満足です。
3投稿日: 2014.09.08
