くっちゃね村のねむり姫さんのレビュー
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人形たちの夜
中井英夫 / 講談社文庫
タイトルや作品情報から受けた印象とは少々異なりました
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作者が「あとがき」に書いているように、連作長編のスタイルでありました。春夏秋冬の季節に従って、1年間かけて連載されたものだそうで、それぞれが独立していながら、つながっているようにも思えるような構成に…なっていました。
正直言って、もっとおどろおどろしい物語かと思っていましたが、そうでもなく、しかし、不思議な世界が広がる小説ではありました。
私は「秋」の章が好きかな。旅先で読むにはもってこいかもしれません。 続きを読む投稿日:2023.08.14
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空白の日本史
本郷和人 / 扶桑社BOOKS新書
歴史上の空白とは何か。それにはどうも2種類あるようで。。。
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歴史ブームですよね。その一方、我々世代が授業で習ったこと、イイクニツクロウ鎌倉幕府の年号が変わったり、足利尊氏を描いたものと教科書に載っていたものが、実は違っていたり、坂本龍馬が教科書に掲載されなく…なるという噂まであったり。。。そして、歴女が流行ったり、それを受けてか、テレビ番組でも、至極真面目な番組から歴史バラエティーまで、実に様々な様相を呈しています。
本郷先生も様々な番組に登場されています。千田嘉博先生の著作を読んだときにも思ったのですが、やっぱりテレビでは制約があるのか、かなり言いたいことが腹にたまっているようで、この本はそんな本郷先生の鬱憤を晴らしながら、時折奥さんとのノロケ?なんかも挟み込んで、なかなかの一冊になっておりました。
まず冒頭は、いつから天皇が伊勢神宮が参拝するようになったのか?という疑問が示されます。国分寺、国分尼寺を全国に設置したのは天皇でしたし、大仏さんを作ったのも天皇でしたよね。
そして、私が以前から疑問に思っていたのは、平安時代は、男が女性の元に通っていましたよね。いつから変わったのかと言うことです。これについても記述されていました。
歴史上の空白とは、文献など記録そのものが欠如している時代も当然指しますが、それ以外にも、何故か、敢えて誰もその部分の研究調査を行っていない事項もあるとのこと。この2つがあるという事実を知っただけでも、この本の価値があるというモノです。 続きを読む投稿日:2023.07.08
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なぜ男は女より早く死ぬのか 生物学から見た不思議な性の世界
若原正己 / SB新書
疑問の答えはあっさりしていますが、その他興味深い話満載でした
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私にとっては少々難しい話が続きました。そしてなかなか命題の解明までには到らないのです。ま、それも当然で、答えを理解するに必要な予備知識が必要なんですね。そのため生物学的解説が延々と続きます。しかし、…これが大変興味深いものでありました。
タイトルのギモンに対する答えは、やはり遺伝子、染色体が問題とのこと。それよりも、他の部分の話に興味が尽きません。iPS細胞についても勿論言及されています。また昨今話題となる同性婚でありますが、男と男の間でも子供を理論上作ることができる、ただし、子宮がないので借り腹が必要となる。一方、女と女の間でも勿論、子供を理論上作ることができる。子宮もあるしね。但し、生まれてくるのは女の子だけ。ということになります。倫理上の話は別ですよ。その詳しい内容は、この本を読んで下さいね。
タイトルから離れた内容の方が多かったような気がしますが、知的好奇心をくすぐる、大変面白い一冊でありました。 続きを読む投稿日:2023.06.06
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半島
松浦寿輝 / 講談社文芸文庫
摩訶不思議な世界に誘ってくれる一冊でありました
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他の人はどうなのかわかりませんが、物語を読むとき、たとえばこの本のように半島という舞台が設定されている場合、私は頭の中にその地域の地図を想像して描いてみます。「半島」というのは、ある種の閉鎖空間です…よね。でも、この小説においては、まったくその絵を描くことができず、どのような街なのか、施設がどのような配置なのか、まったく想像ができない複雑怪奇な世界でありました。また、幾つかの章に分かれていますが、それぞれが関連があるような、ないような、また関連があっても少々テイストが違うような気がするなと思っていましたら、著者のあとがきによれば、楽しみながら書いて、そのつど雑誌に発表したとありました。
ただ普通に興味深く読み進めていたのですが、この本の最後に掲載されていた三浦雅士氏の解説(単なる小説に、詳細な解説があるのも面白いのですが)を読んで、あ~なるほど、そう言うことでこの小説は優れた作品なんだと改めて認識しました。自分の読解力のなさをまざまざと見せつけられた気がします。コレを踏まえて、いずれ再読してみたいと思います。 続きを読む投稿日:2023.06.06
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幻想郵便局
堀川アサコ / 講談社文庫
最初は、作者の構築した世界になかなか入り込めなかったのですが
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これも一つのファンタジーだと思うのですが、この分野はまず、作者が想像の中で構築した世界に我々読者がうまく入り込むこと、つまり物語にのめり込むカギとなります。
それ点からいうと、最初のうちは何が何…だかわからず、少々戸惑いました。話としては最初から面白いことは面白いのですけどね。そのうち、あ~なるほど、こういう世界が描かれているんだとわかってきましたよ。
作者のあとがきの冒頭、「心霊スポットで働いていたことがあります。」この一言で一層わかり合えた気がします。ヒトは死んでも消えていない、いや消えてたまるか、この思いがモチベーションだったんでしょう。なかなか含蓄ある話ではありました。それに、捜し物が得意だという主人公の設定も面白いですよね。友達に一人いると便利だろうなぁ。あと幽霊も飯を食うのでしょうか? 続きを読む投稿日:2023.05.08
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ツタよ、ツタ
大島真寿美 / 小学館文庫
真実を元に書かれたノンフィクション風フィクションでした
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冒頭から、どこか普通の小説ではなく、詳細な調査に基づいたルポルタージュ風に書かれています。それが次第に物語調になるのですが、そこが作品として功を奏していた気がします。勿論、本の最後に掲載された「本書…のプロフィール」欄には「本作は、実在の人物をモチーフにしたフィクションです。」と改めて断り書きがありました。幻の作家本人の心情については作者の想像なのでしょうが、第三者的視線で語られているような書きぶりにより、その状況がよくわかった気がします。
物語は琉球王の東京転居から始まりました。その後のツタの数奇な運命は、弁舌尽くしがたきと、言ったところです。と同時に、とても興味深いものでありました。そしてペンネームを使っての投稿が、別の自分になる方法だったというのも、何となくわかります。また、沖縄出身と言うだけで差別を受けていたというのも驚きでした。そして、その書いた小説に対する批判。よくあることかもしれませんが、詳細な内容も知らずに、ただ雰囲気のみで中傷する輩は、今でもいますよね。全体を通して、どこか救いようのない話に見えますけど、親友キヨ子との合奏の場面は、ホッとするシーンでした。双方がピアノもヴァイオリンが弾けて、ましてや、大人になってから、ずっと触っていないかったにも関わらず合奏できると言うことは、かなり基礎がしっかりしていたのでしょう。
それから、トートーメーに関してですが、いくら沖縄の話を知らないと言っても、子供達や孫達までそのお守りを拒否する心持ちというのは、ちょっと理解しがたい気がしました。
結局、彼女は最後の最後にツタ自身に戻れたのでしょうか?それとも、ずっと千紗子を演じていたのでしょうか?「ツタよ、ツタ」というタイトルは、作者大島満寿実の呼びかけなのでしょうが、私には、本当の自分を生きることができなかった、ツタの自身への呼びかけのような気もするのです。 続きを読む投稿日:2023.05.08