くっちゃね村のねむり姫さんのレビュー
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ねえ神様、なぜわたしにネズミをくれたの?
上原愛加 / サンマーク出版
あなたにとって幸せってどういう状況のこと?
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「どうしたら幸せになれるんだろう」この疑問を主人公が呈するところから物語は始まります。でも問題は、彼女にとって、どういうことが幸せなのか、これが一番重要だと思うんだけどな。
被災地で、電気も水も…なく、寒くて寒くて眠ることさえできない避難生活をしている人は、今1枚の毛布さえあれば、と思うでしょうしね。だから、どうしたら幸せになれるのか、という問いは、まさに今、幸せの実感がないことにほかなりませんが、自分にとって、どうなることが幸せなのかを、まず問わねばなりません。
そして著者の言う、「誰もが持つ、心の中の悲しみを抱きしめる。」というのは、結局、自分の幸せは他人の幸せを慮ることに繋がるのかもしれません。
NHKの番組「ドキュメント72時間」というものがあります。おそらく企画当初では、このような内容になるとは思わなかったのであろう奇跡のような番組だと思います。一カ所に三日間カメラを据えて、そこを訪れる人々にインタビューを行うという単純な内容ですが、人それぞれ皆、実に様々な悲しみを抱いて生活していることがわかります。その悲しみを共有することはできなくても、寄りそうことはできるのかもしれません。テーマ曲「川べりの家」の中で松崎ナオは、こう歌います。「幸せを守るのではなく、分けてあげる」こんな風に生きることができるならば。。。。 続きを読む投稿日:2024.02.05
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キッチンぶたぶた
矢崎存美 / 光文社文庫
時々、無性に読みたくなるシリーズです。今回選んだのはコレ。
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何故か時折、この作品の雰囲気に浸りたくなる不思議な小説です。何作もシリーズがあり、どれから読んでも大丈夫というところもありがたいですね。パティントンか、テッドみたいな映画化はされないのでしょうかねぇ…。絶対面白いモノが出来上がると思うのですが。
さて今回も、モフモフの中にほのぼのとしたモノを感じさせる珠玉の4編です。ホフホフのぬいぐるみがキッチンで料理しているのを想像するだけで、なぜか幸せな気分になりますし、一つ一つの話が、そうだようなぁと思わせてくれるのも嬉しい限り。
でもそのなかで、ちょっとだけ異色だったのが「鼻が臭い」という短編でした。コレについては作者の矢崎さん自身が「あとがき」の中で自身の鼻の不調がきっかけと書いておられました。
ま、兎に角、安心の一冊であります。 続きを読む投稿日:2023.12.31
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満願(新潮文庫)
米澤穂信 / 新潮文庫
私が一番好きな話は。。。。
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6編の短篇集なのですが、流石ですね。一つ一つの話は短いながらも読みごたえがあり、充実した感じでした。
中でも私が一番好きなのは「関守」かな。語り手が殺されてしまう話はよくある手法かもしれませんし…、途中から結末が見えてくる気もしますが、危ないぞ?大丈夫か?なんて感情移入してしまいました。人里離れた、滅多に人が来ないような峠の茶屋でおこる話は、如何にもありそうな感じで怖いですね。他の皆さんが絶賛している「万灯」もスゴイのですが、私には海外赴任の経験がありませんのでね。
人は誰もが心に闇を抱えているのでしょう。それは誰にも知られてはいけないことなのです。きっと。 続きを読む投稿日:2023.12.03
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都市と星(新訳版)
アーサー・C・クラーク, 酒井昭伸 / ハヤカワ文庫SF
タイトルからは想像できないくらい壮大な物語でありました
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アーサー・C・クラークの小説を読むと、どれを読んでも現在のSFの元になっているように感じます。この作品は調べてみると1956年に発表されたそうで、その創造力・空想力たるや驚愕ものです。今でこそ、スト…ーリーに描かれている場面を読者である我々は、何となく今まで見てきた映画やドラマをもとに頭の中で描くことができますが、発表当時に読んだ人はどうだったのでしょうか。そんなことさえ感じます。
さてもし、この小説に世界に生きていたら、ダイアスパーとリスのどちらの都市に住みたいでしょうか?人間が不老不死を願ってきたのは紛れもない真実ですが、私はどうかなぁ。それはそれでしんどいような気がしますけどね。
というわけで、タイトルは「都市と星」というものですが、人間の幸せって何?ってところまで問題提起しているような気がしました。さすがはアーサー・C・クラーク。SFを遙かに超えております。 続きを読む投稿日:2023.11.02
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ハンチバック
市川沙央 / 文春e-book
芥川賞選考委員の誰一人として、おそらく書くことができない小説
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ReaderStoreの作品紹介には文學界新人賞受賞選考委員の感想が書かれていますが、文藝春秋に掲載された芥川賞の選評も合わせて読んでみると、なかなか興味深いものがありますよ。難病の当事者だからこそ…書くことができた内容に、どこか戸惑いと羨望があるように思いました。
とりもなおさず私にとっては、知らなかったことの連続でした。あ~こんな風に感じているんだ、こんな風に考えるんだと、かなり衝撃的なものでありました。勿論、冒頭の「ツカミ」から本筋に入る構成力や筆致の見事さ、強さ、そして怒りさえ感じる文章には本当に引き込まれます。主人公ほどではないにせよ、当然そこには作者自身の体験が色濃く反映されているのでしょう。
私が一番衝撃だった描写は、「博物館や図書館や、保存された歴史的建造物が嫌いだ」というくだりです。主人公は、壊れずに残って古びていくことに価値を持つものが嫌いだと言います。その理由は、生きれば生きるほど、自分の身体はいびつに壊れていくから。生き抜いた時間のあかしとして破壊されていく体。これは健常者が死病にかかったのとも、老化とも違うと主人公は言います。私自身は、こんなことを考えたことはなく、かなりショックを受けました。
芸術的な純文学の短編に与えられるという芥川賞ですが、本好きの人でも敬遠する人があるかもしれません。でも、これは是非読んでほしい一冊だと思います。
ただ、私も最後に唐突に表れる短文?は、その付け加えられた意味がちょっとわかりませんでした。 続きを読む投稿日:2023.09.06
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最果てアーケード
小川洋子 / 講談社文庫
昔、私がよく通った小さなアーケードも、不思議な閉鎖空間でした
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昔、私が通学や通勤に使っていた路線の途中の駅にも、結構距離の長い、古いアーケード商店街がありました。そこには勿論、普通の?のお店もありましたが、ちょっと入るのが怖い様な漢方薬のお店や、飲食店などがあ…りました。また、本屋さんが3軒ありまして、その内の一軒は、古本屋と見紛うばかりの店構えであり、オマケに書籍の並べ方が無茶苦茶で、それがかえって面白く、よく通っていました。今は再開発で屋根を取っ払い、真ん中の道路を広くしたため、小洒落た店が建ち並ぶ明るい商店街になりました。しかし、往年のちょっと猥雑な雰囲気がなくなって、今一つ賑わいにかけるようです。
そんなわけで、この本のタイトルを見たとき、そのアーケード商店街を思い出しました。
本の内容は、どこか懐かしく、不思議な雰囲気を醸し出すものでありました。他の方が書いてあるレビューのとおり、読み終えた後、いつかもう一度読みたくなるような本ですよ。 続きを読む投稿日:2023.09.06